創作小説・神崎直哉の長い1日 第17話 イジメ、カッコワルい!④ージャイアニズムー
※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されたものです。
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後半戦開始直前、センターラインの前に立つ俺に、敵チームの代表的存在でもある田中が話しかけてきた。
「なんだよ! なにか用かよ!?」
「ふっふっふ、威勢がいいなあ~。先程の攻撃はなかなかだったぞ神崎よ!」
不快なオーバーリアクションとともに田中が言う。
「そうかい、どうも」
「貴様の実力を少し見くびっていたようだ……、後半からはおれも本気を出そう!」
今までも本気だったように思えるが……。
『うおおお!』とか『ぱめら@¢%※ゃおお!!』とか判読不能の奇声を発しつつ、サッカーコート内を走り回っていたはずだ。
「今までは80%の力しか出していない。しかし後半は120%の力を見せてやろう!」
そうなんですか。しかしいちいち芝居がかったヤツだな。
「それは楽しみだな」
「して神崎、先程の強力なシュート、あれはなんというのだ?」
田中がわけのわからんことを聞いてきた。
「なんという? 意味がわからんな。ただの普通のシュートなんだが……」
「なんと! あれほどの技に名前がないというのか!? 」
普通わざわざ名前までつけんと思うが。
「じゃあ、お前のシュートには名前がついてんのか?」
気になったんで、田中に聞いてみる。
「ふふん当然だろう! 先ほど貴様が見事に止めたシュートは『疾走不死鳥』という!」
「ふうん、そうなんだ」
田中の将来が心配だ。
「ほかにも『激震豪放龍』『驚異繊滅光』『怒涛烈波』などの素晴らしい必殺シュートがおれにはある!」
「そりゃすごいな」
そういやさっきの試合中の奇声は、必殺技名を叫んでたのか……。
「貴様のシュートにも名前をつけてやろうか? さっきのあれ、『スパークエナジー』というのはどうか?」
「別にどうでもいいよ」
勝手に名前付けてるし。俺だと技名が横文字になるんだな。こだわりなのか。
「いやいや遠慮しなくていいぞ! 金など取らん!」
命名料がいるのかい!
「それより、そろそろ後半開始の時間じゃね?」
「待て待て! 本題がまだだ!」
まだあんのかい! ていうかさっきのが本題なのかと思ったぞ。
「わかったよ、早くしてくれ」
そう言った俺の声に対して頷いた田中は、とある方向に指を向けた。
その先にはひときわ目立つ長身の美しい少女ーー天堂ーーが立っていた。
「天堂がどうかしたのかよ」
当の天堂本人も、まさか自分の話題が出るとは思わなかったらしく、珍しく驚いてるみたいだった。
「ふふふ、本当に美しいなあ天堂は。……貴様の彼女なのだろう?」
「ああ、そうだけど」
本当は契約上の偽装彼女なんだけどな。
「なあ神崎? 素晴らしい女には、素晴らしい男が似合うとは思わんか?」
「はあ? 何が言いたいんだ?」
また、妙な事を言い出すみたいだ。
「現在の得点が10対5、貴様らはあと6点取らないとおれたちには勝てないわけだが……」
「確かにそうだが」
何をわかりきった事を……。
「ここで提案がある! 賭けをしないか?」
「賭け? 何を賭けるんだよ?」
また、厄介な話になってきた……。
「おれたちA組が勝ったら、天堂はおれの彼女になる! ふふふどうだ?」
……こいつ、マンガの読みすぎじゃねえのか?
天堂の方を見たら、あまりにも幼稚な発言に愕然としているようだった。
「おれはともかく、天堂がなんていうか……」
仮に俺たちが負けても、天堂が田中のような奴の彼女になることはないだろうが。
「私は別にかまわないわよ」
馬鹿の相手なんてしてられるかといった感じで、天堂が答えた。
「そうかそうか! 試合後が楽しみだよ!」
だから別に相手にしてないだけなんだって。
あれ、そういや俺たちが勝ったら、なんかメリットとかあんのか?
「おい、俺たちが勝ったときは、お前なにかしてくれんのかよ!」
田中を問いただす。
「ふん、本気を出したおれたちに勝てると思ってるのか? どうせ不可能な事なのだ、貴様らの好きに決めればいい!」
何を偉そうに……。
そうだ! いいことを思い付いた!
「じゃあ、こういうのはどうだ? おまえら、俺が来る前、大仁田の事を散々バカにしてたよな?」
テニスコートに向かっていた天堂が立ち止まった。
「俺たちが勝ったら、おまえらA組男子は全員、大仁田に対して土下座! 謝罪してもらおうか~っ!」
田中以外の奴にも聞こえるように、大声で叫んでやる。
「ふっ了解。男の友情だがなんだか知らんが、どうせ無理なことだ」
俺たちを嘲[あざ]笑うかのように田中は言った。
ふん、いまのうちに笑ってろ。
天堂の方を見る。
天堂は俺の方へ一瞬振り向き、笑顔を向けながら軽く会釈するような動きを見せた。
そして、再びテニスコートの方へと、駆けていった。
後半戦が、始まる。
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