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同値関係と両立する写像(5)
『引き起こす』に始まり、
『同値関係と両立する写像(1)』の命題1、
『同値関係と両立する写像(2)』の命題2
は、それぞれいくつかの演算の付帯された集合(これを一般に代数的構造(algebraic structure)、あるいは代数系(algebraic system)という)に拡張される。
前回の『同値関係と両立する写像(4)』でみた準同型定理は、『引き起こす』でみた命題(番号付けしていなかったので、ここでは「命題0」と番号を付けよう)の「代数系版」であることをみた。
今回はこの命題1、命題2に代数系の場合に相当する命題A1、命題A2をそれぞれ確かめよう。代数系の場合、写像は準同型写像に、同値関係は演算と両立する同値関係に対応する。
1.可換図式
まず整理のために命題0,1,2を図式にしておこう。
図式の説明になるが、まず真ん中に丸い矢印があるのは、図式の可換性ということを表現するときに使う。図式の可換性とは、任意の2つの対象(集合や代数系)の間を矢印に沿って進むとき、その進み方によらずに合成写像が一致することを意味する。可換である図式を可換図式という。次に矢印の上に付けているのは写像や準同型を表現している。実践の矢印は仮定した矢印で、それに対して破線の矢印は結論の矢印を表現する。つまり、破線の矢印は「引き起こされる」ということを意味する。また、記号「∃!」とあるのは、「一意的存在する」を表現する。「∃」は「存在する」を、「!」は「一意性」を意味する。
【命題0】
※同値関係~の下にfがあるのは、「fで引き起こされた同値関係」という意味で用いている。
【命題1】
【命題2】
2.命題A1
同じn項演算の間の準同型写像f:(X,μ)→(Y,ν)と、Xの上の同値関係~があり、演算μは同値関係~と両立するとする。このとき商集合X/~に演算μ’が引き起こされた。(『同値関係と両立する写像(3)』より)
同値関係~がfと両立するための必要十分条件は、準同型写像
g:(X/~,μ’) → (Y,ν)
で
g◦π=f
となるものが存在することである。
また、この同値な条件を満たすとき、準同型写像gは一意的である。
ここで、写像π:(X/~,μ’) → (Y,ν)は自然な全射準同型とする:
π(x)=[x]
={a∈X|a~x}
(x∈X)
3.命題A1の証明
写像としてのgの一意性は命題1でみたから一意性はよい。
【必要性の証明】
命題1により写像としてgが定義されることはみた。これが準同型であることをみよう。
g◦μ'([x(1)],・・・,[x(n)])
=g◦μ’◦(π×・・・×π)(x(1),・・・,x(n)) (∵直積写像の表示)
=g◦π◦μ(x(1),・・・,x(n)) (∵πは準同型)
=f◦μ(x(1),・・・,x(n)) (∵gの定義)
=ν◦(f×・・・×f)(x(1),・・・,x(n)) (∵fは準同型)
=ν◦(g◦π×・・・×g◦π)(x(1),・・・,x(n)) (∵gの定義)
=ν◦(g×・・・×g)([x(1)],・・・,[x(n)]) (∵同値類で表示)
(x(1),・・・,x(n)∈X)
よって、
g◦μ'=ν◦(g×・・・×g)
より、g:(X/~,μ’) → (Y,ν)は準同型写像である。
【十分性の証明】
命題1によりgを写像として適用すれば従う。■
4.命題A2
集合X,X’,Yにそれぞれ同じn項演算μ,μ’,νが付帯されているとする。写像f:(X,μ)→(Y,ν)、および全射p:(X,μ)→(X’,μ’)がそれぞれ準同型写像であるとする。
pの値で一致するようなXの2元はfの値でも一致する:
p(x)=p(y) ⇒ f(x)=f(y)
(x,y∈X)
ための必要十分条件は、準同型写像
k:(X’,μ’)→(Y,ν)
で
k◦p=f
となるものが存在することである。
また、この同値な条件を満たすとき、準同型写像kは一意的である。
5.命題A2の証明
写像としてのkの一意性は命題2でみたから一意性はよい。
【必要性の証明】
命題2により写像としてgが定義されることはみた。これが準同型であることをみよう。
x’(1),・・・,x’(n)∈X’を任意に取る。p:X→X’の全射性より
p(x(i))=x’(i)
となるx(i)∈Xが各i=1,・・・,nについて存在する。このとき、
k◦μ'(x’(1),・・・,x’(n))
=k◦μ’( p(x(1)),・・・,p(x(n)) ) (∵pは全射)
=k◦μ’◦( p×・・・×p)(x(1),・・・,x(n) ) (∵直積写像の表示)
=k◦p◦μ(x(1),・・・,x(n) ) (∵pは準同型)
=f◦μ(x(1),・・・,x(n) ) (∵kの定義)
=ν◦(f×・・・×f)(x(1),・・・,x(n) ) (∵fは準同型)
=ν◦(k◦p×・・・×k◦p)(x(1),・・・,x(n) ) (∵kの定義)
=ν◦(k×・・・×k)(p(x(1)),・・・,p(x(n)) ) (∵pの値で表示)
=ν◦(k×・・・×k)(x’(1),・・・,x’(n)) (∵もとの元で表示)
よって、
k◦μ'=ν◦(k×・・・×k)
より、k:(X’,μ’)→(Y,ν)は準同型写像である。
【十分性の証明】
命題2によりkを写像として適用すれば従う。■
6.まとめ
集合に対する命題0,命題1,命題2は、代数系に対する準同型定理、命題A1、命題A2がそれぞれ同一の可換図式に対応することをみた。
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