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そりゃスタローンとは全く違うけど、話だけは似ている。『おんどりの鳴く前に』【映画感想】

あらすじ

ルーマニアの辺境の村を舞台に、狭いコミュニティ内で起きた殺人事件を通して人間の醜悪さを生々しく描いたサスペンス映画。

ルーマニア北東部モルドバ地方の自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っていた。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。捜査を任されたイリエは、美しい村に潜んだ闇を次々と目の当たりにしていき、やがて驚くべき結末にたどりつく。

https://eiga.com/movie/102746/

レビュー

TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の人気コーナー【週間映画時評 ムービーウォッチメン】課題映画になったので感想メールを送りました。このレビューはそのメールの全文です。

以下、作品の内容に触れています。あまり事前情報を入れずに映画を鑑賞したい方は映画鑑賞後にご一読くださいませ。 



1:評判は嘘じゃなかった

『おんどりの鳴く前に』見てきました。
正直睡魔と闘いながら見ていた箇所もありましたが、なるほど評判通りの作品だなと思いました。

私が真っ先に連想したのはジェームズ・マンゴールド監督作、シルベスター・スタローン主演の『コップランド』でした。自覚的か無自覚的かはさておき、既得権益の構造の中にいた自分自身を奮い立たせ、権力の食物連鎖から抜け出す流れはとても似ていると思います。最終的に銃撃戦になることや、主人公を焚き付けるバディの存在、一方的に想いを寄せる女性と結局成就しないのもよく似ていると思いました。

傑作です『コップランド』

しかし「飼い慣らされた鳥が籠の中から抜け出す系映画(そんなジャンルがあるのかわかりませんが)」の中でも何となく異質さを抱くのは、主人公の造形にある気がします。


2:なんだか異様な主人公

イリエは痩せぎすで猫背、声もか細い、非マッチョな風貌をしています。しかしヴァリを一喝する時の乱暴な言葉の迫力、クリスティナへのアプローチおよびクリスティナの息子に対してかける言葉など、内面に隠れたマチズモを抱いている人物だと感じました。家父長的、保守的な価値観を持った人物であり、マッチョに振る舞えない自分に嫌悪しているように見えました。

果樹園での第二の人生プランは、そんな非マッチョな自分を受け入れるため必要だったのではなかったのでしょうか。しかし彼は籠の中の鳥だったのです。皮肉にも、そんな非マッチョの生活を手に入れるには、いかにも男性的なタテ社会の籠の中で七転八倒するしかなかったのです。

しかしオープニングに登場した籠からハミ出した一羽のおんどりとイリエを、私はどうしても重ねて見てしまいます。籠から飛び出し、内側からではなく籠の外側から籠の主たちを攻撃する力を得る。最後、背中に斧が刺さった彼の姿は鶏のトサカのように見えたのもおそらく意図的な演出だったのではないでしょうか。


3:もしも日本でリメイクするならば

ルーマニア映画など、あまり馴染みのない国の映画を見ると俳優さんに変な先入観がなく楽しめるなあと思いました。イリエを演じたユリアン・ポステルニクさんは見事でした。

個人的に、もし日本でリメイクするなら猫背で厭世的なオーラがあり、かつてモデルガンをぶっ放す狂気を見せていた爆笑問題・太田さんに演じてほしいなと思います。

猫背と銃以外になんの共通点もないといえばないのだが、本気で役作りしたら結構面白いのではなかろうか。ちなみに楽屋挨拶のときに銃口を向けるというお約束は現在はやっていないとのこと。

あとがき

正直に白状すると、メールでは「睡魔と闘いながら見ていた」と書きましたがハッキリ寝てしまった箇所がありました・・・。ただ私の基準として「寝ちゃったからつまらない作品」というものはありません。少しでも優れた箇所があれば全然映画代を支払った価値はあるな!と思える(というか思うようにしている)ので、本作も配信される機会があれば寝てしまった部分を補完したいなと思っています。

聖書であったりルーマニアのお国柄であったり、そういった観点から論じることもできる本作ですが、あいにく私は両方に疎いものでして・・・。

ですので、一番印象に残った主人公のやけにイキった感じにポイントを絞ってメールを書きました。

しかしあながち大外れでもなかったと、宇多丸さん評を聞いて安心しました。「男って本当にしょうもないよね」という視点がパウル・ネゴエスク監督の過去作から通底していると知り、「我が意を得たり!」という気持ちになりました。


余談ですが、いつか「映画と寝落ち」について真面目に考えてみたいなと思っています。

私はフランス映画に苦手意識があります。これはフランス映画に「ハリウッド的な盛り上がりがない」とか「アート性が強い」とかそういうことではないんです。苦手なのは「フランス語」です。

私だけでしょうか?とにかくフランス語と相性が悪いのです。名状しがたいのですが、あの何ともいえない丸っこくて甘いことばの響きが私を子守唄のように眠りに誘うのです。本作のルーマニア語にもなにか似たものを感じました。きっと寝てしまったのは言語の響きのせいでして、作品自体はなかなか見所があったのではないでしょうか。

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