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イベントレポート | 全体会議2022「思考⇆アクション」

「100年後も地球と生きる」をスローガンに活動する「Sustainable Innovation Lab(SIL)」。現在は109名の個人や企業・自治体などが参画し、活動を行っています。

そのメンバー(フェロー)が集まり、2022年10月21日・22日の二日間にわたって開催した「Sustainable Innovation Lab 全体会議2022」。

持続可能な未来の実現に向けて、「思考⇆アクション」をテーマにトークセッションや分科会を行いました。

この記事ではその2日間の様子をご紹介します。

DAY1 ポスト資本主義時代を生きる


トークセッション #1「越境する働き方」

オープニングトーク「WHY SIL」として、SILの立ち上げの背景にある社会課題やこれから目指す姿についてボードメンバーが語った後、いよいよトークセッションがスタート。

#1のテーマは「越境する働き方」。働き方が多様化する不確実性の時代。経済指標だけでは測れない働くことの意味とは。個人ができる働くことへのイノヴェイションとは。それぞれの立場で越境人材育成に取り組む3名がこれからの働き方について話し合いました。

<登壇者>
・林 志洋氏 / 長野県小布施町総合政策推進専門官、ショクバイ株式会社代表取締役
・小林 さやか氏 / 日本郵政株式会社 事業共創部 担当部長
・出濱 義人氏 / 合同会社life in LIFE代表社員
<モデレーター>
・林 篤志 / Sustainable Innovation Lab 共同代表、Next Commons Labファウンダー

1.越境する働き方の実現に向けた課題

それぞれが取り組んでいる活動内容を紹介した後、話は企業に所属する人が他の団体や地域へ越境し、働くことの実現に向けた課題へ。

日本郵政株式会社 事業共創部で、ローカルを舞台にした共創施策を推進している小林さんは企業の評価制度に問題があると話します。

小林:私たちのプロジェクトで派遣している社員の変化を見ていると、越境して働くことが多面的なものの見方や巻き込み力などのアントレプレナーシップ醸成に役立つことは、明らかです。あとは、戻ってきた際にアップデートされた人材の能力が活かせる組織になっているかが課題。人材だけ変わっても器が変わらなければ能力が腐ってしまう。今は、越境後の能力を評価できる軸が企業側にないことも課題だと感じています。まずは自分の部署だけでも新たな評価制度を適用するなど、人材力を十分に発揮できる環境にすることが今の自分に課されているミッションだと思っています。

小林 さやか氏

2.越境する働き方を実現するためには?

様々な課題が挙がる中、どう越境する働き方を実現していくか。林 志洋さんは「できる人は雇用関係を持つのではなく、業務委託契約で働くのがいいのではないか」といいます。

林(志):僕自身、業務委託契約で様々な企業と仕事をするようになってから自分でコントロールできることが増えて、生産性が上がった実感を持っています。なので、自分でやりたいことがある人は、どんどん業務委託契約で働くのがいいと思うんです。複数の会社・団体で働けるようになると、シナジーを生む場面がたくさん増えていくと思います。

林 志洋氏

一方で、「企業との雇用関係を持ちながら働くこともありだと思っている」と出濱さん。自身の経験を踏まえながら、「ベーシックインカム的に制度を活用すること」と「多様な選択肢を持つこと」が重要だと話します。

出濱:僕は株式会社パーソル総合研究所に正規雇用してもらいながら、複業として自分の会社を設立して活動を行っています。自分の責任を果たすことを前提に、会社をベーシックインカム的に活用させてもらい、自分の純粋な自己表現の場として自分の会社を展開することで、バランスの取れた越境する働き方が実現できていると思っています。
また、色々な選択肢を持つことも重要だと思っています。僕は自分の会社を持つ前に社外の人に会う機会を多くつくれたことが自分にとって大きかったなと感じています。様々な人と会うことで、色々な生き方、働き方があることを知れる。そうすると、『意外と他の分野でもやっていけるかもしれないな』という根拠のない自信が湧いてくるんですよね。

出濱 義人氏

越境する働き方を実現するために、個人や企業、団体がどんな意識を持ち、体制や仕組みをつくっていけるといいか。
最後には、3人それぞれから越境人材を増やすための今後の展望についてコメントをいただきました。

出濱:価値観ってなかなか変わらない。だからこそ個人のパラダイムシフトをしていく。1億人いたら全員が変わらなくても、例えば1つの地域のコミュニティから10人が変われば大きな転換の可能性があると思っています。

林(志):長野県小布施町での官と民の越境という自分の経験からお話すると、ファシリテーター人材が増えることだと思っています。あらゆる場面でファシリテーションは必要ですが、「私にはできない、向いていない」と思い込む人が多い気がしています。経験がないからということで、外へ依頼してしまう。自治体であれば職員さんがその役割を果たして、町の人と対話し、町への解像度を上げ、一緒になって進めることが重要。一度外へ飛び出したり、講座を受けたりするだけでも、ファシリテーションが実は特殊技能ではなく、押さえるとこを押さえれば自分にもできるんだと思ってもらえるはずです。

小林:副業や複業など、組織の中でも働き方の選択肢が増やすことが大切です。私たちのような大きな組織の中でしっかり実行していくには、最初は自部署から小規模でも変革を実行し、徐々に変化を広げていくことが重要。越境人材を輩出することで、社内でも価値を体感してもらい、会社全体のカルチャーの変革へつなげていければと思います。また、このような事例が積み重なり広がっていくと、社会全体の流れも変わってくるのではないかと考えています。

SILへ参加するフェローが全国から集まる全体会議。

トークセッション #2「これからの共同体」

#2の登壇者は、スポーツ×地方創生を愛媛県今治市で推進する岡田武史さん。サッカーやビジネスなど様々な分野で活躍する岡田さんに今治市での取り組みを伺いながら、これからの共同体のあり方や地方の可能性について議論しました。

<登壇者>
・岡田 武史氏 / 株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長、日本サッカー協会副会長
<モデレーター>
・林 篤志 / Sustainable Innovation Lab 共同代表、Next Commons Labファウンダー
・白井 智子 / Sustainable Innovation Lab 共同代表、NPO法⼈新公益連盟代表理事

1.地方・ローカルに感じる可能性

今治市を拠点にJ3に参画するサッカークラブ「FC今治」のオーナーを務め、経営者として新たな挑戦を続けている岡田武史さん。現在は、FC今治の新スタジアム「里山スタジアム」を建設する構想を掲げ、スポーツとまちづくりをかけ合わせた新たなビジネスの創出に取り組んでいます。

岡田さんがなぜ、今治市で活動を行っているのか。林からの質問に、岡田さんがローカルに感じている可能性について話します。

岡田:地方には資産、アセットが豊富にあるんです。知人が東日本大震災の起きた直後、被災した村に支援のために訪れたら、村の人々が山から竹を使って水を引いて、自分たちで火を起こして、食材を集めて宴会して、お風呂に入っていてびっくりしたと話していたんですね。これが東京で停電が起きてしまったら食料の奪い合いをしないといけない。ところが、地方には海の幸、山の幸、そしてそれを使う知恵が残っている。だからこれから必ず地方に人が向かうようになると僕は思っています。

岡田 武史氏

2.共同体のあり方

また、20年以上前から岡田さんが取り組み続けている環境問題に対しての想いや地域での「スポーツ×まちづくり」による活動において意識していることなどをお聞きした後、話題は「コミュニティ」や「共同体」のあり方へ。どうしても人が集まることで対立や分断が起きてしまう、集団や組織の運営においてどんなことが重要か。サッカーチームから企業まで、様々な集団、組織のマネジメントを行ってきた経験を持つ岡田さんは「多様性」が重要だと話します。

岡田:小さな組織から大きな組織まで、日本は同一性を求めるんですよね。でも、いちばん大事なことは多様性を認めることなんです。
例えばサッカーチームをつくるときに、子どもを20人から30人集めると、全員が仲良しなんてことは一回もないんですよ。この人とこの人は合わない、というのが見ていてわかる。でも、馬が合わなくても「この人にパスを出したら絶対にゴールを決めてくれる」、「この人に任せたら絶対止めてくれる」ということがあると、一つの目標に向かって、お互いの存在を認め合うことができるんです。そしてそれを続けていくと、「意外とこの人もいいところがあるな」と理解できてきて、だんだんチームに一体感が出てくるんですよ。
一体感からつくろうとするとだいたい失敗するんです。組織ってそうで。みんなを抑えて心を一つにしようとするとだめなんですね。そうではなく、何か一つの目標に向かって、一緒に力を合わせていくことが大事。その作業が絶対必要だと思っています」

会場から見える東京タワー。素晴らしいロケーションの中、SILのカンファレンスを開催しました



DAY2 自治×Web3の可能性
 


オープニングトーク「WHY Web3」

<登壇者>
・平 将明氏 / 衆議院議員、自由民主党 情報調査局長 兼 ネットメディア局長 
<モデレーター>
・林 篤志 / Sustainable Innovation Lab 共同代表、Next Commons Labファウンダー
・白井 智子 / Sustainable Innovation Lab 共同代表、NPO法⼈新公益連盟代表理事

DAY2 のテーマは「自治×Web3の可能性」。オープニングトークでは、衆議院議員で自由民主党 情報調査局長 兼 ネットメディア局長を務める平 将明氏に、国家政策の動向と合わせてWeb3がアップデートする社会の可能性についてお話をしていただきました。

平 将明氏(写真左)。こちらは参加者のみのクローズドな内容で展開されたセッション。テーマのweb3を軸に様々なトピックが飛び交い、参加者の気づきや学びも多い貴重な時間となりました。

トークセッション#3 「ブロックチェーンは地域社会をどう変えるか」

その後、開催したトークセッション#3のタイトルは「ブロックチェーンは地域社会をどう変えるか」。NFTの発行とDAOの運営で注目されている「山古志DAO」の事例をもとに、ブロックチェーンを活用した地域づくりの可能性について話し合いました。

<登壇者>
・木嵜 綾奈氏 / NewsPicks Studios 取締役、チーフプロデューサー
・高瀬 俊明氏 / 株式会社TART 代表取締役 
<モデレーター>
・林 篤志 / Sustainable Innovation Lab 共同代表・Next Commons Labファウンダー

1.「山古志DAO」の取り組み

木嵜さん、高瀬さんがそれぞれ自己紹介を終えた後、トークセッションがスタート。まずはじめに、高瀬さんと林が制作を行った「Nishikigoi NFT」の事例が説明され、NFTを通して旧山古志村や山古志DAOでどんなことが起こっているか紹介されました。

林:「山古志DAO」の発足には僕も関わっていて。高瀬さんが運営する株式会社TART、そして山古志村のみなさんと一緒に「Nishikigoi NFT」を制作しました。

Okazz’s work "Colored Carp"

:人口800人の限界集落を存続させるために、電子住民票を兼ねたデジタルアートを10,000点発行し、「『800人+10,000人』の新しいクニ作り」を行う、というのがこの取り組みの目指していること。
2021年12月の発行後、世界中の方にNFTを購入していただいて、今はリアルな人口800人に対して、NFTを購入したデジタル村民が約1000人います。普通に考えて、すごいことですよね。

高瀬:山古志DAOの事例は、NFTの発行を通して、地域にお金やリソースを出す人をグローバルに集められたことがとてもよかったなと思っています。オンラインの空間上に経済モデルやコミュニティーを作り出し、それをリアルに接続しながら、村そのものをどう発展し、持続可能にしていくか。リアルな村民とデジタル村民が一緒に考える関係性を醸成することができました。

高瀬 俊明氏

木嵜:おっしゃる通り、これまで行われてきた様々な取り組みでは、リアルとデジタルがうまく結び付けられていなかったのですが、山古志DAOのDiscordやTwitterを見るとデジタル村民が「帰省」と言いながら山古志村に訪れたり、山古志村に貢献するためのプロジェクトを発足していたり、リアルな行動が起きていますよね。アートの力も活用していて、とてもいい取り組みだと感じています。

木嵜 綾奈氏

高瀬:物質的なものというよりも、NFTが概念を流通していると言ってもいいんじゃないかと思っています。ある時点で「そこに属した」ことや「応援した」証明になる。自分の心持ちや意思を収めるのがNFTの根本的な役割でもあるんです。そういうものを自由に売り買いできる場所が開かれているので、山古志だけが特別にできたことではなく、今山古志DAOで起きていることはみなさんが実現できることだと思っています。

2.リアルとデジタルの接続・DAOが実現できること

また、山古志DAOの事例紹介では、DAOの参加者による「Discord」内でのコミュニケーションの特徴やDAOが実現する新しい働き方についてまで話題が及びました。

高瀬:DAOの中でよく使われる言葉に「gm(Good Morining)」があります。なんでよく使われているかというと、みんなそのDAOの中に住んでいる感覚を持っているからなんですよね。朝起きて、パソコンやスマホからDiscordを開いて、「おはよう」と言う。そして他の人から返事が来て、次の会話がその人達次第で広がっていく。
色々なDAOが存在していますが、参加している人たちは自分たちの役割や意義を見出しながら、その中で生活しているんです。作品をつくる人がいたり、それについて語る人がいたり。シンプルにDAOの中で社会ができている、ということなのかなと思っています。

林:そうしてコミュニケーションを取る中で、一緒にやりとりしている相手がそもそもどういう人なのかわからないのも特徴的だなと思います。年齢も性別も、どんな風貌の人なのかもわからない。一部の人は「帰省」して山古志村に集まることで、やっとリアルとデジタルがリンクして、どんな人なのかがわかるんですよね。
これだけ暮らしや仕事の中でオンラインが浸透しているとはいえ、顔と名前が一致して、その人の性格も知った上で仕事をするという信頼関係を持つのが当たり前だと思うんですが、DAOの中ではそれがなくても一緒に仕事ができてしまうところが面白いところだなと思っていて。もちろんその上で色々な問題が発生する可能性もありますが、インクルーシブな働き方が実現できそうだなと感じています。
その人がどういう経験をしてきたのか、どんな風貌をしているのかで取捨選択されていたことがなくなっていくかもしれない。そうした前情報なしに一緒に仕事ができて、経済的報酬や精神的報酬が得られる可能性があるというのは非常に面白いことだなと思っています。


分科会

1日目・2日目ともトークセッションに加え、分科会も開催。分科会では、トークセッションで扱ったテーマをより深めて考えたり、フリートークとして参加者同士が自由に話し合ったりすることのできる機会を持ちました。
参加者にはそれぞれアイデアシートを配布。思い浮かんだアイデアや気づき、問いをシートにまとめながら、これまでの活動やトークセッションの内容の振り返りを行いました。

<分科会のテーマ一覧>
・1日目
A:Local Coop構想の仕組みと現場
B:民主主義のDX
C:地域物産の残し方
D:持続可能な新しい教育
E:Explore Shikoku(四国)
F:フリートーク(恋愛すると視座が上がる説)

・2日目
A:協働型コミュニティ
B:楽しい空き家・空きスペース開発
C:トークセッションアフタートーク(自治×web3)
D:持続可能な新しい教育
E:web3入門編
F:肩書きを越えて、身の丈の個人の意志で協業すること
G:フリートーク(Z世代の読書の広場)

トークセッションなどで得た気づきや思いついたことを自由に書き記す「KEYWORD SHEET」

おわりに

普段全国各地で活動するフェローがオフラインの場に集まり、開催した今回の「Sustainable Innovation Lab 全体会議2022」。インプットとアウトプットを同時に行いながら、2日間の長い時間メンバーたちがともに過ごすことで、スローガン「100年後も地球と生きる」に向けた今後の可能性を強く感じる場となりました。
まだまだ実現すべきことは多くありますが、それぞれが活動する現場で活用できるアイデアや知見が得られた機会になったのではないかと思います。
今回の全体会議にご参加・ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。

1日目にご参加頂いた皆さんとの集合写真
2日目にご参加頂いた皆さんと。ご参加ありがとうございました!




お知らせ

◎参加フェロー募集
SILというコミュニティに参加するメンバー(フェロー)を募集しています。
SILとは?そしてこれからの展望については事務局長の瀧口の記事をぜひご一読ください。

◎学生インターン募集
SILを盛り上げていただけるインターンスタッフを募集しております。ご興味のある方はぜひご応募ください。
Google フォーム:https://onl.sc/3B3Qv8C


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