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創作小説・神崎直哉の長い1日 第18話 イジメ、カッコワルい!⑤ー飛べない豚はただの豚だー


※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されました。

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「うおおおおぉ!! 波動昇竜っ!!

「なんのっ! ブルマからのはみパンがおれに力をくれた!」



 試合は白熱していた。確かに田中は前半以上の力を見せてきたが、こっちも走るセクハラ野郎こと、亮兵が実力以上の活躍を見せていた。

 実はそれには理由がある。

 A組女子、和桐かなめのおかげである。


ー10分前ー

 後半開始直後から、俺は敵ゴールを集中して狙うも、さすがにさっきの『賭け』の内容が効いたのか、なかなか敵陣を突破する事ができないでいた。

「ちっ、まだ一点も取れねえ! ……このペースだとまずいな」

 俺は焦りのあまり、舌打ちした。

「そ~だな~、あ~あちぃ……あ」

 亮兵が、暑さのあまり腰をかかげた、その時。

「どうした亮兵、なにかあったか?」

「……ミラクゥ……、おれは今奇跡を目の当たりにしている……」

 なに言ってんだ亮兵は? 暑さのあまりイカれたか?

「あ、あそこ見て見ろよ……へへ、うへへへ……」

 奇怪な笑みを浮かべる亮兵が指差した方を見た。

「なんだよ、見物に来てる女子がいるだけだぞ? あの、……わ、和桐か? 和桐とかいう子がどうかしたのか?」

俺は亮兵が指差した先に立っていた女子生徒の平坦な胸元の、名前入りゼッケンを見て言った。

「ブルマ……、ブルマよく見ろよ……へへ、ぱ、パンツがはみ出てる……」

 確かに注意深く見ると、白いのがはみ出ていた。よく気づくなといった感じなのだが。

「そうか……、わかったから試合に集中し……」

 グラウンドの様子が異常だった。どこをどう伝わったのかはわからんが、『和桐はみパン』の情報がグラウンド上の男子たちに一斉に伝わったらしい。

 俺以外の男子全員が和桐のことを見ていた。

 はっきり言って視姦だった。

 グラウンド上の男子ほぼ全員の熱い視線を浴びた、和桐という女子生徒は、その視線の意味に気付いたのか、必死ではみ出たパンツを見えないようにブルマにしまうも、

 逆側がまたはみ出ていた。

 そして、半泣きになりながら『あっあうあう』やら『えっえあああぅ』とか『ひっひゃあああ』などと呟きながら、自身の下半身と格闘していた。

 しかし、片側を直したら、もう反対側がはみ出る。そんな事を繰り返していた。

「あの、和桐かなめとやら……三次元女のくせに我が輩を萌えさせるとは!」

 
 阿部が関心していた。

 しかしあの和桐とかいう子、凛の親戚かなんかじゃなかろうな……。他人とは思えん。

 ……て、いまはそれどころじゃない。

 俺は冷静にグラウンド上の様子を窺う。

 スキだらけじゃないか……。

 田中も和桐の方を見て、鼻の下を伸ばしていた。

 よし、いまがチャンスだ!

 俺は走り出した。そしてボールを奪い取り、ゴールへ向けて走る!

 ゴール前はガラ空きだ、邪魔者はいない!

 くらえ!

 ピィ――――――――ッ!!

 よし、6対10!

 A組の連中はあっけに取られていた。一瞬の出来事だったから、無理もない。

 しかし、俺の女性恐怖症もたまには役にたつな。

 ある意味恩人の和桐かなめを見たら、友人らしき女子に泣きついていた。

 ……可哀想に。亮兵がいたばかりに……。

 そんな罪深き男のほうを見たら、反省するでもなくニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべているのであった。

「まったく……」

 俺はあきれた。

 ところが、この性犯罪者予備軍が大活躍するのだ。

 A組の猛攻を食い止め、俺に的確なパスをよこし、亮兵自身も一点取った。 

そして、



 ピィ――――――――――――――――――ッ!

「むう貴様っ、『スパークエナジー』かっ!?」

 田中が俺のシュートを見て、言った。

「知るかよ、ただの普通のシュートだっつうの! ……ようやく10対10。追いついたな」

 俺は不適に笑って見せた。試合終了まであと、3分。

 なんとしても、勝ちたい。

「亮兵! 阿部! あと一点だ! 攻めるぞ!」

 俺がそう宣言すると同時だった。

「うわっ、おぬしら何をっ!」

 凄まじい勢いでA組の連中が攻めてきた!


 阿部が持っていたボールを3人掛かりで攻め込んで、強引に奪い取る!

「なんだよ! 反則ギリギリじゃねえか!」

 阿部のやつ、すっころんでるぞ!

 A組連中は俺たちB組の防衛ラインを突破し、ゴールに向かって一直線に突き進んでいた。

 俺がいかなきゃヤバい!

「いかせねえぞっ!」

「てめえはここで、俺たちが点入れんのを見物してろや!」

 B組男子生徒AとBが俺の前に立ちはだかる。

 ちくしょう! 邪魔くせえ! このままだと、大仁田が……!




「ふはははは! くらえっ! 魔天翔虎っ!」


 いつの間にか、俺たちのゴール直前まで来ていた田中が、ふざけた名前のシュートを放っていた。

 もの凄い勢いで、ボールはゴールへと向かっていく!

「大仁田ぁっ!」

 叫ぶ俺に対して、大仁田は、

 微笑んでみせたのだ。


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