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創作小説・神崎直哉の長い1日 第7話 通学路ー与謝野晶子とオスマン・サンコンー


「凛、おまえ加齢臭の新作読んだか?」

「うん。読んだよ。面白かったよ!」

 官能小説を満面の笑みで面白かったと語る、女子高生は果たしてどうなのか。

 そして、女子高生に官能小説を読ませる中年親父もなんなのだろう。

 わざわざ感想を聞く俺も俺だが。

「あのね~万太郎君がね~。トーナメントの決勝で番長と戦うところが面白かったよ~」

「そうか。加齢臭にもそう言っとくよ」

 官能小説の感想とは思えんな。

 まあ、凛がエロシーンの事について熱く語り出しても引くのだが。

 しかしトーナメントだの番長だの、どんな官能小説やねん、親父の官能小説は。




 いつものようにくだらない話を凛としつつ、通学路を歩いていた。


 俺たちが通う高校は割と家に近いところにある。

 まあ近いから、この高校を受験したのだが。


 うまい具合に学力レベルもちょうどいい感じだったし。

 凛はもう少しレベルの高い学校も狙えたらしいが、結局は俺と同じ高校を受験した。

 凜もまた家に近いほうがいいって事なんだろうな。たぶん。

 それに凜は勉強は出来るものの、抜けてるとこがあるし。

 
凜面白エピソードその①(シリーズ化予定)


 それは俺たちが中学生の頃だったか。

 確か、日本史だか現国だかのテスト勉強をしていた時だった。

「ねえ直哉~っ! 『君死にたまふ事なかれ……』とかいうお話を書いたのは誰だったっけ?」


 俺はその答えが与謝野晶子だという事を知りつつ、敢えてこう言った。


「ああ。オスマン・サンコンだ」

 揺るぎない自信を持った声で言ってやった。

 前々から与謝野晶子とオスマン・サンコンの響きが似ていると思っていたのだ。


 その後テストに凜の質問通りの問題が出て、俺はびびった。


 そしてテスト返却時に事件は起きた。

 教師が笑いを必死でこらえながら生徒達の前で言った。

「美樹原~っ! ちょっとふざけるのもいいかげんにしてくれよ~っ!」


 凜はいきなり自分の名前言われて動揺。

「みんな、ここの答えが与謝野晶子だってのはわかるよな~?それを美樹原は……ぷぷっ」

 教師今にも吹き出しそう。

 凜はただオロオロするばかり。

「オスマン・サンコンだってブハハハハ!」

 遂に笑いを堪えきれなくなった教師を合図にするかのようにして、クラス中が大爆笑の渦に包まれた。

 バカな男子共は「いっこ、にこ、サンコーン!」コールで盛り上がる。

 そんななか渦中の凛は、目に涙を溜めてブルブル震えていた。

(ど…う…し…て?)

 俺に目で訴えていた。

(わりい……あんとき教えた……あれ……ウソ…)

 俺は野球のキャッチャーがやるようなジェスチャーを返してやった。


 クラス中が陽気な黒人のパワーに包まれる中、凛は泣きながら教室を出ていった。

 そして凛は行方不明となるのだった。


 その後、凛捜索活動はクラスメートだけから学校全体、果ては町内挙げてになり、しまいには警察まで出動する大騒ぎとなってしまった。


 結局夜になっても見つからず、諦めムードが漂う中、俺は何気なしに凛といつも遊んでいた公園に向かった。

 土管の中で凛は子猫とともに眠っていた。

 赤子のように。

「あっ……直哉」

 泣きはらして、真っ赤になった目を見開いた凛が呟いた。

「うっ……うわーーん!コワかったよーーっ!みんなに笑われて……、バカにされてるみたいで…」

 確かにバカにされてた。

「なおやーっ…直哉はやっぱり助けに来てくれたんだねーーっ。まってた…待ってたんだよ~」

 
 助けに来たというか、元はといえば俺が全て悪いのだが。

 とにかく凛は俺が救出したのだった。

 さすがにショックだったのか、凛は次の日学校を休んだ。

 俺はとりあえず、凛にプリンをたらふくおごってやった。


凛面白エピソードその①完

 あっ、そういえばあの時の公園って俺と凛が初めて会った場所だった。


 しかし俺、もしかして相当タチ悪い?

 そんな事を考えつつ、傍らの凛の方を見ると、どうも子猫に夢中のようだった。

 鼻の下に変な模様のついた不細工な子猫は、凛に頭を撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしている。

「やれやれ」




「フッ、相変わらず仲がいいのね。お二人さん!」

 聞き覚えのある声だった。

 約束の時間が来ようとしていた。

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