「利己的な利他」と「利他的な利他」
こんにちは、サステナブル・ラボ CEOの平瀬です。
先日電車に乗ったとき、座っていた高校生ぐらいの少年が老人に席を譲ろうと声を掛けていて心がほっこりしました。が、それも束の間。老人は「いえ、大丈夫です」と断ったのです。気まずくぽっかり空いた1席。次の駅で何も知らない人が乗ってきて、そこに座る…。たまにある光景ですね。私にも同じ経験があります。勇気を出した「思いやり」「優しさ」は、ときに相手に届かないことがあります。
さて、「情けは人の為ならず」という言葉があります。
辞書ではこのように、正しい意味に加えてわざわざ誤用についても触れられています。近年、人に情けをかけて親切にするのは、結局はその人のためにならないという意味で捉える方が約半数にものぼるようで、文化庁のサイトにも解説が掲載されています。
本来の意味は、人に優しくすれば自分に戻ってくる、という、自分本位の「利己的な利他」に見えます。対して、誤用とされているのは、本当に相手を想うなら、優しくすべきではない、という相手本位が前提の「利他的な利他」です。
利己的であることは見苦しい、利他的であるべきだ!という議論が巻き起こりそうですが、利己的であれ、利他的であれ、結局は利他であることに変わりはありません。(前者は相手に優しくする、後者は相手を本当に想う、という意味で、いずれも利他です)。そういう意味で、私は利己でも利他でも、いずれでも良いと思っています。
利己・利他の観点でみるESG/SDGs
今日はここから、利己・利他の観点で、企業にとってのESG/SDGsについて書いていきます。「ESGやSDGsって、横文字のよくわからない一過性のものだろう」「自分の会社には適さない・まだ早い」いまでもそんな風に思っている方にこそ、お付き合いいただけると嬉しいです。
私は、ESGについても同様に、利己的であれ、利他的であれ、企業が取り組むならどちらでも構わないと思っています。むしろ、利己的にでも取り組んだ方が良いと考えています。「利他的に利他」な取り組みができるなら確かに一番美しいのかもしれませんが、すべての人や企業にそれができるとは限りません。それならば、たとえ利己的であれ、ESGに取り組む企業が増えた方が、社会にとっても、そして企業にとっても良いはずです。
企業視点で利己的に考えてもESGに取り組んだ方が良いのか?
という声が聞こえてきそうですが、答えは当然「Yes」です。
以前から別のブログでも書いているように、企業は選ばれないと生き残っていけません。一方、世の中ではコモディティ化(均質化)が進んでいます。経営に必要なスキルのほとんどは本に載っており、エンジニアに必要なツールや知識もweb上で公開されています。ほとんどのことはマニュアル化・均質化され、個人や個社の機能的な強みはどんぐりの背比べ状態になりつつあります。製品やサービスも然りです。(今となってはiPhoneとAndroidの区別は見た目からはほとんどつかなくなりました。いつかはテスラ車と他メーカーのEVもそうなっていく気がします)そして今後もこの流れは、あらゆる産業で加速していくと考えられます。
このような世の中では、機能以外の面で選ばれる必要があります。いわゆる「いい人」「いい会社」戦略が求められます。
たとえば同じスキル・能力をもった個人であれば、その人がいるとチームの雰囲気がよくなる、一緒にいて居心地がいい、などの「いい人」要素を併せ持った人の方が、「ぜひこの人と一緒に働きたい!」となりますね。もっと言うと、今後スキル面はますますAIに置き換えられるようになっていきます。そうした中で、個人が選ばれるためには、スキル以外の、人の感情に働きかける要素が必要です。仕事におけるスキルの意味を拡張して捉え直すことが求められます。
これは会社に置き換えても同様です。どこの会社も、製品・機能面では大差がつけづらい状況にあるなかで顧客から選ばれるためには、「いい会社」要素が必要です。つまり、会社の理念やあり方がより重要になってきます。たとえばアウトドアブランド「パタゴニア」は、「ビジネスを手段に自然を保護する」と明言している通り、環境保護への姿勢を明確に打ち出しており、売上の1%を自然環境保護・回復のために寄付していることでも有名です。結果、こうした姿勢への共感によって多くの顧客からの支持を得ています。2020年に日本に上陸したスニーカーブランド「Allbirds」も同様に、環境への配慮の姿勢を明確にし、さらに独自開発した資源活用技術をオープンソース化しています。今後はこういった企業が選ばれ、そしてますます増えていくことが予想されます。
「優しい」を目指す
コロナがそれを教えてくれたように、社会の常識やルールは思ったよりもすぐに変わっていきます。過去の常識を前提に考え続けていると世の中からどんどん取り残されてしまいます。
機能面での他社差別化は難しく、顧客は企業の理念や姿勢への共感で企業を選ぶ。今、そんなルールに社会がシフトしつつあります。
もし、これからも機能や価格などで戦うなら、徹底的に「強く」なるしかありません。しかしそれは勝者総取りの、修羅の道にも思えます。
共感される理念や姿勢を持つ「優しい」を目指す。それは、なんとなく気持ちが悪い、肩がこる、という方もいるかもしれません。しかし、目の前のお客を喜ばせたい、従業員を幸せにしたい、と1ミリでも思っているのであれば、その「優しさ」を武器にしない手はありません。
「優しさ」を武器にするうえで、ESGやSDGsのフレームはとても便利なのです。それは、社会が必要としている「優しさ」が何なのか、を予め整理してくれているからです。いわば、答えが書かれているわけです。その話はまた別の機会に。
利己的な利他。
利他的な利他。
いずれも、社会が、会社が、個人が、より良くなるなら正義。そんな風に思います。
今回もお読みいただきありがとうございました!
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