帰り道
「遅いですよ、先輩!!」
上履を履き替え外に出ると、そこには如何にも「待ってましたと」言わんばかりの後輩がいた。
「女の子待たせるとか最低じゃないですか?」
「何も聞いてないんだけど……」
俺はその場で立ち止まり、目線を逸らして頭を掻く。
「細かい事は気にしな~い!」
そういう後輩を尻目に、俺は歩き始めた。
「ちょ、無視しないで」
慌てて速足で追いつく後輩、俺は少し歩行速度を落とした。
ここ最近、下校時刻になると後輩の長瀬が良く俺を待っている。
「そういえば先輩」
「なんだ?」
理由は何となく分かっているが…。
「近くに新しい喫茶店ができたしたんで行ってみません?」
そう言いながら上目遣いで見つめて来る。
「断る」
「えー、いいじゃないですか少しぐらい!」
態とらしくいじける後輩。
「そうやって都合のいい財布にするつもりだろ?」
「バレました?」
溜息を吐きつつ、財布を出して中身を確認するが……。
中には、英世さんが二人と小銭が少々と悲しい有様だった。
「行きましょうよ!」
そんな惨状を知らない長瀬は、引き続き誘ってくる。
「また今度な」
そう言いそっと財布をしまう。
「えー。そんなんだから彼女出来ないんですよ~?」
「うるせぇわ! 大体お前も彼氏いないだろ」
煽ってくる長瀬に言い返す。
「私は先輩と違ってモテるので問題ないのです!」
「あ~ハイハイ、ソウデスネ」
自身満々に言い放つ長瀬に少しイラッとしつつ、面倒くさいので適当に返事をする。
「信じてないでしょ! この前も同じクラスの子に告白されたんですよ?」
「本当かぁ~?」
「本当ですって!!」
煽り返しムッとする長瀬に内心少しすっきりしたが、少し複雑な気持ちになった。
「で、なんて返事したんだ?」
なんて返したのかが気になり、聞いてみる。
「断りましたよ」
そう聞いた瞬間、内心安堵する自分がいた。
「どうして?」
何となく聞いてみる。
「他に好きな人がいるので……」
「へぇ~、どんな人?」
「えー、それ聞きます? 秘密ですよ、ひみつ!」
あざとく答える長瀬に内心モヤモヤするが、しつこく聞くのは良くない。気になる自分を抑えつつ、話を続けることにした。
「気づいてよ……」
そう思っていたが、小さく呟く長瀬の言葉を聞いてしまった。だが……。
「なんか言った?」
キチンな俺は聞いてない振りをする。
「なんでもないです!」
慌てて答える長瀬、内心混乱して思考が吹っ飛びそうになるが、何とか平静を保つ。
さっきまで弾んでいた会話がピタリと無くなり、シーンとした雰囲気が辺りを包み込む。
「さっき……」
「じゃ、私こっちなので!」
話かけようとした俺を遮るように、長瀬が被せる。そして、運がいいのか悪いのか……、ちょうど俺と長瀬が分かれる何時もの道に着いた。
「それじゃ! 先輩、また明日!」
そう言い速足で去っていく長瀬。
俺は、無言でただその背中を見ることしか出来なかった。