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準直既約分解可能性

ここまで3回にわたって準直積と、準直積の既約性(準直既約)という概念を定義し、いくつか例を見て来た。

代数系が準直積の形に分解され、そして準直既約であればもうこれ以上の有意な分解を持ちえない。

ではいつでも準直既約の形に分解できるのか、そして分解できるならば一意的かという疑問が湧いてくる。

今回は、まず分解できたとしても一意的とは限らない例を先にみよう。次に実はいつでも準直既約なものの準直積に分解が可能であることを証明しよう。

なお証明中の注意事項については証明の後に説明を補足した。

1.準直既約分解の一意的でない例

準直既約への準直積分解が一意的でない例から先にみよう。

以前に準直積の例で、アーベル群(ℤ,+)を、すべての素数pの(modp)による剰余群ℤ/(modp)で準直積になる話をみた。

そして(ℤ/(modp),+)は準直既約なアーベル群であった。

例えば、ℤはこれら準直既約なものの準直積として次のように2通りがある:

 ℤ≅Π(ℤ/(modp)) 
   (Πはp≧2は素数を小さいものから順に1つ飛ばしで動く)
  ≅(ℤ/(mod2))×(ℤ/(mod5))×(ℤ/(mod11))×(ℤ/(mod17))×・・・

と、

 ℤ≅Π(ℤ/(modp))
  (Πはp≧3は素数を小さいものから順に1つ飛ばしで動く)
  ≅(ℤ/(mod3))×(ℤ/(mod7))×(ℤ/(mod13))×(ℤ/(mod19))×・・・

実際、上記2つの直積Πのわたっているpの集合をそれぞれ「このような」ということすれば、形式的に次にようにして証明で与えられる:

   (x,y)∈⋂(modp) (⋂を「このような」素数p全てわたる)
 ⇔ このような全てのpで、x-y∈pℤ
 ⇔ x=y  ・・・(★1)
より、
 ⋂(modp)=Δ
となる。

【(★1)の証明】
 (⇒)について示す。
 x-y≠0であれば、例えばa=x-y>0として
  p>a
 となる素数pが存在し(「このような」素数pが無限にあるからよい)、
   a∈pℤ
 である。
 これはa=0でなければならないから矛盾する。■

このように「完全に」相異なる2通りの準直既約なものの準直積がある。

2.準直既約分解可能性

【定理】
任意の空でない代数系は準直既約な準直積である。

【証明】
まず、代数系Aの元が1点しかないならば、0個の直積(※注意1)で表されるからよい。

次に、Aが相異なる2元a,bをもつとする。(a,b)を含まないA上の合同関係すべてから成る集合をS(a,b)とおく。S(a,b)の任意の全順序部分集合Tについて、Tの元すべてから成る集合の和集合α:
 α=⋃τ (⋃はτ∈Tを動く)
を考える。

αはA上の2項関係で、次のように定義される:
 (x,y)∈α ⇔ あるτ∈Tが存在して、(x,y)∈τ
従って、αの反射律は、反対称律はこの定義から従い、推移律は全順序Tから従い、よってαはA上の同値関係である。

さらに、Aの任意の演算(ただし「有限」演算を考えている)はTが全順序だから、αと両立することが従う。

以上からαはA上の合同関係である。

加えて、(a,b)∉αもα定義から従う。よって、α∈Tとなる。

ゆえに、ツォルンの補題(※注意2)よりS(a,b)に極大元θ[a,b]が存在する。

{θ[a,b]∈Con(A)|a≠b}の下限をθとおくと、
   (x,y)∈θ 
 ⇔ 全ての相異なる2元a,bで、(x,y)∈θ[a,b]
 ⇔ x=y ・・・(*)

上の(*)の(⇒)は、もし(x,y)∈θでx≠yとなるものがあれば特に
 (x,y)∈θ[x,y]
となる。これはθ[x,y]∈S(x,y)に反する。

従って、
 θ=Δ
である。

これはAが族{A/θ[a,b]|a≠b}の準直積であることを意味する。

あとは、各A/θ[a,b]が準直既約であることを示せば定理の証明が終わる。

即ち、合同束の言葉で言い換えれば、
 Con(A/θ[a,b])-{Δ}
に最小限があることを示せばよい。

これにはすべてのψ’∈Con(A/θ[a,b])-{Δ}に関する共通部分
 ⋂ψ’ (⋂はΔ≠ψ’∈Con(A/θ[a,b])を動く)
がΔにならないことを見ればよい。

ここで第2同型定理(合同束)(※注意3)より、
 Con(A;⊃θ[a,b]) ≅ Con(A/θ[a,b]) 
     ψ      ↔  ψ/θ[a,b]
であるから、この1:1対応を通して
 ⋂ψ (⋂はθ[a,b]≠ψ∈Con(A;⊃θ[a,b])を動く)
がθ[a,b]にならないことを見ればよい。

   (x,y)∈⋂ψ 
   (⋂はθ[a,b]≠ψ∈Con(A;⊃θ[a,b])を動く)
 ⇔ すべてのψ⊋θ[a,b]で (x,y)∈ψ

ここで、θ[a,b]の極大性より、
 ψ⊋θ[a,b] ⇒ (a,b)∈ψ
であるゆえ
 (a,b)∈⋂ψ
である。

よって、(a,b)∉θ[a,b]であるから、
 θ[a,b]≠⋂ψ
である。■

3.【注意1】0個の直積

一般に空集合Φから空でない集合Sへの写像
 f:Φ→S
とは、包含写像
 f:Φ⊂S
と考える。

写像といっても、その機能するところは「何もしない」。空集合Φは元が無い集合から「何も写さない」という写像である。

直積集合ΠA(γ)(γ∈Γ)の元は写像
 Γ→⋃A(γ)
 γ↦a(γ)
である。0個の直積というのは、添え字集合Γが空集合Φのときをいう。従って上のことから包含写像:
 Φ⊂⋃A(γ)
のみとなり、元はこの包含写像1点のみである。

.【注意2】ツォルンの補題

ある条件を満たす順序集合において、「極大元の存在」を保証する定理である。「補題」という言い方をしているのは慣例である。

【定理(ツォルンの補題)】
空でない順序集合Sについて、Sの任意の空でない全順序部分集合が上界をSに持てば、Sは極大元をもつ。

全順序部分集合を単にということもある。全順序部分集合とはどの2元も比較可能であるような部分集合であるから、Sの元たちがSの順序でちょうど「鎖」のように一本に連なっている。

ツォルンの補題の条件文は、順序集合Sから好きに一本の空でない鎖を引っこ抜いてきたとき、Sの中にその鎖のどの元よりも大きいか等しい元が必ずあることを要求している。

この「Sの任意の空でない全順序部分集合が上界をSに持つ」という性質を上に帰納的であるといわれる。

従って、この言葉を使えばツォルンの補題は、
 「上に帰納的な空でない順序集合には、極大元が存在する。」
となる。

「ツォルンの補題」は定理として書いたが、集合論の公理系をどのように選んでいるかによる。そのレベルの話であるので、我々は「証明」せずこれを公理とする立場にいよう。

.【注意3】第2同型定理(合同束)

第2同型定理は以下の記事でみた:

【第2同型定理】
A代数系とする。2つのA上の合同関係θ,ψがθ⊂ψを満たすとき、
 (A/θ)/(ψ/θ) ≅ A/ψ
である。
ただしψ/θは(A/θ)上の以下で定義される合同関係である:
 a/θ(ψ/θ)b/θ ⇔ aψb (a,b∈A)

これを合同束の言葉で言い換えて、定理として記述しておこう。

A上の合同関係θを固定したとき、θ以上のA上の合同関係全体を
 Con(A;⊃θ)={ψ∈Con(A)|ψ⊃θ}
とおく。

第2同型定理より、
 Con(A;⊃θ) → Con(A/θ)
    ψ   ↦  ψ/θ
が定まり、この対応が全単射で、包含関係を保つ。

即ち、束として同型であることを言っている:

【第2同型定理(合同束)】
Aを代数系とする。θをA上の任意の合同関係とするとき、
 Con(A;⊃θ) ≅ Con(A/θ)  (束同型)
    ψ   ↦  ψ/θ
である。
ただしψ/θは(A/θ)上の以下で定義される合同関係である:
 a/θ(ψ/θ)b/θ ⇔ aψb (a,b∈A)

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