見出し画像

問いの再設定:「AGI後も人間は働くのか?」から「AGI後も人間の活動はお金と結びつくのか?」へ

AIが労働力を担う時代──人間は本当に働かなくなるのか?

「AIが進化して、ロボットが人間の仕事を代替するようになったら、多くの人が働かなくなってしまうのではないか」。近年、このような懸念や疑問が盛んに語られています。実際に、汎用人工知能(AGI)が実現し、高度なタスクや専門的な業務までもがAIに任せられるようになれば、従来「人間の労働」が担っていた領域が大きく変化することは間違いありません。しかし、「働かない」という状態がそのまま「人間は何も活動をしなくなる」という意味につながるのかというと、少々話は別です。私たちは本当に“仕事”を失い、やることがなくなってしまうのでしょうか? あるいは“働かなくても生きていける社会”が到来したとき、人間の活動はどのように変わっていくのでしょうか。

活動=労働=お金による報酬という図式は絶対ではない

これまでの社会では、「労働して賃金を得る」というお金による報酬の構造が当たり前に根づいていました。けれども歴史を振り返ると、お金が今ほど強い力を持ちはじめたのは近代以降のことで、原始時代や、経済が十分に発達していなかった時代の日本(江戸時代以前など)には、必ずしもお金を媒介とした経済活動だけが人々の暮らしの中心ではありませんでした。もちろん物々交換や贈与は存在し、お金そのものも形を変えて広がっていましたが、「人間の活動=お金で交換」一辺倒ではなかったのです。

この事実が示すのは、私たちが「仕事」と呼んでいる活動が、必ずしも“お金のためだけ”ではなくても成立し得る、ということです。AIが労働力を担い、“働かない”で生活できるような社会になったとしても、人間が自発的に何らかの活動に取り組む可能性は大いにあります。

人間のモチベーションは多様であり、お金に限られない

仕事をする理由は、お金を稼ぐためだけではありません。誰かの役に立ちたい、世の中を良くしたい、自己実現や創造的な活動をしたい——こうしたモチベーションは、日常的にたくさんの人を突き動かしています。SNSの「いいね」やフォロワー数といった“評価指標”が既に大きな動機づけとなっていることを見れば、私たちはお金以外の軸でも十分に行動を起こすことが分かるでしょう。

このように、活動とお金の結びつきは時代によって強弱が変化してきました。AIによる労働の自動化が進めば進むほど、「お金を得るための仕事」という従来のモデルが揺らぎ、人間の活動が“別のモチベーション”に基づいて展開されるケースも増えていくと考えられます。

AIが労働を肩代わりしても、活動は消えない

では、AGIがさらに高度化し、ほとんどの仕事を肩代わりしたとしましょう。日常的なサービスや生産活動がAIやロボットによって賄われ、生活に必要な物資やエネルギーが潤沢に供給される時代が来るかもしれません。そのような社会で、人間は本当に働く必要がなくなるのでしょうか?

ある意味では「働く必要が薄れる」かもしれません。最低限の生活がほぼ自動的に保障されるようになれば、「生きるための労働」は不要になります。しかし、だからといって、人間の活動がゼロになるわけではないはずです。たとえば芸術・創作・学術研究・スポーツ・趣味や娯楽などの分野で、人は自由な発想で行動を続けるでしょう。そこでは、必ずしも“お金”が主たるモチベーションにならなくても、人間の内面から湧き出る情熱や好奇心が大きな原動力になるのです。

お金の役割はどう変わるのか?

AIやロボットが生活を支えてくれるようになった社会を想像すると、お金の存在意義も変化していく可能性があります。もしかすると、最低限の衣食住は誰でも手に入るようになるかもしれません。そうなれば、「お金がなければ生きていけない」という切迫感が大幅に減少するでしょう。

一方で、高度専門的なサービスや贅沢品、あるいは希少価値の高い体験を望む人は、依然として“交換手段”を必要とするかもしれません。そこでは法定通貨だけでなく、暗号資産やポイント経済、SNS上のレピュテーションなど、多様な仕組みが並立する未来も考えられます。つまり、お金は「完全に消失する」というよりも、「生活必需品を得るために必要な存在」から「より特殊な目的のために使われる選択肢」へと変わる可能性があるということです。

活動とお金の結びつきが問い直される時代

本稿の大きなテーマは、AI時代の人間の活動が「お金」とどのように結びついていくか、あるいは切り離されるか、という点にあります。AGIの進歩によって仕事や労働の在り方が変わるとき、私たちは「活動=労働=お金による報酬」という当たり前の図式を問い直す必要が出てくるでしょう。

  • 活動とモチベーション
    お金がなくても人が動く理由はたくさんあります。自己実現や社会貢献、名声、承認欲求など、“働く”以外の軸で活動をする意義が高まる可能性があります。

  • 歴史的視点
    貨幣経済が社会を覆うようになったのは近代以降であり、それ以前は物々交換や贈与、地域コミュニティ内での助け合いなど、多彩な経済活動が営まれていました。この事実を考えると、お金が絶対の存在ではなく、状況によっては容易に変容する仕組みだと分かります。

  • 社会・政治の変化ペース
    もっとも、大規模な制度や政治体制が一夜にしてガラッと変わるわけではありません。ベーシックインカムや「ベーシックサプライ」のように、生活必需品を一律で保障する制度が実施されるためには、大きな社会的コンセンサスが必要です。ただし、技術や個人の選択肢は先に進み、結果として貨幣依存がゆるやかに減っていく可能性は十分にあるでしょう。

最後に:これからの「活動」をどうイメージするか

AIが台頭することで「人間は働かなくなるのではないか」という問いは、一見すると悲観的な未来予測にも思えます。しかし実際は、私たちは必ずしも「労働」と同義の活動を失うわけではありません。むしろ、生活を支えるためだけの仕事からは解放され、“やりたいこと”により多くの時間とエネルギーを注げるようになるかもしれないのです。

そうした未来を見据えたとき、改めて考えてみたいのが「活動とお金の結びつき」です。お金に縛られない生き方が広がるとすれば、人々のモチベーションはさらに多様化し、SNS上の評価やコミュニティ内での信頼、名声や自己実現など、さまざまな“報酬”が私たちの行動を支える軸になっていくでしょう。もちろん、お金がまったく不要になるわけではありませんが、その使われ方や役割は、今とは大きく異なる形をとるかもしれません。

要するに、「働かなくなる=人間の活動が消滅する」という単純な図式ではなく、「人間の活動がお金以外の価値指標に導かれる可能性」が大きいと考えられるのです。AIやAGIは、私たちにとって単に“仕事を奪う存在”ではなく、“仕事に縛られずに活動できる自由”をもたらす鍵にもなり得ます。そんな視点から未来を想像してみると、今後の社会には意外とワクワクするような可能性が広がっているのではないでしょうか。


いいなと思ったら応援しよう!