創作小説・神崎直哉の長い1日 第14話 イジメ、カッコワルい①ー前園真聖の名言よりー
※この作品はのオリジナル版は、2006年に執筆されたものです。
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「あら~、誰からメール?」
「天堂からだよ。3限目からは授業に戻らないと」
現在の天堂との契約内容には、こんな内容がある。
ーー私、天堂梓の代わりにある人物を守る事ーー
「次の時間は、なにやんの~?」
「体育だよ!」
喜多原の問いに答えを返しながら、俺は天堂に返信メールを送る。
《わかったよ。急いで戻る。次は合同体育だよな?》
「体育か~。いいわね~。ウチの学校、球技ばっかりだしね~。あたしの通ってた高校はそりゃもう大変で……」
「あんたの過去に興味はないから、とっとと紙をくれ! もう着替えに行かないと間に合わないし」
紙――保健室利用証明書。要は普通の病院におけるカルテみたいな物だ。これに保健室に訪問した理由――体調不良や怪我――を、喜多原に書いてもらい、後で担任に提出すれば、大抵の事はお咎めなしになる。
たとえ、実際に怪我や病気になっていなくてもだ。
「はいはい、ちゃんと書いておいたわよ~。保健室利用理由、登校途中発狂した無差別殺人鬼に襲いかかられ、顔を切り裂かれた。はい、ど~ぞ」
「んな不自然な理由があるかっ!」
ホントに殺人鬼に襲われたら、学校じゃなくて、病院に行ってるわい。
「冗談に決まってるじゃな~い。よく紙をみなさいよ!」
ふてくされながらタバコの煙を吐く喜多原だった。
「冗談に聞こえないんだよな、あんたの場合……。なになに……」
保健室利用理由――階段でしこたま激しくすっころんで、顔に傷ができた。
この理由もどうかと思うが、もう時間がない。とっとと更衣室に向かわなければ。
「納得いかないが、間に合わないから行くぞ。じゃあな喜多原!」
「はいはい、ご主人様またのお越しをお待ちしてま~す! うふ~っ!」
そんなヘビースモーカーのメイドがいてたまるか。
更衣室へ向かい走る中、携帯の着信音が鳴った。
天堂からまたメールだ。
《あ~ん。携帯を胸ポケットに入れてたから、着信のバイブで感じちゃったわ。フッ、神崎君もなかなかのテクニシャンね。》
何を言っている天堂は……。あ、まだ続きがあった。
《次の体育、どうやら珍しく女子もグラウンドでやるみたい。男子はサッカー、女子はテニス。あなたの腕前、見せてもらおうかしら。いつもの事も頼んだわ。》
へえ、今日は女子もグラウンドか~。こりゃちゃんとお仕事しないといけないな。まあ、仕事ってほどじゃないけど。
適当に返信メールを天堂に送りつつ走っていたら、体操着姿の男子生徒たちがこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
やばい、少し遅れるかもしれねーな。
結局、更衣室に着いたとき、他のみんなはすでに着替え終わった状態だった。俺もとっとと着替えなくては。
♪ピロポロスポーン、パンパカパーン♪ パッパオーーーン♪
脳天気なメロディーが携帯から流れ出た。
凛専用の着信メロディーだった。
「なんだよ凛! 今着替えてんだよ!」
『……グスッ、なぉやがなかなか来ないから~、心配で夕果先生の所に行ったのぉ~……』
ニアミスかよ。ていうか遅刻するんですけど。しかも泣いてるし。
『……そしたらぁ、グスッ、夕果先生が直哉が誘拐魔に誘拐されたって言うから~、わたし心配で~グスッ、うわ~ん!』
喜多原あの女! よけいな事を!
「おい凛、俺は無事だから安心しろ! つうか次の授業に間に合わない! だから取り敢えず電話切……」
『うわ~ん! グスッ、グスッ、生きてるんだねなぉや~! よかったよ~わ~ん!』
生きてるから電話に出てるんだろうが!
「わかったから遅刻する! 切るぞ!」
『あっ、あっ、あ~ん直哉うれしぃ~ん! りん、濡れちゃう~ん!』
「似てねえよ! 喜多原てめえいいかげんにしろ!」
この女は何をしたいのか……。
『わかったわよ~。こっちだっていきなり凛ちゃんに泣かれて困ってたのよ~。ちゃんと新しい利用理由証明書は作っとくからさ~。凛ちゃんの分もね! だから3限目終わったら、またここに来てよ……ってああ、凛ちゃんちょっとそこの…』
くそ、結局遅刻なのかよ。急がなくては、あいつがまた、なにかされているかもしれない。
ようやく着替え終わった俺がグラウンドに出ると、とっくに授業は始まっていた。10分は遅れて行ったから当たり前なのだが。
「おいこらデーブ!ちゃんとやれよ~!!」
「デーブ走れよー!」
「ほーら~デーブ、受けて見ろ~!!」
俺の眼前に見えたのは、片方のチームのゴールキーパーが、一方的に攻撃を受けているところだった。
「……大仁田! 今いくからな! 待ってろ!」
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