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映画「君を愛した全ての僕へ」「僕を愛した全ての君へ 」 感想



君を愛した全ての僕へ」、そして「僕を愛した全ての君へ 」という映画を見てきました。感想(というか個人的な思い)を書いていきます。
君を愛した全ての僕へ(君愛)が栞のほう、僕を愛した全ての君へ(僕愛)が和音のほうですね。

1.見る順番


この作品は見る順番によって結末が変わる、というのが一つの魅力でもあるので、まずは、見る順番という観点からいろいろ語りたいと思います。

自分は「君を愛した全ての僕へ」(君愛)→「僕を愛した全ての君へ 」(僕愛)→「君を愛した全ての僕へ」の二回目という順番で見ました。なので、「君愛」→「僕愛」の流れも、「僕愛」→「君愛」の流れもわかっているのですが、結論としては、「君愛」→「僕愛」の順番のほうが自分は好きだな~、と思いました。
理由はその終わり方。様々な平行世界の存在を研究し、時には身を持って他の世界線の幸や不幸を知った暦が出した一つの答え。それが僕愛の最後で描写されますが、その終わり方が美しいな、と思ったからです。「君愛」も「僕愛」も含めたこの物語全ての答えを出してくれている気がしました。

ただこの順番の問題点を挙げるなら、ひとつは、最初に見る「君愛」がものすごく理解しにくいという点。この作品は虚質という架空の概念が出てきて、物語の大部分でその虚質が大きなカギを握るのですが、この虚質という概念に関する専門用語が、特に「君愛」において多発します。「虚質素子」だの、「アインズヴァッハの海と泡モデル」だの。多くは、話の大事な本筋部分には関係ないから全然理解しなくても問題ないですが、「作中で語られていることはなんでも理解したい!」という完璧主義的な人はもしかしたらこの順番で観るのは向いていないかもしれません。

もうひとつとしては、個人的見解では、この物語の流れを考えるときに、主の部分となるのはどうしても栞との物語である「君愛」になってくると思います。でも、ここでおすすめしている「君愛」→「僕愛」という流れでこの作品を観ると、君愛が補助役で僕愛がメインになってしまうような気がしなくもないかな、という感じです。自分はむしろその僕愛のメイン感が好きだったから良かったのですが、これをあまり好ましく思わない人もいるかもな~、という感じでした。

まとめとしては、二作品を見ることを前提とし、すっきりとした終わり方を求めるなら「君愛」→「僕愛」、作品の理解にこだわりを持ってたり、サブとメインの流れを意識したいな、という場合は「僕愛」→「君愛」という順番が良いのかなと思いました。

 

2.二つの世界、感想


当然かもですがここからはネタバレありです。今更か。

自分としては「君愛」、「僕愛」という二つの映画から何かを語るというよりは、暦が母親を選び、和音とともに暮らした世界線(主に僕愛で語られた世界線)と、暦が父親を選び、栞のために奮闘する世界線(主に君愛で語られた世界線)の二つを軸に語ったほうが、この物語を捉えやすくて楽かなと思ったので、そういう視点から感想を書いていきたいと思います。



物語の筋に沿って簡単に図にするとこんな感じなのかなと。解釈間違いがあるかもです。一部いらない線がありますが、あみだくじ方式で読み取ってください。
赤が父親方面、青を母親方面とします。黒の世界線はほとんど作中で描写されていませんが、栞が車に轢かれ事故に遭う世界線です。そんな感じでとりあえず書いていきます。

赤(栞)ルート
暦が父親を選んだ道です。栞も暦も和音も全員が苦しむ道かも。栞はパラレルシフトの事故に巻き込まれるし、暦は栞を助けるために人生を捧げることになるし、和音は暦とくっつけないし。

個人的には栞の想いとかよりも、暦が印象深いルートでした。栞の精神部分の行き場がなくなったことに責任を感じ、栞を助けるためにパラダイムシフトの研究をして、栞とともに別の世界線へ移るという選択肢を見つけ出した暦ですが、その研究の過程で、暦も賢いはずだから、栞のこと考えれば考えるほど、本当は自分自身が栞を不幸せにした訳では無いとわかる瞬間はあったはずです。栞は自分と出会った時から事故に遭う世界線や両親が離婚する世界線しかないのですから。それなのに、栞が不幸になる運命を無理やりねじ曲げてでも暦は栞に幸せになって欲しかった。そのために人生を捧げた狂気的な執着がとても印象的でした。

この執念もなんか若さみたいな、若い人間の持つ人間の未熟さのようなものが出ていてとても好きです。未熟なんだけど、未熟という言葉で形容するのはもったいないような熱意も孕んでいる感じ。若いころの青春ど真ん中の栞と暦の関係のまま時が止まってしまったからこそ、本当に幼いころの精神で固定されてしまった栞と、こうした未熟さゆえの熱意を持った暦が結ばれようとする姿に、青春の続き感みたいなものも感じましたね。
 

青(和音)ルート
暦が母親を選び、栞との接点を作らない道です。このルートは基本的に全員幸せに終わる道かもですね。和音だけが赤ルートの和音から干渉を受け、嫌なことを知ってしまったり、嫌な決断をさせられてしまったかもしれないけど。
 
前の観る順番の項でも書きましたが、やっぱり終わり方が美しくてよかったです。自分の持っている愛に含まれた全ての可能性へ感謝するのが良い。暦が虚質科学の研究を続け、時には他の世界線の和音からの干渉も受けながら、人生を終えようとしているからこそ、全ての世界線上での和音、つまり「僕が愛したすべての君へ」感謝をするよ、と言えたのかなと。

愛なんて本当に些細なことだと思います。というか人間なんてそんなもんで。顔がいいだの、優しいだので人は人を好きになるけど、その人は世の中で一番その能力が秀でているわけじゃない。愛という要素が複雑でいくつかの要因が絡み合って愛が生まれるのだとしても、その要素全てにおいて勝っている他の人はいると思います。(というかいなかったとしても、その可能性を考えて妥協している訳ではなく、そもそも考えていないはず。)だから、愛はそれらの要素だけで成り立っているのではなく、偶然性も孕んでいます。自分の高校時代に周りにいたカップルを思い返してみると、出席番号順(とか席)の近いカップルが多かった気がします。苗字や席順という愛とは何の関係もないような偶然の要素から愛は成り立ったりしている。それらの偶然の愛で成り立っている全ての世界を認め、感謝する姿勢が好きだったし、そういう終わり方をしたこの作品もものすごく好きです。


両方を通じて
片方の映画を見た後のもう片方の映画で流れる回想シーンがすごく切なかったな、と。回想シーンの曲がエンディング曲なのもいいし、もう片方のルートのヒロインが恋しくなる感じでした。栞と和音との物語が別の形の青春であるからこそなおさら。

あと気になったのは、「君愛」「僕愛」どちらの暦も実在みたいなものに違和感を持っていたところです。「僕愛」の暦はプロポーズした瞬間の和音の世界線が少しズレていたことを気にして、そこにいた和音は本当に自分の愛した和音かどうか、「君愛」の暦はおじいちゃんと犬どちらかが死ぬ世界を目にした後に、生きているとは何か、を気にしてました。(最終的には体温と可能性があること、みたいな結論を栞と二人で出してたかな。)
こうした、今存在している自分や他者とは何か、みたいな実在の話もこの作品のテーマの一つだったのかなと感じました。


3.瀧川和音という女


物語の筋に関する感想は以上なのですが、そんなことよりも。
瀧川和音。この人が本当に最高でした。不器用なくせにちゃっかりしてる感じ。せこい。

どちらの世界線の和音にもこうした感情を持ってますが、やはり和音の魅力が盛り込まれてたのは「僕愛」。まず出会い方が印象的でした。本当は何の変哲もないただのクラスメイトのくせに、パラレルシフトしてきたふりして、暦と無理やり接点作り出すあの感じ。それも相手が虚質の知識あるのをいいことに。人間と人間が接点を作るのなんか、さっきも書いたように、ほとんどの場合偶然から出来るものなのに、そんなの無視して強引に。昔、野犬から助けてもらっただか何だか知りませんが、そんなんできますかね普通。ほんでもって、別の世界線では自分と暦は付き合ってた、だの嘘ついて暦をその気にさせておいて、五回も告白断る。ほんでもってふとした瞬間に、付き合お、とか言ってくる。なんなのさこの女。最高かよ。

もう一つ印象的なのが、暦と結ばれなかったほうの世界の和音の想い。そんな感じで自分にチャンスがあればグイグイ来るくせに、暦と再会した瞬間から暦に想い人がいるこのルートでは、その暦の持つ栞への愛を汲み取って、暦が好きと一切口に出さない。そして、その自分の持っている愛を全部別の世界線の和音に押し付ける。栞を幸せにしたい暦の想いを形にするために。自分の為にはならないのに。好きな人の為に。ほんで、綺麗だったので真似しちゃいました、とか言って自分もアクアマリンの指輪つける。「お揃いなの。」じゃないんだよおい。なんなのさこの女。最高かよ。

こんな感じで、不器用な愛の重さと、ちゃっかり接点作ったりアクアマリン真似したりするそのお茶目さがめちゃくちゃ好きでした。もうホントに。


と、映画全体の感想はこんな感じです。小説版の「君愛」「僕愛」と、スピンオフの「僕が君の名前を呼ぶから」も買ったので、これから読もうと思います。
軽くパラパラと読んでみた感じ、映画版と少し違うところもありそうですね。例えば、和音が暦と出会うきっかけを作るために他の世界から来たフリしてる、みたいなこと書きましたが、どうやらそうでもないようで。(今回は映画からそれが読み取りにくかったので、あえて映画を見た解釈通り、他の世界から来たフリしてる、ということにしました。)
なのでまた、小説版とスピンオフを読んで感想を書くかもしれません。そのときはまた是非。という感じです。

以上です。

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