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140字小説(ついのべ)/台所の床磨きをしていたら他15作

2022年11月後半の140字小説(ついのべ)15作です。

台所の床磨きをしていたら突然見知らぬマダムが現れた。ドレスや宝石を出して、華やかなパーティーに連れていってくれた。物凄く楽しかった。「なぜこんなことしてくれるの?」「証明するためよ」「女の子は誰でもシンデレラになれるって?」「女は誰でも魔法使いのおばあさんになれるって」
(2022年11月17日)

それを見た瞬間、「おいで、おいで、おいで」と三回唱えると、流れ星は僕に向かって落ちてきた。僕の額にぶつかって一回跳ねてから、手のひらの中に飛び込んだ。そして白と黒のちいさな仔猫になってニャアと鳴いた。だからこの子の名前はナガレボシ。僕の幸運そのもの。
(2022年11月29日)

それに気づいているのは猫のタロだけである。冬、人間たちがコタツに足を突っ込んでいるとき、ときどき頭数に比べて足の数が多い。コタツに潜るタロだけが知っている。あるはずのない足は少し冷たく、温かいコタツの中で寄り添うと気持ちいい。たまに冷たい手も現れて、タロを優しく撫でる。
(2022年11月18日)

浜辺で人魚に遭った。「私の肉を食べませんか?」夜の街で吸血鬼に遭った。「私に血を吸われたくないかね?」森で人狼に遭った。「俺の同族にならないか?」このところ人外がやたらとヒトをスカウトしてくる。仲間になれと。彼らも、もうじきヒトが滅びる気配を感じているのだろう。
(2022年11月20日)

金持ち専用のリゾートで会ったその女の子は、どこぞの国の王女様だそうで、僕が贈った貝殻に嬉しそうに微笑んだ。その後、クーデターでその国の王族はみな処刑されたと聞いた。そして十年。「依頼料は君がくれた貝殻よ」国際的大怪盗になった僕が、その言葉にどんなに興奮したかわかるかい?
(2022年11月21日)

「このあたり一面、どこまでもどこまでも、美しい花畑にしてやりたいのです」と青年は言った。「真ん中に妹の墓を作ります。そして一年中、色とりどりの花を咲かせます」そのためにこの醜い町を潰します。何もかも壊す。そして綺麗な花だけを咲かす。妹を追い詰めた奴等を決して許すものか。
(2022年11月23日)

空腹すぎてお地蔵様のお供えを盗み食いしたらバチがあたった。夢にお地蔵様が出てきて、隣町のどこぞまで自分を運べと言う。一輪車に乗せていった先はラーメン屋だった。店主はふんと唸って、僕にラーメンを食わせて、ついでにバイトに雇ってくれた。「俺も昔よく盗み食いしたもんだよ」
(2022年11月24日)

少年のころ故郷の山で会った雪女に再会した。とても寒くて、ああもう死ぬんだと思った。でも助かった。ヒマラヤ登頂を目指す途中で遭難したところを、救助隊に救われた。俺にはわかった。あの雪女が助けてくれたって。死ぬ程の冷たさの中で、死なない程の冷たさで、俺を抱いてくれてたって。
(2022年11月25日)

「僕と結婚して」「生まれ変わったらな」人が生まれ変わるものなのか、神狐は知らない。でもこの二人、少年と女戦士のやり取りを見ていると、昔親しんだ二人を思い出す。あれは男と少女で、全く同じ会話をしていた。互いを大切に想う心も同じで、だからこの二人があの二人だといいなと思う。
(2022年11月26日)

王政廃止のニュースが流れた翌日の朝、元王女は人のアパートに押し掛けてきて、「これで身分がどうのという問題は片付いたよ。結婚しよう」などと指輪を差し出してきて、あたしは頭が痛くなった。「まだ別の問題があるでしょ」「そっちもじきに片付くさ。今日も新聞記者の仕事? 付き合うよ」
(2022年11月27日)

四つかそこらで師匠に拾われて以来、妖怪退治のあらゆる技を仕込まれた。そして何の冗談か、最初に退治したのはその師匠その人だった。「何でわざわざ俺を育てたりしたんだよ」そりゃあ、と齢千年の大狸は死に際に笑った。「どうせなら、俺たちを愛しんでくれる奴に倒されたかったからさ」
(2022年11月28日)

「さいごに願いを叶えてあげよう。何になりたい?」彼女は蝶にも花にも鳥にも宝石にもならなかった。小さな女の子がやってきて、緑の草を優しくかきわけ、「見つけた!」と声をあげ、四つ葉のクローバーを片手に駆けてゆく。あの四枚の葉のどれか一枚が、彼女がさいごに望んだ姿だった。
(2022年11月28日)

奇病により人類は殆ど滅びた。あちこち旅していると、たまに僕と同じく生き残った人に会う。「なぜ僕ら死ななかったんでしょう」「こういう性分だからかな」などと会話して別れる。皆、動き続ける機械を止めたり、閉じ込められた動物を解放したりしながら旅している。後片付けが好きなのだ。
(2022年11月29日)

人魚姫はいいよな。始めから、半分だけでも人間だから。そんなことを呟いた翌日、従姉が化粧品とカツラを持ってやってきた。「顔だけでも女の子にしてあげる」従姉の腕はよかった。手鏡の中に女の子がいた。そして二人で歩いてカラオケに行った。
(2022年11月30日)

ドラゴンみがきの仕事を受けた。巨大なドラゴンをブラシでみがく。最初は暴れていたドラゴンも、気持ちいいのか大人しくなってくる。みがけばみがくほど、綺麗に、そして小さくなってゆく。こんな可愛かったっけ? そう思ったとき目が覚めた。ドラゴンが、私の中の怒りが、優しくなっていた。
(2022年11月30日)

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