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創作小説・神崎直哉の長い1日 第10話 校門前の攻防②ーツインテールは怪獣の名前ではないー


※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されたものです。一部、過激な表現がございますがご了承ください。

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 凛とチョコボール先生の白熱した、なおかつ微笑ましい戦いも終わり、俺は遂にひとり取り残されてしまった。

 凛も心配気な表情を俺によこしつつ、校内へ入っていった。

 俺の列の風紀委員本当、トロいんですけど、一体どんな顔をしてるやら。

 いつの間にか、俺の後ろに並んでた奴らも他の列に移動したのか、いなくなってるし。

 もう遅刻寸前の時間だよ。

 早く校内に入れてほしいんですけど。



 ようやく俺の前の奴のチェックが終わり、遂に俺の番が来た。

 ここは早く整理券もらって、とっとと校舎に行きたいところだ(違う)。

 そんなくだらない事を考えている場合ではない。

 俺が最後のひとりだった。

「じゃあ先生、ホームルームの準備があるから先行くぞ~! 風紀委員はホームルームに間に合うように教室へ戻れよー!」

 チョコボールも行くのかよ!

 俺の前には、品定めをするかのごとく俺を凝視する、ツインテール女子が立っていた。

 こいつが渋滞の原因かよ。

 やれやれ早く、検査終わらせてくれねえかな。


 しかしさっきから舐め回すように見られてるんですが。

 かゆくなってくる。

 
 妙に強い力のあるつり目の瞳だった。

「神崎君……」

「な、なんだよ」

 女の子らしい透き通った高音ながらも、どこか威圧的な声だった。

 思わずビビってしまった。

「頭……少々寝癖有り、マイナス1。顔……ヒゲの剃り残し有り、マイナス1。制服……制服の下に着ているインナー、学校指定外の柄物、マイナス10」

 淡々と冷静にチェックシートに、記しを付けていく。

「インナーは白の無地のシャツと決まってます。以後注意してください」

 無感情な声で告げられた。

「わかったけど……、厳しすぎないか? 他の風紀委員なんかもっと適当にやってたような気がするんだが?」

「他は他。わたしはわたし」

 きっぱりと言い放った。

 どうやら自分の意志を貫き通すタイプらしい。



「草薙さん……。あたしたちもう教室戻るからね!」

 他の風紀委員が言いづらそうに声をかけつつ、そそくさと去って行く。

 いよいよ校門前には、俺と草薙と呼ばれたツインテールのみとなってしまった。

 そういやなんか見たことあるような気がすると思ったら、俺と同じクラスだったんだな。草薙という名前には聞き覚えがあった。

 
 どうりで向こうに俺の名前を知られてるはずだ。

「なあ、俺たちも取りあえず教室にいかないか? ホームルームに遅れるし」

「ダメです。まだチェック欄が埋まってません」

「分かったよもう……。なるべく早く終わらせてくれ」

 草薙の言うとおりにするしかないようだった。

「ズボン……ベルトが派手、マイナス3。後チェーンは不要…マイナス5」

 マイナスばっかだなしかし。なんか鬱になってくる。

「次は持ち物検査です。カバンの中身を見せてもらいます」

「特に変なもんは入ってないはずだ。とっとと見てくれ」

 苛々してきたので、やや横柄にカバンを突き出す。

「……。教科書、ノート……。確かに変わったものは……あ」

「あ?」

 草薙の動きが急に静止した。顔をよく見たら青ざめている。

「なんだよ中になにかはい……あ」

 俺のカバンの中に健全な若い青少年が愛好するゴム製品が、入っていた。

 要はコンドームの事です。

 草薙の顔がみるみるうちに青から赤に変わる!

 校門前二人きりでコンドームを見つめあう男女ってどうですか!皆さん!

「神崎君……何これ?」

「それは性行為の時に使う避妊具のひとつですね! 草薙さんもおひとついかが?」
 
 どう対応してみたらいいかわからず、思わずボケてみた。

「いらないわよ!!マイナス2億!!最低!!」

「マイナス2億ってちょっと……」

 インフレにもほどがある。

「近寄らないで! あたしに見せたいがために、わざとカバンに忍ばせといたのね!!」

 いや、そんな事するかよ…。ていうか俺女性恐怖症だし。

「違うよ……」

「ちがわないわよーっ! このヘンターイッ!!」

 バチーン!!

 草薙が俺をビンタする音が校内に響くのだった。

「死ねーーっ!」

 捨て台詞を残して草薙は校舎内へ走っていった。

 キーンコーン カーンコーン

 呆然と放心状態でひとり立ち尽くす俺に、ホームルーム開始のチャイムの音が聞こえた。

 俺はある女の言葉を思い出していた。


「うふっ。神崎君、これ余ったからあげるわ~。もしかしたら神崎君もいずれ使うときが来るかもしれないしね~」

 その女は、俺を小馬鹿にするような表情で、なにかをカバンの中に忍ばせていた。

 その時は何をもらったのかわからなかったのだ。

 恐るべし天堂梓。

 そして、俺は一限目開始のチャイムを聞くのだった。

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