創作小説・神崎直哉の長い1日 第31話 日直日誌ーわたし、彼に悪戯されました!ー
※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されました。
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草薙との一件がなんの進展もないまま、5限目は終了した。
そして、一時の休憩時間の始まりである。
担任でもある『お嬢』の6限目が終わったら、そのままホームルームに流れ込むのは間違いないだろう。
今のうちに、草薙と話をつけなければ。
「ふっ、神崎。次は黒衣天使の降臨の瞬間〔とき〕であるな !」
邪魔が入った。阿部だった。
「なんだよ阿部? わけのわからん宗教にでも入ったのか」
阿部と話すフリをしながら、隣りの席の草薙の様子を垣間見る。
あっ、うまい具合に日直日誌を開いた。
「宗教? 何を言っているのだ神崎? もちろんお嬢の事であるぞ!」
日直日誌に、なんか記入し始めたな……。
「そいつはよかったな」
「くっくっく、お嬢こそまさにこの退廃した世の救世主たる存在とは思えんか?」
書いてる書いてる。
「うんうん」
「そうであろう、そうであろう。次はどんな伝説を見せてくれるかと我が輩は楽しみで仕方ない!」
草薙、動きが止まったな。なんか考えてる。
「そうかそうか」
「神崎、おぬしも我が漫画研究会に入るがいい! そしてともにお嬢の同人誌を作ろうではないか!」
あっ、立ち上がった。
トイレかどっか行くみたいだな。
「…………」
「どうした神崎? 何を迷っている!」
草薙は教室から出ていった。日直日誌、なんて書いてあるか気になるな……。
「よし、見てみるか」
「おっ神崎、我が漫画研究会に来るというのか! おぬしほど心強い仲間はいないぞ!」
俺は草薙の机の上に残された日直日誌を覗き見る。
【登校時:風紀委員として校門で服装・持ち物検査をしていた私に、神崎君はここでは書けないような卑猥なモノを私に無理矢理に見せつけてきたのです。そして私を誘うような事を言うのです。私は強く注意して逃げました。】
おい、ちょっと待て。
「なんじゃこりゃ! めちゃくちゃ誤解を受けるような書き方だぞ」
「おおっ? いきなりどうした神崎っ! それか? そこの書物になにかあるのか?」
そう言いながら、俺の隣に密着するようにして、草薙の日直日誌を見る阿部。
いや、なぜ密着する必要がある?
「……神崎もなかなかやるではないか。我が輩、おぬしがそこまで鬼畜属性だとは思わなかったぞ」
「いやおまえ誤解だから」
なんだよ属性って……。
「神崎の行動はまるでエロゲーの鑑たるかのようだ! 規律系ツインテール少女に自らのモノを見せつけるとは! やはり、我が漫画研究会になくてはな……」
とりあえず阿部は無視して、日直日誌の他のとこも見てみるか。いったいなんて書いてあるやら。
【一限目:神崎君が授業をサボりました。私がちょっと強く注意したからサボるなんて、子供としか思えません。その他、美樹原さんがお菓子を食べていました。筒井君と阿部君の2人が私語が多すぎると先生から注意を受けていました。】
いや、あんたのビンタが強烈すぎて保健室行きになったんだけど。それにしても細かく書いてあるな、これ。普通、日直日誌なんて適当につけると思うけど。
【二限目:また神崎君がサボりました。高校生として恥ずかしくないのでしょうか。美樹原さんは、やっぱりお菓子を食べていました。途中で喉を詰まらせて泣いていました。阿部君と筒井君はまた先生に私語が多いと注意されていました。】
しかし相変わらずだな、凛も……。
ふと、気になって凛の席の方を見てみたら、机に突っ伏して熟睡していた。
「……ムニャムニャ……プリィン……ぉいしいよぅ……」
幸せなひとときを過ごしているようだった。
【三限目:A組との合同体育でした。概ね問題はありませんでしたが、わざわざ男子のサッカーの見学に行く人たちはどうかと思います。】
結構頑張ってたんだけど……。
【四限目:全体的にだらけた雰囲気でした。神崎君と美樹原さんが遅刻してきたのですが、神崎君は堂々と授業妨害していました。剛田先生は脅えきっていました。席に着いた神崎君は、その後も、独り言をブツブツ言ったり、急に歌い出したりするなど、奇行が目立ちました。正直、私は神崎君に精神科の通院を勧めたいです。】
ひでえ言いぐさだな。かなりヘコんだぞ。
「う~ん、こうして日誌を見てみるとおぬしは変態としか思えないな!」
少なくとも、阿部には言われたくないのだが。
「てか、こんなん提出されたら俺まで退学の危機だぞ! なんとかしないと……」
亮兵どころの話だけでは、なくなってきた。
「今のうちに消してしまえばいいのではないか? 我が輩の事まで、書いてあるようだしな」
「そんな事しても逆効果だ……あっ、帰ってきた」
草薙が自席に戻る。日誌は元の位置に置いといたので、バレないと思うが。
しかし、どうするか。どうにかして対応策を考えないと。
キーンコーン カーンコーン
非常にも、6限開始のチャイムが鳴るのだった。