音楽
邪悪な敵との壮絶な戦いや甘酸っぱくドキドキするような三角関係も存在しないが、少年たちの衝動や青春は、たしかにそこにある。
細田守や新海誠のような映像美があるわけでもないのに、登場人物たちの躍動感やカッコよさはどんな作品をも凌駕していると感じた。登場人物や風景の輪郭が溶け合い、主人公による魂の歌声が披露されるラストシーンでは、自分自身が作品に溶けて混ざったような感覚に陥り、「音楽」のスゴさを間近に感じ取ることができる。
私はフォークソングバンド古美術の「森田」というキャラクターがお気に入りである。主人公である研二が所属する「古武術」の演奏を初めて聞いた時の衝撃の受けるシーンだけでもぜひ見てほしい。「雷に打たれたような~」「頭を殴られたような~」といったように、衝撃を受けるという表現はさまざまなものがあるが、あのような衝撃の受け方ができる人はこの世の中にいないと思う。「古武術」の演奏のすごさを表すとともに、受け手である森田の感性がいかに豊かであるかが表現されていたと感じる。あれほど感性が豊かで、フォークからロックまで幅広く音楽を楽しめるような人物になれたら、どんなエンタメでも何かを得ることができるんだろうな、めちゃくちゃ羨ましい。
また哀愁あるフォークを引いていた森田が、突然激しいロックに目覚めるシーンも私が好きなシーンである。今までの森田なら絶対にしないようなパフォーマンスを研二との出会いから、変わっていく姿には思わず自分を重ねてしまった。
私は、つい最近まで、人見知りで自意識過剰な自分との付き合い方がよく分からなかった。人とどう付き合うかを一生懸命考えても、なかなか上手くいかず、しまいには仲良くやっている人たちを妬み、馬鹿にすることで自分の心を守ろうとしていた。
だけど、それは違った。あるエッセイを読んだことをきっかけに、人や社会との向き合い方が少しずつ分かってきた。自分が避けて通って、忌み嫌っていたものを肯定してみると、自分の心の中のわだかまりが少しずつ解けていった。そして、私もエッセイを通じて、自分を表現しながら自分を理解したいとの想いからnoteで週1回の投稿をしている
森田は私とは違い、れっきとした良い奴であるが、誰かの表現によって影響され、自分自身もその表現によって変わっていく姿には、シンパシーを感じた。森田は自己表現をすることの美しさやカッコよさを改めて教えてもらった。
映画中に流れるBGMや曲はどれもカッコいいし、音楽を通して何かが少しずつ変わっていく様子をぜひ体験していただきたい。