健康経営でたばこを規制することは喫煙者の権利を侵害しないのか
昨日のnote「歯磨き休憩、いかがでしょう?(健康経営の施策として)」を書いている時に気になったのですが、健康経営の一環として禁煙や喫煙率低下を大々的に目指すことって、たばこを吸う人の権利を侵害することにならないのでしょうか。ちょっと調べてみました。
Q:禁煙や喫煙率低下施策推進の後ろ盾となっている法律は何?
A:2020年4月に施行された「健康増進法の一部を改正する法律(通称:改正健康増進法)が主たる後ろ盾と考えられます(注1)。
この改正は、「望まない受動喫煙」をなくすことを基本的な考え方としています。そして、その実現のために、多くの人が利用する施設では、その区分に応じて「必要な措置」を講じることを義務付けています。
Q:施設の区分に応じた「必要な措置」とは?
A:一般の企業の事業所等は「原則屋内禁煙」で、基準を満たした専用室のみ喫煙可となっています。
なるほど。少しわかってきました。改正健康増進法の目的は「望まない受動喫煙をなくすこと」である(つまり禁煙ではない)のだけれど、事業者等がとるべき措置(つまり手段)に「禁煙」という言葉が出てくるのですね。
Q:「必要な措置」が守られなかったらどうなるの?
A:罰則規定があります。(施設を管理する事業者等だけでなく、個人にも)
罰則規定があるのが、改正健康増進法の特徴のひとつと言えるようです。
改正健康増進法以前にも、2015年6月1日に施行された改正労働安全衛生法68条の2で、事業者には室内またはそれに準ずる環境下での労働者の受動喫煙を防止するために適切な措置を講じる努力義務が課されているのですが、こちらには罰則がありません。
ちなみに、罰則ありの改正健康増進法が成立した背景には、「ラグビーワールドカップおよび東京オリンピック・パラリンピックを控えて、世界保健機関(WHO)や国際オリンピック委員会(IOC)からの「タバコフリーオリンピック」の強い要請を受けて」という事情があったようです(注2)。
Q:改正健康増進法は憲法違反ではないのか?
A:2022年8月には「原則禁煙は憲法違反」と訴えた喫煙者の請求を東京地裁が棄却しているようです。
企業の事務所の話ではありませんが、ご参考までに…
ただし、禁煙は絶対に憲法違反ではない!とまでは言い切れないようです。
なぜなら喫煙の自由に関する判例として、「被拘禁者の喫煙の禁止」について争われた最高裁昭和45年9月16日大法廷判決がありますから…。
このあたりの事情が、健康経営における喫煙対策を
- 喫煙率低下に向けた取り組み
- 受動喫煙対策に関する取り組み
の二本立てにしているのでしょうね、きっと…。
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・44日目(Day44) でした。
それではまた明日!
(注1)
改正健康増進法のほかに、労働契約法も広い意味では”後ろ盾”になると考えられます。なぜなら、労働契約法では第5条に「使用者は、労働者が安全かつ健康に働くことができるように、必要かつ適切な措置を講じなければならない」という規定しているためです。
(注2)
出典:BUSINESS LAWYERS 2019年10月18日「職場の受動喫煙対策はどのような法令で義務付けられているか」