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140字小説(ついのべ)/ 1月10日はヒトの日にしようニャ他15作

2023年2月後半の140字小説(ついのべ)15作です。


「1月10日はヒトの日にしようニャ」「むなしく自滅した生き物を偲ぶ日ニャ」「愚かさを反面教師にするニャ」「しかし喉の撫で方は最高だったんジャよニャ……」「年寄りがまた思い出を語ってるニャ」「思い出は美化されるニャ」「それにちゅーるを発明した功績もあるニャ」「それはそうニャ」
(2023.2.23)


資産家の叔母が亡くなった。血縁は僕一人。「どうせあの冷酷女、遺産は全部犬にでもやるつもりだろ」「まさか」と弁護士は言った。「彼女は猫も飼ってたので」遺産は犬猫僕で三等分。ただし僕は犬猫の世話を義務とする。僕は笑った。『あなたに家族を残してあげる』叔母も笑った気がした。
(2023.2.22)


月に土地を買って喫茶店を開いた。最初の頃は客なんてほとんどいなかったが、宇宙港が出来てからはあっという間に人が増え街が栄え大忙しになった。しばらくは真面目に働いた。そして、貯めた金と店を売った金で、火星に土地を買って喫茶店を開いた。客なんてほとんどいない。今のところは。
(2023.2.21)


「綺麗だなあ」私の描いた絵を眺めてうっとりした目で友人が呟く。「最高。あんたの絵、大好き。私も、何でもいいからこんな綺麗なものを作れる人になりたかった」友人は知らないのだ。世界で一番綺麗なものを。綺麗なものを見たときの彼女の眼差しほど、綺麗で美しいものを、私は知らない。
(2023.2.27)


その年、大量の難民が逃れてきた。百年後の未来から。タイムマシンの性能上、跳べる限界が百年なのだそうだ。百年後の地球で何が起こっているのか、彼らはなかなか話そうとはしなかったが、ついに重い口を開いた。大量の侵略者がやってきたのだそうだ……百年後の、さらに遠い未来から。
(2023.2.26)


「お前に背骨を与えたのは私である」ドラゴンが言う。塔の姫が言う。ふらつく騎士が言う。名探偵が言う。迷える宇宙人が言う。吟遊詩人が言う。異形のばけものが言う。燃えた樹が言う。紙の上の文字の中から言う。「お前に背骨を与えたのは私たちである」さあ、立ち上がり、その砂漠を歩め。
(2023.2.26)


医者は言った。「最近増えてるんですよ。一種の進化なんですかね、強い想いの影響が体に及ぶ。健康上に問題はありません。染めますか?」いいえ、と私は首を横に振った。「この症状がでた方は皆そう仰いますね」鏡に映る私の髪は三色に彩られていた。半年前になくした愛猫と同じ模様に。
(2023.2.25)


「初恋の人に会いに行く」友人はそう言って、年に一度は墓参りに行く。敵わないなあと思う。どうすりゃいいんだと思う。敵はとうにこの世にいないし、会ったこともないけど、それは友人だって同じなのだ。遠い昔の文豪に妬いても仕方ない。でも、天才になりたい。友人にこちらを向かせたい。
(2023.2.24)


恋人が妖怪だったので、自宅にサウナを作った。しばらくサウナにこもってから飛び出すと、雪女である彼女の体はひんやりと冷たくて気持ちいい。サウナを介さないと冷たすぎて耐えられない。そして彼女の方はというと、僕の汗に耐えられないと言って、去った。
(2023.2.21)


姉が遠くの里に嫁いだというのは嘘で、実際には劣悪な場所に売られてすぐに儚くなっていた。嘘をついた家族をなじると、それが姉の望みだったと聞かされた。「あの子の心の中でだけは、私は幸福でいられるから」と。「だから僕は絵を描くのです」画家は語る。彼は幸福な姉を描き続ける。
(2023.2.21)


「人の寿命は短いと思っていたが、意外とそうでもないな。密度が濃いからかな」神族を降りて人となった友が笑う。共に歳を取りたいなどと言われたらそりゃ口説かれたと思うだろう。だがこいつにその自覚はないらしい。「まあいいさ」俺も笑う。「先は長いからな。人の寿命はそれなりに長い」
(2023.2.19)


生まれつき病弱だったお姉ちゃんは、たびたび近所の神社にお参りしていたのに二十歳までもたなかった。そこの神様が目の前に現れたから、「何が神様だ役立たず」と罵ると、「これから役に立ちに来たのだ」と言われた。私がいなくなっても妹が寂しくありませんように。それが姉の願いだった。
(2023.2.18)


少年兵とロボット兵が手に手をとって戦場から逃げた。そんな噂がたつ。もちろんそんなことがあり得るはずがない。だが夜な夜なこっそりその話は語られる。誰々は生きていて、ロボット兵とどこかで幸せに生きている。僕らもいつかそこへ行ける。叶うことのない夢物語が神話のように響く。
(2023.2.18)


村の外、山から少し降りた所に洞窟があって、その奥にはドラゴンが住んでおり、村の子供は皆その友達だった。成長してから知った。大人が積極的に子を洞窟に行かせるのは、ドラゴンに愛させるため。巨大なドラゴンが外へ出ようとしたら洞窟も山も村も壊してしまう。それをしないで貰うため。
(2023.2.16)


いらっしゃいませ。ここは『あとがき』の世界です。長い長い悲しく辛く輝かしい物語は終わってしまった。もう何も考える必要もする必要もないし、亡き人ともここではまた一緒にいられるのです。思い出を語りながらお茶を飲みましょう。ここには永遠があります。もう何も始まらないのだから。
(2023.2.23)


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