創作小説・神崎直哉の長い1日 第12話 保健室登校の甘美な誘い②ー赤ちゃんできちゃう①ー
※この作品のオリジナル版は2006年に執筆されたものです。
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保健室で喜多原と世間話してるうちに、気付いたらすでに2限目へと突入している時間だった。
「あんさ~最近どうよ~?」
「どうって? 何がだよ?」
まあ、さっきのビンタの跡もまだ目立つし、正直授業もかったるい。まだしばらく、喜多原の相手を続ける事にするか……
「いろいろよ~。凛ちゃんとか」
凛か……。あいつの事だから、また無駄に俺の事を心配しているのかもしれない。
「う~ん。別に特に変わった事はないですけど」
そういや朝、妙な事してきたけど……。
わざわざ他人に報告する事ではない。よくわからんが最近流行りのボーイズラブマンガだかなんかの真似事なのかもしれんし。
「凛が何か迷惑かけたのか?」
「ううん、別に迷惑とはそういう事はないけど……、まあ頻繁にここに来るけどね~」
やっぱり、頻繁に来るんだなあいつ。
「頭いた~いとか、おなかいた~いとか、擦りむいちゃった~とかほぼ毎日来るわよ。ある意味、無料の薬局みたいな物よね~あたしんとこは」
「はあ……やれやれだな」
少しは平穏無事にしててほしいものなのだが……。どこにいっても、トラブルを起こすんだよなあいつ。
そういえば、俺が初めてこの保健室を訪れたのも、凛が絡んでたんだよな………。
凛面白エピソード②~妊娠疑惑編~
あれは俺たちが高校に入学して間もない頃だったか。
授業中突然、凛が苦しみ出した。
「うぷっ、直哉ぁ~、なんか気持ちわるいよ~」
「どうした凛? なんかあったんか」
ちなみに凛はこの時、俺の席の隣りだった。
「……吐き気がするぅ……。……………赤ちゃんできたかも(小声)」
とんでもない事を言いやがる。
「はあっ!? おまえ男だろ! ……あっ女か」
「うん……。きもちわるい……」
教室内がざわめき始めた。俺はトラブルばかり起こす凛にイラつきつつも、次の行動を迫られていた。かなり目立つがここは自分がいくしかないだろう。
「先生!ちょっと凛を保健室に連れて行きます!」
机から立ち上がり、そう宣言して、凛を連れて逃げるように教室から飛び出す。
「まったく勘弁してくれよ……」
クラスメイトからの好奇の視線には耐え難いものがあった。なんか出て行くとき女子からは妙な目で見られるし。『男らしい!』『イカす!』だの暖かい声援を受けつつ、俺たちは保健室へと向かうのだった。
この時、ただ一人冷静に俺の事を観察するように見ていた女子がいたのだが……。それは今思えば天堂だったんだな。
「焦って出てきたはいいものの、保健室てどこだよ!?俺知らねえぞ!」
なんだかんだいって、俺は『赤ちゃん』という言葉にビビっていた。凛はたいてい、俺とつるんでるので、他の男に何かされるということはないと思うが……。大体こいつの見た目は小学生の男の子ぐらいにしか見えないしな。
「……保健室は一階だよ…。げた箱のあるとこから右のほう……」
首筋に凛の吐息が掛かる。
「ああわかった! 走るぞ! しっかり捕まってろ!」
背中に背負った凛を、落っこちないように固定しつつ、保健室まで走った!
凛のナビに従いつつ、保健室に到着。
「うお!タバコくせえっ!」
ひき戸を開けた途端に流れてきた、その匂いに俺は仰天した。
薬品の匂いとかいうなら理解出来るが、タバコの匂いで充満してる保健室ってどんなんだよ!
この部屋の主が気になるところだが、中に入っても居ないようだった。
とりあえず、凛を保健室の奥にあるベッドに寝かした。
「……直哉……、…ありがとぉ……」
なんかえらい汗かいてるな、こいつ。
仕方ないので、ハンカチで額に浮かんだ汗を拭いてやる。どういうわけか凛の顔は紅潮し始めた。そんな時だった。
「こらあっ! あたしがいない隙に、何をハレンチな事を!」
「うおっ!」
後ろを振り向いたら、白衣の女が仁王立ちしていた。そのままつかつかと、ヒールの音を立てながら俺たちの元へ近付いてくる!
「あたしも混ぜなさ~いっ!」
なんて事を言うんだこの女は。とはいえ、見た目からして保険医だよな、ここの。
「保険医の人だよな? なんかよくわかんねーけど吐き気がして気持ち悪いって。中に誰も居なかったから、勝手にベッドを借りてたんだけど……」
「吐き気? 気持ち悪い? あんたら、あたしのいない隙にセックスしに来たんちゃうん?」
ストレートに言うかよ普通。
俺が独特のノリに気圧されてたじろいでいると、凛の顔を見て何か気付いたのか、保険医の表情が変化する。
「あら~凛ちゃんじゃない! 今日はなんのご用?」
どうやら凛と保険医は、お互いに面識があるようだった。ていうか凛、まだ高校入学したばっかなのに、もう保健室の常連ですか。
「夕果先生……。気持ち悪いよ~。……赤ちゃんできたかも……」
ちょっと待て。