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140字小説(ついのべ)/「顔採用されまして」などと自分で言う探偵助手他15作

2022年11月前半の140字小説(ついのべ)15作です。


「顔採用されまして」などと自分で言う探偵助手君はかなりの美男子で、頬を染めた女達(ときに男も)が何でもボロボロ喋っており、確かにこれは捜査がやりやすそうだった。「肝心の人には効かないですけどねこれが」助手君の視線の先には名探偵がいて、人には人の悩みがあるのだなと思った。
(2022.11.13)


「私にもどうしようもないのよ」嘆く彼女はダイヤの精だった。所有者が必ず一年後に死ぬという呪われたダイヤの指輪。「僕が君の呪いを解いてあげるよ」「本当?」そして彼女は今、数ヵ月の余命宣告を受けた患者たちの手から手へ渡り続けている。あと一年を生かしてくれる祝福の指輪として。
(2022.11.14)


昔、同級生で、家族にとても可愛がられている女の子がいた。誕生日を毎月祝ってもらっていて、毎月ケーキを食べていた。あっという間に百歳になっちゃうじゃん、と私は思った。確かにその子はすぐ百歳になった。でも百二十歳にはなれなかった。そうなると知っていたのだ。家族も、その子も。
(2022.11.15)


その女性は文庫本片手に僕の喫茶店を訪れては、珈琲一杯で一冊読み切り、そのまま本を置いていった。僕はそれらを店の棚に並べた。ある日、珍しく彼女が喋りかけてきた。「読み返したい本があるんだけど捨てちゃったみたいね」「残念」僕は言った。「それは僕が読み終わるまで待って下さい」
(2022.11.14)


魔法使いになる夢を諦めて戻ってきた彼女に、村は冷たい。村の外れで薬師を始めた彼女を、周辺の町や村の魔法使いはせせら笑う。だが村の水害を救ったのは彼女の魔法だった。魔法使いになる最後の条件は『魔法使いであることを隠すこと』。彼女を笑った偽魔法使いたちは真っ先に逃げ出した。
(2022.11.12)


皆既月食。誰もがぽかんと月を見上げている。見つめている。ところで深淵をのぞくと深淵からもまたのぞき返されるという。「あそこのあれ、それからあれ、そっちのあれ……」月の姫の呟きを聞く者は地上にはいない。「あっちのあれも」月の姫に気に入られた『あれ』たちはじき月に拐われる。
(2022.11.8)


かつては、あの山にもあの丘にも、海にも川にも、あらゆるものに名前があった。ヒトが名付けた。ヒトが滅び、呼ぶ者がいなくなり、すべては名前を失った。私も、ヒトであった友を亡くしたときに、友が付けてくれた名前を失った。私はひとりだ。残るのはただ友の名前だけ。私が繰り返し呼ぶ。
(2022.11.8)


「実を言うと俺は賭けは好きじゃないんだ」友人との賭け将棋の最中のことだ。「勝つ見込みのない勝負はしない」「いつも俺とこうして勝負してるのに?」「賭けが焼き肉だからさ」「勝ち負けほぼ半々だろ?」友人は笑った。「俺に損はないんだ。勝っても負けても、お前と焼き肉が食えるから」
(2022.11.7)


森の奥に住む魔女の家に突然の訪問者がありました。「魔女になりたいんです。弟子にしてください」魔女は小さくため息をつきます。「本当に君がなりたいものは何? 魔女、それとも」「魔女になったら何にでも変身できるって」「女の子になりたいのね」魔女は優しく微笑みます。その男の子に。
(2022.11.6)


深爪しすぎたら虚無が開いてしまった。何を言っているのかわからないと思うが今一番戸惑っているのは僕自身だ。深く切りすぎたら内部の深淵まで届いてしまったのだ。自分の中にこんなものが潜んでいたとは驚きだ。ちなみに深淵だけあって、じっと覗いていたら誰かと目が合った。誰だお前。
(2022.11.5)


吸血鬼が初めて恋した相手は自殺志願者だった。もう何十回も失敗していて、でもただそれだけを望んでいた。永遠みたいな生を共に過ごすパートナーになって貰うことはその人にとっては地獄を意味した。「お前なんか大嫌いだ」その人に囁きながら、いつか自分が朝日を浴びる日のことを思った。
(2022.11.4)


「母は死んだ人の声が聞こえる人だったの。死んだ人の言葉を遺族に伝えて、わずかな謝礼しか受け取らず、物凄く感謝されて有り難がられてた。でも娘の、生きてる人の声は聞かなかった。だから私は郷里を出たし、母のようになりたくないから、貴方の声は決して聞かないの。どこか他へ行って」
(2022.11.2)


行方不明になった友人を探して、魔女の家にたどりついた。魔女は私にお茶とケーキを出して語った。「その子なら、有り金はたいて魔法の薬を買ったわよ。なりたいものになれる薬」「どんな姿になったの」「そのケーキよ」と魔女は微笑んだ。「あなたに食べられて、消えることを望んでいたの」
(2022.11.2)


ゴン、ごめん。僕は今ちょっと浮気してる。可愛いポメラニアンと。思いがけず早く逝ってしまった僕の心残りは愛犬のゴンだけで、でも妹夫婦が引き取ってくれたから安心している。いつかこの虹の橋でゴンに再会する日を待っている。でも少しだけ、同じく誰かを待っている犬と遊ぶのは許して。
(2022.11.1)


地上で悪魔に会えることは滅多にない。天使になら会える。天使なら天使の格好をして自分を天使だと名乗るし、悪魔なら人をあざむくために天使の格好をして天使だと名乗るので。ということで地上には天使があふれている。悪魔に会えるとしたら、それは魂を奪われた最後の瞬間であろう。
(2022.11.1)

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