二人の日常
僕には姉がいる。
容姿端麗で頭も良く、とても優しい。まさに完璧と言える姉だ。
だが、姉は体がとても弱かった。
そんな姉を介抱するが、弟である僕の役目だ。
頻繁に体調を崩す姉は、療養中の自室でずっと外を見つめている。
ある時、ふと気になり「どうしてずっと外を見ているの?」と聞いてみた。
「鳥を観ているの」
姉はこちらを向き、作り笑いを浮かべ答える。
何処か悲しそうな瞳で僕を見つめる姉。
「何故、鳥を観ているの?」
そう聞き、姉に近寄り一緒に窓の外を眺める。
僕にはただの日常風景の一つでしかないが、姉には何か特別な物に見えているのだと、そう感じた。
「鳥は自由だから…、大空に羽ばたいてどこにでも飛んでいけるのだもの」
そう答えた姉に視線を向ける。
悲しそうな姉の表情を見るのは辛い。
そんな視線に気が付いた姉が、僕に目を合わせ微笑む。
「私は大丈夫だよ」
そう囁く姉。
「それなら良かった。何かあったら遠慮せず言って!」
そう言い、僕は姉の部屋を後にした。
僕は姉が好きだ。
自分が辛いはずなのに他者に気遣う事が出来る。そんな優しい姉が好きだ。
だが同時に僕は最低だ。辛いのは僕ではない、姉なのだ。そう分かっている筈なのに、僕はそんな姉の優しさに甘えてばかりいる。最低の弟だ。
僕には夢がある。
姉と遠くへ旅行に行く事だ。
病弱な姉は遠くへ行く事が出来ず、学生時代の定番行事の遠足や修学旅行などに行けず家にいた。そんな姉を尻目に、遠足や修学旅行に行く自分は、酷く惨めに思えて仕方無かった。
帰宅した僕に旅先での話を聞き、撮った写真を羨ましそうに見つめる姉の表情は、今でも鮮明に覚えている。
僕は、そんな姉の笑顔が見たい。笑ってほしいのだ。
そして、姉との旅行を計画することにした。
実現しないかもしれない、失敗するかもしれない。
だけど、僕は行動した。姉の笑顔が見たい、自分の為に。
だが、計画を姉に伝えようとした時、見計らったかのように姉が再び体を壊した。
姉が回復したら計画を話そう。
そう自分に言い聞かせ、いつもの様に僕は姉を介抱する。僕の為に。
ベッドに横たわる姉の冷たい手を優しく握る。いつか、夢が叶うと信じて。