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創作小説・神崎直哉の長い1日 第16話 イジメ、カッコ悪い!ーブルマ万歳ー

※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されたものです。

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 グラウンド内は騒然としていた。

「おい直哉! やるなっ! さすがだぜっ!」

 使えない金髪が、ヘラヘラと笑いながら近付いてきた。

「うるせー亮兵! 抜かれんの早過ぎなんだよ」

「へへっ、まあいいじゃないか。それより見ろよ!」

 よくはないだろ。亮兵が指さした方を見る。

「今のお前の活躍で、女子たちがこっちまで来てるぜ! うひょ~ブルマたまんね~」

 よだれを垂らしながら、補導されそうなイヤらしい顔の亮兵が言った。

 ゲームに参加してない暇な女子たちが、わざわざテニスコートの方からこっちまで見に来ているようだった。集中力が落ちるし、何よりカユくなるから来なくていいのだが……

「もうおれ、本気出しちゃうぞ~! 直哉ばっかりに、おいしい所を持っていかれるわけにはいかねえ!」

 まあ、スケベな金髪がやる気を出したからよしとするか。

 今10対1か……。

「亮兵、前半で5対5まで持っていく。わかったか!?」

 前半終了まで、あと8分ぐらい。さすがに俺ひとりだけでは、この得点差を覆[くつがえ]すのは難しい。


「オーケー! ブルマパワーでやってやる!」


 単純な奴でよかった。


「おい、我が輩はどうする?」

「阿部か……、さっきまでと同じように、ボール持ってる奴の側にいてくれ」

 こいつの独特の存在感は結構、プレッシャーになる。

「了解である! くくく三次元女どもに我が輩の恐ろしさを見せてやるわ!」

 よくわからんが、阿部もやる気になったみたいだ。

「よ~し! じゃあみんないくぞ!」

「おうよっ!」

「御意!」





「亮兵! そらパスっ!」

「ブルマ万歳!」

 ひたすら知能指数の低い叫び声を挙げながら、亮兵がゴールに向かってシュートした。

 ボールは一直線に、ゴールへと向かっていく!

 ピィー―――――ッ!

 ピピィ――――――――ッ!

 ホイッスルの音が連続して鳴り響いた。

 前半終了。

 得点差は亮兵がやる気になった事もあり、目標通りの5対10まで持っていけた。

「ブルマ! ブルマ! 見ましたか麗[うるわ]しき女性の皆さん! あなたがたのおかげでおれはやりました! ブルマ万歳! 生足エクセレント! 舐めたい! 挟まれたい!」

 テンションがマックスまで上がった亮兵は、前半終了とともに、見物客の女子連中のとこまで走っていく。

「ブルマ! 生足! バーンザーイ!」

 あまりにも欲望に忠実すぎる亮兵に、女子連中はみな、ひいていた。

「……うん、よかったね……」

「そうでしょう! そうでしょう! キミ名前なんていうの?」

 ナンパかよ……、ていうかその女子怯えてるぞ。

 そんななか、ひとりの女子生徒が亮兵の前に近付いていく。

「天堂さま! いや~相変わらずお美しい! 本当踏まれたいぐらいです!」

「ありがとう。筒井君もその髪型似合ってるわよ」

 天堂は亮兵のプチセクハラを軽くかわしつつ、他の女子を守るためなのか、亮兵に話し掛けた。

「そうすかイケてますかこれ! 近所の床屋でやったんすけど、床屋のオヤジなかなか理解しなくて大変でしたよ! マンガ本見せて、やってもらったんすけど!」

 マンガのパクリなのかよ、あの髪型……。

「そう、なら私がいきつけの美容院紹介してあげましょうか?」

 お前自身には、まるで興味がないと言わんばかりの口調で答える天堂だった。

「えっ! マジで! いや~ありがとうございます!」

 天堂の本意など知らず、幸せな顔を浮かべる亮兵だった。

「どう致しまして。ところで筒井君、もう後半の時間じゃなくて?」

 俺たちはコートチェンジをして、すでに後半開始の準備をしていた。


「あっそうすね! 天堂さま、あなたのためにオレは頑張ります!」

「ふふっ、私ももうすぐ試合にいかなきゃいけないけど、応援してるわ」

 軽い微笑みを浮かべ、天堂が言う。

「光栄です! それでは男筒井頑張って参ります!」

 戦時下の日本兵のようなポーズを女子連中に向かって決め、亮兵は俺たちの元に戻ってくる。



「いや~、天堂さまは本当に美しい! なんでお前の彼女なのかが理解できねえ!」

 こいつは、俺と天堂の契約関係を知らないんだよな。それをわかっている大仁田に向けて、俺は笑みを向ける。

 大仁田は無言で頷き、

「じゃあ、僕そろそろいくよ!」

 と、自陣のゴールへ向かって走っていった。


「神崎! そこを見るがいい!」

 ふいに阿部に声をかけられた。

「どうした阿部?…………!」

 センターラインの前に、俺を睨めつけながら一人の男が立っていた。


 前半中、俺に向かって執拗に攻撃を仕掛けてきた男だった。

「田中俊英、……現サッカー部のキャプテンであるな」

 阿部が、俺に耳打ちする。

「話がある! 神崎!」

 田中が俺に向かって声をかけた。

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