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木原音瀬『惑星』すげ~良かったの話 - 2024/10/04 日記#240
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・最高最高最高~~~~!!!!!
・BLレーベルの方の木原音瀬ファン、一般文芸だからなって一旦置いてる人は、本当に今すぐ買って読んで欲しい。
⭐️本日発売⭐️
— 木原音瀬 (@narikono) September 26, 2024
文芸新刊「惑星」
装画•平庫ワカ先生
ムラという男の、確かにそこに愛のようなものはあった、な感じの男性登場率95%の話です
ポップにもなりましたが「読んでたら脳がつかれる」的な感想を2人ぐらいからもらいました!新鮮でした。どうぞよろしくお願いします⭐️ pic.twitter.com/ZcXA0Psp8s
・確かにそこに愛のようなものはあった、その一言に騙されたと思って読んでみて欲しい。
・私はあらすじほとんど読まず、でも何か熱いフィーリングを感じて買ったので、後から芸術家の青年・カンさんの存在を知った。主人公は語り部であるムラさんだけど、このカンさんがムラさんの人生に大きく関わってくる。私のこのBL、ブロマンスセンサーはいつも外れることはない。
・コミコミだとSS特典が付いてる、のを忘れて浮かれて一般書店で買った私のような愚かな真似はしないで欲しい。『あのはなしの続き』のついでに書い直したまじで。でも『unknownの柩』も今買い足そうとしてる。大馬鹿者・・・。送料・・・。(【11/1追記】『儘ならない彼』のついでに買えました。助かった。)
・この本を閉じて自分の人生に戻ると、私の思考までムラのようにシンプルになっていく気がした。お腹が空いたらご飯を食べる。働いたらお金が貰える。夜になったら眠る。すごく生き物らしい生活だ。
・この先はネタバレです。
・読む前は自分を宇宙人だと思っている、ってどういうことだろう?統合失調症とかそういうやつかな?とあんまりよくわかっていなかった。そして冒頭を読んで、正直に言うと、あぁ~~~・・・と思った。ムラは明らかに知的障害だ。読み進めていくと、発達障害も併発していることがわかる。この終始ムラ視点で語られる、独特な文体が苦手な人はいるかもしれない。
・私は読み進めて、なんとなく『箱の中』の喜多川を思い出した。読んだのは今過去のツイートを遡ったら(私の人生はすべてツイッターに書いてある)、2012年らしい。中学卒業したてくらいかな。その頃にはあまりよくわからなかったけど、今思えば喜多川もムラほどひどくないにしろ、何かしらの障害を抱えてそうな感じがある。
・ムラの精神年齢はいくつくらいなんだろう。知的障害や発達障害について専門的知識がある方にぜひこの本を解説して欲しい。下手したら10歳にも満たないんじゃないだろうか。
・ムラの母親もおそらく同じように知的障害や発達障害を抱えていて、それに加えて違法薬物にも手を出してしまっている。父親の方も日雇い労働者。しかし読んでいる限りでは健常者(少なくとも知的障害はなさそう)で、母親と同じく障害を抱えたムラに生きる術を丁寧に端的に教えていたのがわかる。
・読んだ人はみんな思っているだろうけど、この父親が本当に本当に良い。木原作品に出てくるような父親ならさっさと息子を見放しそうなもんだけど(信頼なし)、小学生のムラに「学校へ行け」と叱ったり、「高校へ行きたいか」とちゃんとムラの意思を確認したり、その上で一緒に働いたり、ずっとムラに愛情を持って接していて、ムラの決して楽ではない人生の幸福な点の一つはこの父親だと思う。本当ならもっと然るべき場所に支援をお願いするべきなんだけど、そこまでの知識はなかったんだろうな。
・クスリはやめろ、センター以外の手配師には付いて行くな、セックスは愛する人とするもの、ちんちんを触るのはトイレか布団の中、その他にも父親の教えはムラの人生にとって宝物だと思う。彼の人生の中で、愛された記憶があるというのはこの本の中でも大きな救いになってた。父親はムラに対して怒鳴らず、優しく穏やかに接していたのがわかる。怒られることを凄く嫌がるムラだけど、父親からああしろこうしろを言われたことに対して、指摘されて嫌だったとは思っていない。パニックにならない限りは教えを忠実に守っている。それが本当に良かった。
・でも、その教えが母親のAVを見つけてしまったことをきっかけに大きな大きな傷になってムラに帰ってきてしまったのは、やっぱり木原さんらしい展開だなと思う。もちろん父の「セックスは愛する人とするもの」という教えがなければ他人を傷つけていた可能性は十分にある。ただこの出来事だけを切り取れば、その教えがなくても嫌悪感はあっただろうけど、あそこまでのトラウマにはならなかったかもしれないと思う。まずもってあんなDVDには出会わないで欲しかったし、母親もなんとか救われて欲しかったけども。
・星から迎えに来る、というのはムラにとってはもう生きがいというか、それが精神的支えになっていたんだろうな。防衛本能が働いている感じ。父親や母親がいなくなってしまったことも星へ帰ったと思えばムラなりに受け入れる姿勢が出来て、自分ひとりでも何とかここまで生きてこられたのは本当に凄い。ムラ偉いよ。
・そして、ムラの人生の希望は星から迎えが来ること、ただ一つだったのが、カンさんとの出会いで大きく変わっていく。星に帰りたくない、カンさんの側は落ち着くというのは、ムラなりの最大限の愛情の感じ方なんだろうな。確かにそこに愛のようなものはあった、でもムラは語彙も少なく感情を知らないから、それが何なのかわからない。一見するとお世話してくれて温かい部屋とご飯があって、だからカンさんが好きなのかと思うけど、文章を読んでいくとそれだけじゃないよね。カンさんが悲しい時には寄り添って、体温を感じるのが心地よくて、いい匂いがして、ちゃんと他の優しい人達とは違う惹かれ方をしている。友達でも家族でもない、けど一緒にいたい。健気で可愛いね。まあそもそも、ここまでムラに声を荒らげず寄り添ってくれた人は、両親以外にはカンさんしかいなかったんだけど。
・カンさんは、あえてこういう言い方をするけど、なんでムラのこと飼ってるのかな。いくら食費や水道光熱費が少し増えるくらいと言ったって、カンさん自身もお金ないだろうし。ムラとの関係を繋ぎ止めておくには家に置いとくのが一番いいんだけど。一度別れてしまったらもう二度と会えないかもしれないからね。本の中でペットの話が出てきたけど、カンさんはムラをペットのような感覚で家に置いていることに対して少し後ろめたく思っているのかな。
・カンさんは少なくとも恋愛対象に同性が入ってるようだし、惹かれたのは多分きっと初対面の時からもう既になんだろうけど、ムラが他の人とセックスをしたという事実を受け入れられなかったカンさんは、結構ガチでムラのこと好きなんだなという決定打だったね。というよりも、解釈違いを起こしてしまった感情の方が大きいのかな。俗世から離れて閉じこもって生きてるムラの独特な世界観に惹かれたのに、自分がいない間に他の男にケツ掘られてたなんて、っていう。でも最後に突き放したこと、後悔してるかな。
・ムラ視点ではこのカンさんのこともあんまりよくわからなくて、いくら独特の世界観を持っていて身なりを整えればそれなりに見栄えする容姿だからといって、日雇い労働者のくたびれた臭くて汚い幼稚なおっさんを恋愛的に好きになるのかはかなり疑問。元カレは似た系統って訳でもなく普通の人っぽいし。ムラと一緒にいることへの打算や自分が享受するメリット(作品に昇華する観察対象、癒やし?)という面が見えないわけではないけど、カンさんがムラには難しい言葉で伝える台詞やそれまでには苦手だった「人を彫る」という作品への向き合い方の変化から、どうもやっぱりムラ自身ともちゃんと向き合ってるし好意があるようには思えるんだよな。だってそもそもいくら同性が恋愛対象とはいえ、普通の男の子が好意のないおじさんの頬に触れたり肩寄せ合ったりおでこくっつけたり出来ないでしょ。
・たまたまyoutubeを見てて流れてきた動画。このエミさんもおそらく知的障害を抱えている。でもめちゃくちゃ無邪気で可愛いし、端から見ていると会話もちゃんと成立しているように見えるよね。実際の言葉の理解度としてはきっとムラと同じくらいなのだろうけど。恋愛対象として見られるかは置いといて、こうした愛嬌あるキャラクターの方は、見た目や職業に関わらず、好感を持てたり助けたいと力を貸してくれる人がいたりするんだよな。カンさんも同じような気持ちなんだろうか。
・些細な触れ合いややり取りにいちいち顔を赤くして照れてるカンさん、芸術家でフリーターの同性愛者(かな?)という設定にしては中々に純真無垢なキャラクター。木原作品にメインで出てくるようなキャラにしては本当にいい子。性格も基本は穏やかで意地悪でなく、冷たくもない。ちゃんと働きながら自分のやりたいことも続けていて、ムラにも根気強く付き合っている。関係ないけど、甘雨って名前可愛いね。氷属性の弓使いみたいだね。
・対するムラも、世界の解像度はめちゃくちゃ低くて精神的にかなり幼稚ではあるけど、その知的障害故に改善しようがない面を除けば、別に性格は悪くはないし倫理観や道徳的価値観も父親の教えもあってかなり真っ当。木原作品にしてはメインキャラ二人の性格が全然終わってないんだよ。凄い。その代わり周りには相変わらずムラを搾取したりムラと一緒にいるカンさんにたいして揶揄したり、ひどい人たちばっかりだけど。環境もクライマックスも終わってる。
・二人が寄り添って寝ているシーンなんかは、もうこの幸せな時間がずっと続けばいいのに、と願わずにはいられなかった。何もかもが欠けているムラと、活躍する同期にコンプレックスを抱えながらも必死に夢を追いかけて活動を続けるカンさん。二人が隣に並んで不器用ながらも支え合っていく姿が見たいよ。でも木原さんがそんなの許してくれるはずがなく、正直序盤は木原さんにしては優しい話だなとすら思っていたんだけど、ラストスパートでどんどん追い上げてきて最後の数十ページはかなりいつもの味がした。最高です。
・最後の最後で、二人は些細なすれ違いでパニックを起こし、ムラは原発へと連れて行かれてエンド。伏線がこんな最悪な形で回収されるなんてね。悲しいね。二人ともなんて不器用なんだろう。カンさんもムラが持っている障害についてはちゃんと理解してないだろうし、ムラが難しくて面倒くさくてわからないことには全部「はい」って答えてることにも気づいてない。このすれ違いがいつか解決してくれるといいな・・・。カンさんのことをすぐ忘れちゃっても、きっと腕の宇宙を見たらまた思い出すよね。
・私はジジイと若者の話が好きなんですけど、思いがけず『惑星』もジジイと若者の話で嬉しかった。いや、カンさんの年齢わかんないけど。みなさんはジジイと若者の話すきですか。ジジイと若者まとめ作ろうかな。
・木原さんのジジイ本といえば『鈍色の華』『深呼吸』『夜をわたる月の船』などなどがあるけど、私はまだどれも読んでないな。『NOW HERE』は大好き。『期限切れの初恋』はホームレス本。読もうかな。『嫌な男』も『MUNDANE HURT』も無職だったっけ。ちるちるの対談イベントで木原さん自ら「貧乏なキャラが多い」って言ってたけど、こうして並べてみてもまさに貧乏だらけだね。
・私は10本以上は木原音瀬作品を読んできたので知ってるんですけど、これ続きありますよね。商業では難しいかもしれないけど、同人で続き出ますよね。『ラブセメタリー』もあったからね。何より今年は『MUNDANE HURT』のまとめが出たことで続編があったのを知り読んだのだけど、これ本当にちゃんと同人まで読まないと完結しない話だった。商業版の終わりはひどいもんで、完結編を読んだ時にやっとこの作品が消化出来た。『惑星』も、まだ終われないよ。
・【10/15追記】SS届いたんで読みました。カンさん、やっぱだいぶ好きじゃん・・・。そもそも好みではあったんだ。ぽやっとしてて我道を行くタイプの人が。それにしても家に上げて生活を共にして同じベッドで眠るまで行くのは凄い。あまりにも本気だ。許容範囲でかくないか。でも、カンさんもきっとこれまでに辛い思いを沢山してきて、生きづらいなって思うこともあったんだろうな。同期は愚痴を言いながらも世間一般に馴染んで働いてて、元彼は結局女を選んで結婚しちゃって、自分ひとりだけが置いていかれてるような気がするよね。そんな中で出会ったムラの隣なら、少しは呼吸がしやすかったのかな。再会、出来ると良いね。
・【10/25追記】ジブンの星を読みました。ムラにとっての星が、どこにあるのかわからない宇宙の果てから、カンさんのお部屋になっていませんか。防護服、きっと重くて暑くて大変だよね。だけどカンさんにお金を渡すために頑張ってるんだね。ムラが謝る必要なんてないのに。カンさんのこと忘れちゃだめだよ。
・小遣い稼ぎにアソシエイト使ってるんでAmazon貼ってますけど、SS付いてるのでコミコミで買ってください。
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