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創作小説・神崎直哉の長い1日 第15話 イジメ、カッコ悪い!②ーがんばれキッカーズー

※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されたものです。

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 サッカーコート内にたどり着いた俺の目に映った物は、壮絶な光景だった。

 俺達B組側のゴールキーパーは、相手チームA組メンバーの苛烈な攻撃にボロボロになっていた。

「…………!」

 殺気を感じた。テニスコート側からだ。かなり遠く離れているのにも関わらず、俺が戦慄するほどの強烈な殺気だ。

 オーラが放たれている場所に目をやると、そこにはいつものように、優美に振る舞う天堂が立っていた。

 傍目[はため]にはわからんだろうが、完全にブチキレている。

 ゴゴゴゴゴゴ(オーラの音)《……神崎君?ずいぶんと遅かったじゃない?今までどこへ…?》

《悪い、実は朝からいろいろあって。後は俺にまかせろ》

 ゴゴゴゴゴゴ《……そう? お願いするわね。そろそろ私自らが手を下そうと思っていた所よ。ちゃんと彼を守ってあげてね》

 俺にそんなテレパシーを送りつつ、天堂は相手側テニスコートに向かって華麗なサーブを決めていた。

 器用な奴……。しかし、これ以上遅刻したら天堂は殺していたかもしれない。

 俺、それに今俺達B組側のゴールキーパーを執拗に攻撃してる連中を。



 ピィー―――――――ッ!!


 ホイッスルの音がけたたましくグラウンド内に鳴り響いた。

 俺がサッカーコート内に入った早々にである。

 ゴールキックの準備をする中、悪友のひとりでもある阿部に訊ねる。


「おい今、何対何だ?」

 キーパー大仁田の焦燥した様子を見る限り、かなりの得点差がつけられている事は予想できるが……。

「10対0である! どちらが0かは言わなくてもわかるよな心の友!」

 マジかよ……。

「しかし、お主が授業をサボるものだから、我が輩たちは凛殿をなだめるのに大変だったのだぞ!」

 いろいろ突っ込みたい事はあるが、あえて無視する。

「おい直哉! テメー今までどこほっつき歩いてた!? おれひとりで今までA組バカ軍団の相手してたんだぞコラァ!?」

 いかにもオレは頭が悪いです! と言わんばかりの、金髪ショートモヒカン頭の男に怒鳴られた。

「しょうがねえだろ。いろいろあったんだ。だいたい亮兵! お前も10分で10点って、点取られすぎだろ! やる気あんのか?」

 筒井亮兵。こいつも俺の悪友のひとり。

「ねえよ! 大体クラス編成が異常なんだよ! おれ達B組が文系もやしっ子軍団で、ヤツらA組はスポーツバカばっかじゃん!」

 偏ったクラス編成には理由があるのだが、今は置いとく。

「おまえもスポーツバカだろ~が! もう少し頑張れよ!」

「うるせえな~今オレが興味あるのはパンクミュージックの事だけ! つ~かオレがやってたのは野球でサッカーは観るのが専門!」

 しかし、ボロボロの大仁田が気になるな……

「亮兵! おれは、ちょっと大仁田のとこまで行ってくっから! おまえは適当に抜かれないように攻めといて!」

「はあ? わーったよ! あとでジュースおごれよな!」

 そう言って、渋々走っていく。

「オーケー! 阿部も一緒に行ってくれ! 適当にボール持ってるヤツの周りうろついてりゃいいから!」

「我が輩もか!? ……うう、わかったでござるよ~」

 半泣きになりながらも、亮兵の後に続いていった。

 さ~て。大仁田のとこに行かないと。


 ゴール前に頼りない足取りで、仁王立ちする小柄な小太りの男、大仁田裕二。さっきの阿部と亮兵と同じく、俺の友人の一人である。

「神崎君……。頑張ったけど、結構点取られちゃった。ごめん。僕ニブいから……」

 大仁田の体はアザだらけだった。腕や脚の至る所が赤黒く変色していた。いったい何発のシュートを喰らわされたのだろうか。

「おまえは気にするなよ。俺も遅刻したし、他のヤツらももう少し頑張んねえといけねえよな」

 まったく。大仁田が罵倒されながらも、必死でやってるんだから、もう少し気合い入れてやってほしいもんだ。

「……ありがとう、神崎君。……あっ!」

「なっ!亮兵のヤツっ!」

 もう抜かれたのかよっ!

 俺たちの眼前には、物凄い勢いでボールをドリブルしつつ、こっちに向かってくるA組の奴の姿が映し出されていた。

 ボール持った奴以外にも、揃いも揃ってこっちのゴールまで向かって来やがる!

 ………バカが、お前らのゴール前が、ガラ空きじゃねえか。

 「……ったく、落ち着いて話してるヒマもねえ」

「うん、そうだね……」

「よし、大仁田! いいもの見せてやる!」

 俺はボールを持ったバカに向かい、走りだす。

「おらあっ!」

 抜いた!

 そして、そのままボールを奪われないように、ドリブルしながら走る!

 見えるのはA組ゴール一点のみ!

「そらあああっ!」

 渾身の力を込め、右足をボールに向かって振り下ろした!

 スキだらけの空間をくぐり抜けて、ボールはゴール内へ吸い込まれていく!

 ピィー――ーッ!

 ホイッスルの音が鳴り響いた。

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