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猪瀬元都知事のアレを忘れたのか?『スオミの話をしよう』【映画感想】

あらすじ

豪邸に暮らす著名な詩人・寒川の新妻・スオミが行方不明となった。豪邸を訪れた刑事の草野はスオミの元夫で、すぐにでも捜査を開始すべきだと主張するが、寒川は「大ごとにしたくない」と、その提案を拒否する。やがて、スオミを知る男たちが次々と屋敷にやってくる。誰が一番スオミを愛していたのか、誰が一番スオミに愛されていたのか。安否をそっちのけでスオミについて熱く語り合う男たち。しかし、男たちの口から語られるスオミはそれぞれがまったく違う性格の女性で……。

https://eiga.com/movie/100900/

レビュー

TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です(一部修正しています)。

以下、作品の内容に触れています。あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。 


そしてあらかじめ申し上げますが、この映画が好きだという人にとっては不愉快な内容になっています。

あなたの「好き」を汚すのは私の本意ではありませんので読まないほうがいいと思います。




観客を信じてくれ!!

『スオミの話をしよう』見てきました。

残念ながら今のところ今年ワースト候補です。つまらないだけならまだしも、登場人物たちの振る舞いにイライラして不愉快でした。「これが演劇だったら良かったかも・・・」という三谷作品にやってしまいがちなフォローもためらう完成度の低さだったと思います。

この映画、というか三谷さんの問題点は「観客への情報量や感情をコントロールする能力」が致命的に欠けているところです。端的にいって、映画を見る人たちの理解力を信用していないと思います。観客の理解力を低く見積もった結果、ミステリーもコメディもボロボロの駄作になってしまったと思います。


セリフの力を信じすぎている

まずミステリーの要素ですが、これは投げやりです。

詳細は省略しますが、終盤に明かされるスオミが失踪した真相について「まさか!?そんなカラクリだったのか!?」って驚いた人って誰かいるんでしょうか?ミステリー要素は実は重要じゃないというミステリー映画は沢山ありますが、だとしたら真相までを引っ張りすぎです。三谷さんは妻が失踪する映画の傑作『ゴーン・ガール』をご存じないのでしょうか。

じゃあコメディはどうかいうと、こちらも致命的につまらない。特に瀬戸康史さんが演じる狂言回し的なキャラクターが役割を果たせておらず、瀬戸康史さんがかわいそうにさえ思いました。

マジメに捜査がしたいのに元夫たちのワガママに振り回される、かと思ったらヘラヘラしながら元夫たちに元妻の話を聞いて回るデリカシーのなさもあるし、突然童貞みたいなボケもかましてくる。かなり好意的にみれば多面的な人物といえるかもしれませんが、私には血の通ったキャラクターには思えませんでした。

三谷さんはおそらく「セリフの力」を過信しています。なくても笑えることや、なくても伝わる情報をわざわざセリフにするのがうざったいです。


倫理的にどうなんだ

そして、ミステリーもコメディもボロボロなだけだったら「今回はハズレだったな・・・」で終わるのですが、本作をはっきり駄作以下にさせてしまったのは、元夫たちがただ不愉快なだけでなにも反省しないところにあります。

特に西島秀俊さんが演じる4番目の夫は、他の男たちより際立ってスオミを「何もできない女」と決めるつけているモラハラ疑惑のある男ですが、最後になってもそれを反省している様子は見えない、とてつもなく度し難い野郎です。


猪瀬元都知事から学ぶべきこと

警察には言うなって言ってるけどすでに警察沙汰だろこの状況!

あんなアタッシュケースに1億5000万円がキャッシュで入るわけないだろ!

猪瀬元都知事が5000万円すらカバンに入らないって教えてくれただろ!

てか投げる前に重さで気づけ!

みたいなツッコミを応援上映方式でやればギリ楽しめるかもしれませんが、誰一人応援したいキャラクターがいない、しいていえばスオミさんしか応援したくないこの映画、救いようがありません。

今年のワースト候補です。


※あとがき※

採用されたかったなあ(笑)

宇多丸さんが言っていた「真剣さ」を体現できそうなキャラクターの一人が瀬戸康史さん演じる刑事だったと思うのですが、彼がグダグダだったのがキツかったですね・・・瀬戸さんは何も悪くないのですが。逆探知のアレとセスナのアレは本当に酷かった・・・。

『ゴーン・ガール』のこととか、なんとなくメールと評論が重なっているところもあるような気がしたのですが、、、やっぱり採用ってハードル高いですねえ。

メールとして書くために削ったディティールを宇多丸さんが掘り下げ、かなり解像度高く言語化してくれて嬉しかったですし、ダメなものはダメだと言ってくれて痛快でしたね。


今回の宇多丸さんの評論で思ったのは、三谷さんが「単に映画には向いていない作家」ならば「演劇とかで頑張ってください」で終わりだったんですけど、インタビューで本人の口から語った「コメディはこうあるべきだ」というセオリーをこの映画は何一つ守っていないところに心底失望しました。

不勉強なもので、大傑作とされている『鎌倉殿の13人』は未見ですし、三谷さんの演劇は一つも存じ上げません。何もかもがダメダメな人ではないんだとは思います。ただ喜劇映画の作家としてはかなりツライなと思ってしまいました。

まだなにも知らなかった子どものとき、両親と三人で地元の名画座(小倉昭和館です!)に行って『THE 有頂天ホテル』を見たんですよ。そのときは子どもだったからかなり笑いながら見てたと思うし、名画座に初めて行った興奮もあってとても大切な思い出なんですよね。

でも大人になったいま、改めて『THE 有頂天ホテル』を見てしまうとあの美しい思い出が台無しになりそうで怖いです。それくらい映画作家としての三谷さんの信頼は揺らいでしまいました。


メールでは熱量少なめでしたが、一番問題なのはこの映画の「女性観」だと思います。スオミさんに対して男たちが徹底して「やれやれだぜ・・・」という空気でいるのが非常に不愉快。スオミさんがまるで「自分の生き方を自分で決められない人」「男に寄生しないと生きていけない人」かのように描いているのはいかがなものかと。

ほとんど内容は記憶にございませんが、最後に見た三谷映画『ギャラクシー街道』を悪い意味で超えてくるとは思いませんでした。

反面教師的にいい映画だと思うので時間とカネに余裕がある人は見に行ったほうがいいと思います。

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