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一方的にランク付けされるだけではないESG評価が登場しているようです
1,本日の話題
以前から気になっていた「AIによるESG評価」を購入しました。
まずは第3章「ESG評価におけるAIの活用事例」の中で、AI活用によるESG評価の事例として大々的に取り上げられていた「ESGブック(旧アラベスクS-Ray)」に興味を持ったので、少し調べてみました。
2,そもそも、ESG評価機関とは
日本取引所グループ(JPX)の分類によれば、ESG評価機関には
企業のESG関連情報の収集、分析、評価等を行っているESG評価機関・データプロバイダ
グリーンボンド等の第三者評価(外部評価)を提供しているESGファイナンス評価機関
の2種類があります。ここでは、前者をとりあげます。
ESG評価機関・データプロバイダとは何をする存在?
ESG評価機関・データプロバイダは、ESG課題のなかで投資家の関心が高いものや、投資判断に有用な項目を(場合によってはセクターごとに)特定し、企業の公開情報や個別の質問票等を活用して企業情報の収集や調査、評価を行い、機関投資家に提供しています(注1)。
主要なESG評価機関・データプロバイダは?
日本取引所グループ(JPX)のウェブサイト(注1)にはさまざまな種類が挙げられていますが、この中で、私が企業のサステナビリティ担当として耳なじみがあるものといえば、CDP・FTSE Russel・MSCI・Sustainalyticsの4つぐらいでしょうか。
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ESG評価機関・データプロバイダの課題は?
課題は、機関による評価のばらつきが大きいことです。
「AIによるESG評価」の第3章 (p28~29)より一部抜粋します。
現状のESGインデックスは、評価データ・手法等の相違から同一対象に対しても機関によって評価のばらつきが大きいことが実証的に示されている(Chatterji et al. 2016: Berg et al. 2022)。
(中略)
実際、GPIFは現状把握のための参考情報の1つとして、FTSE社とMSCI社のESG評価の相関を毎年「ESG活動報告書」の中でモニタリングしており、現状ではESG評価機関間の評価の隔たりは依然として大きい状況にあるが…
おお… まさに、私にとってなじみのあるFTSE と MSCI の2つがやり玉にあがっていますね…
ばらつきが大きいことの何が不都合なのか
機関ごとの評価にばらつきがある場合、企業側としては、それぞれの機関に対して個別対応せざるを得ないため、負担が増加するというデメリットがあります。
ただでさえサステナビリティ分野の開示規制はより広く、深く、そして迅速に、日英同時に…!と要求が厳しくなる一方だというのに、ESG評価機関への個別対応までしなくてはならないのは厳しいです。。。
3,「ESGブック」は何が違うのか
こうした評価のばらつきや一貫性のなさへの問題意識からスタートしたのが、本書の第3章で紹介されている「ESGブック」なのだそうです。
もともとESGブック(旧アラベスク S-Ray)社は、先述したように、ESG評価会社の評価軸間に相関性が存在しないという課題へのチャレンジから創業に至った経緯がある。すなわち、多数のESG評価機関から提供されるサステナビリティ関連データのばらつきという課題・問題点を踏まえ、それらを総合化し比較可能にすることを目的に開発されたプロダクト・ソリューションである。
では、ESGブックは具体的にどのような点が他と異なっているのでしょうか。インタビュー記事(注2)の説明によれば、下記2点だそうです。
(1)相互性
私が個人的にこれは画期的だと感じたのが、こちらの「相互性」です。
「ESGブック」では、スコアリングのもとになる情報や方法を対外的に公表しつつ、これを企業自身がプラットフォーム上で修正したり、新たなデータを付加・更新したりできるのだそうです。
企業自身がデータを足したり更新したりできるなんてびっくりです。
「当社が集めてきたデータが間違っていたり古かったり、スコアリングの方法に異議がある場合は、企業自身がプラットフォーム上で修正できます。また、企業が新たにサステナビリティレポートを出すような場合は、そのデータをESGブックの枠組みに合わせることも可能です」
氏によると、ESGブックのような相互性を備えた評価機関はごく稀という。その理由のひとつは、ESG評価機関の多くが株式や債券の評価機関から派生していることにある。
「株式や債券の評価会社からすると、評価方法それ自体がノウハウですので、企業からスコアについての説明を求められても当たり障りのない情報しか開示できません。企業からすると『勝手格付け』に他なりませんが、それがESG評価にも波及してしまっているのです」
このような問題意識のもと、同社はESG評価の透明性を向上させるべく、相互性を採り入れた。
「企業からすると『勝手格付け』に他ならないものがESG評価にも波及してしまっている」――これ、まさしく私が感じていた問題意識と同じです。
企業側が自身で入力した内容の客観性をどう担保するのかという点が気になるところではあります(これはぜひうかがってみたいところです)、とはいえ、従来はまったく修正も追加も(あるいは異議申し立ても?)できなかったESG評価に企業自らが関与することができるというのは朗報ではないかと思います。
(2)365日評価
もうひとつの特長は、「365日評価」です。
もう1つの特徴「365日定量評価」は、AI導入で実現したシステムだ。
ESGブックは、約150人のアナリストを擁し、企業の開示情報やデータを収集・評価している。しかし、数字を中心とするデータ収集やデータベース入力は、AIが担う。
さらには、365日の定量評価にもAIを活用。具体的には、毎日のニュース記事やNGOキャンペーンから情報を収集し、記事中に登場する企業とマッピングする。
そのうえで、サステナビリティ課題の特定や影響力を判断し、スコアに落とし込む。
本書「AIによるESG評価」では、従来のESG評価の課題として
年次開示に限られた遅い開示という頻度の課題
アナリストの問題として、定性判断が介在するため偏った情報を生み出す可能性が高い
事例中心のCSR報告書では、ポジティブ情報が中心で、ネガティブ情報は開示したがらない傾向
などが挙げられていました。
これらの課題を解決するために企業が発表する情報は一切使わないという手法をとっているのがTru Value Labs ですが、「ESGブック」は企業発表情報とニュース等の記事を組み合わせて使うのですね。
4.企業がPDCAに使いやすいのがESGブック?
先ほどの記事(注2)には、下記のような記述もありました。
雨宮氏は、「単純にレポートを出して『貴社の分析結果はこうなりました』で終わるのではなく、自社と他社の状況を比較しながら、年間を通じて自社の状況を確認できる評価システムです。ESG評価を継続的にチェックしたい企業にとって、最適なサービスといえるでしょう」と、そのメリットを強調する。
なるほど。年に1回等ではなく、期中に自社の評価を随時確認することで、どこを修正しなければならないか、評価をあげるためには何をすべきかなどが具体的に見えてくる…という使いかたが想定されているのですね。
企業が日々利用することが想定されているESG評価「ESGブック」、がぜん興味がでてきました。今後も引き続き調べて行きたいと思います。
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・31日目(Day31) でした。それではまた明日!
注1:出典:日本取引所グループ(JPX)ウェブサイト「ESG評価機関等の紹介」
注2:coki 2023年7月21日付記事「ESGブック日本代表に聞くESG評価の現在地」