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夜の片隅にひとり。
ふと、目を覚ました。
スマホを見る。
彼女からのおやすみLINEは1時間前に来ていた。
もう、寝てるよな、と思いながら、ぼんやりと天井を見つめていた。
少し喉が痛い。
酸素を吸ってると(SpO2が低いので酸素療法中)乾燥するんだよって彼女が言っていた言葉を思い出したりして。
今夜はひとりの夜だ。
カーテンを開けて、外を見ると、案外と明るくてたくさんの車や人影が見える。
人の気配はこんなにも感じるのに、夜はどうしてこんなにも孤独なんだろう。
ふと、思う。
僕は1度死を乗り越えたけど、また死んでしまうんじゃないのかと。
普通に死にたくない。
でも、これから健康に戻って生きられる確証はない。
体調が良くなったり悪くなったりを繰り返して、悪くなった時はつい、こう言う事を考えてしまう。
「僕は彼女より先に死なない」
こんな約束を、彼女としている。
でも、約束、守れないかもしれない。
明日、このまま体調がどんどん悪くなって死ぬかもしれない。
心臓が止まってもう、動かないかもしれない。
そしたら、僕はどうすればいいんだろう。
死んだら、何も出来ないんだけど。
彼女になにか残せるだろうか。
いや、残しても良いのか。
思い出を残すより記憶ごと消えたい気もする。
明日死んでしまうかもしれないから後悔なく生きろ。
こういう言葉をよく見るけど、後悔しかないよ。
無理。まだやりたい事が山のようにある。
人生100年、いや50年だとしてもまだ半分も消化してないのに後悔なく生きられるわけないだろ。
明日、死ぬことがわかってたら僕はここに居ない。
脱走だ。
とりあえず家に帰って、彼女の所へ行く準備だ。
夏デート用に買ったセットアップ、その他にもデートに着たかった服、肌を守るセット達、帽子、サンダル、会ったら渡そうと思ってたプレゼント達、新しく買ったbeats、何冊かの文庫本、、、これだけあれば、あとはスマホがあればなんとかなる。
これを持って羽田空港へ。
飛行機のチケットを取って、朝一で彼女の所へ。
空港からどう行けば良いのかは、待ち時間に調べよう。
会ったら、抱きしめて「愛してる、大好きだよ」って伝えて、自分が先に死んでしまう事を謝る。
僕が死ぬ瞬間まで、傍に居てくれるといいな。
特別な事はしなくていい。
ただ、傍にいたい、いてほしい。
……なんて、死ぬ瞬間がわかるわけないから不安になるんだ。
今日もひとり、薄暗く、静かな、独特の空気感のある病室で、僕は自分の中の不安と向き合う。
「彗くんは、すぐダークサイドに落ちるから笑」
なんて、笑いながら僕を優しく包んでくれる彼女の事を思い出しながら。