『ルックバック』はアニメとして傑作だった!そして「原点」について考えこんでしまった!【映画感想】
あらすじ
レビュー
TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です。
以下、作品の内容に触れています。あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。
アニメならではの表現がとにかくハンパねえ
『ルックバック』見ました。
原作未読でしたが素晴らしい作品だと思いました。そして映画版鑑賞後に読んだ原作も素晴らしいものでした。原作に忠実でありながら、アニメならではのエッセンスを巧く取り入れている点が良かったと思います。
特に白眉だと思ったのは、京本が藤野の熱烈なファンであることがわかり、雨の中をウキウキで帰宅する藤野を描いたシーンです。原作では藤野の心の動きをセリフなく淡々と描いており、これはこれで漫画表現として見事なものですが、アニメではよりダイナミズムを感じさせる描写になっていたと思います。この日の出来事が後々の展開で悲劇的に伏線回収をされてしまいますが、まずは「自分の努力をわかってくれる人がいた」「本当の友だちに出会えた」という藤野の喜びがエモーショナルに伝わってくるシーンとしてとても秀逸だったと思います。
その他アニメならではのアレンジが見られたのは、藤野が京本の手を引っ張って歩く描写のリフレインだと思います。何度となく繰り返されますが(※)、二人の別れがいよいよ決定的になった頃には、人体としては異常なほど京本の腕が伸びきっており、二人の「漫画」に対する距離感のズレがここで表現されていたと思います。
(※追記:宇多丸さんの評によると劇中2回だったようです。なんで何度もあったような気がしたのでしょうか・・・)
だがしかし、人生は「つづく」
そして、ストーリーも文句なしでした。人生のIf、「たられば」を考えることが一時の救いになることもあるし、それこそがフィクションやエンタメの役割だと示す一方で、どうしたって変えることができない現実を生きていかなければならない、現世に残された人間たちの人生の連載は「つづく」と示す、極めてシビアな結末には胸を打たれました。昨今アメコミ大作を中心に乱立している「マルチバース」的なるものへの、藤本タツキ先生なりの矜持を感じる終盤の「飛躍」も見事だったと思います。
この物語は基本的に時制が一方通行で、小学4年生から大人になるまでを順番に追いかけているストーリー展開になっています。しかし『ルックバック』というタイトルからして、日本映画の『ちょっと思い出しただけ』とか『横道世之介』のように、「現在」を生きる藤野が心の痛みも含めて「過去」を思い返して懐かしむことがこの作品の核だと思いました。
そう考えたときに少し違和感をおぼえたのは、京本だけが徹底してかなり訛った方言で喋り続けていることです。他の登場人物は(私の記憶が正しければ)全員が標準語で会話をしますが、京本だけが方言を話し続けています。
この演出によって、現在は東京で漫画家として成功している藤野にとって京本は「故郷」や「漫画家としての原点」の象徴であることが際立っている気がします。これは漫画では表現できていなかったアニメならではの表現で、私はとても効果的だったと思いました。
この作品が「現在」を生きる藤野の回想だとするならば、藤野にとっての故郷の苦い思い出は「標準語」として漂白され、しかし藤野にとってとても大切な思い出である京本は「方言」という形で残したまま回想している。そんな風に見ることもできる作品だなと思いました。
私は原作未読でしたが、公開当時かなり話題になっていたのは覚えています。この作品をアニメ化するにあたってかなり演出が工夫されており、無理に尺を伸ばさず中編映画くらいの尺に納めているあたりにも作り手の誠実さを感じました。見に行ってよかったです。
※あとがき※
アニメや原作に触れたときにはあまり感じなかったのですが、宇多丸さんや熊崎アナの「自分の才能のなさに気が付いたのに、なんでこんなことやってんだろうと考えこんでしまった」という感想が印象に残っていて、たしかにそんな物語だなと思いました。
いやーほんと、ハガキ職人と呼ばれたいなんて全く思ってないですが、(ムービーウォッチメンは例外として)ラジオにメールを送ってもなかなか採用されない状況が続くと「なんでこんなことやってんだろう」という気持ちが湧いてきますよね(苦笑)
私は個人的に日記をつけていて、人に見せることは前提にしていないです。だからテキトーに書いてもいいはずなのに、未来の自分がハッとするようなこととか、爆笑するようなことを書いてやろうと思っています。
そうすると当然筆が重くなり、結果、いま2週間分くらい空白が続いていて日記としての機能はもはや果たしていない状況です(笑)これもやっぱり「これってなんのためにやってんの?」問題にぶち当たってしまいます。
それでも書いているのは、いまの時点でいえることだと【自分が自分であることを誇る】ため、かもなと思っています。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?