クソ真面目Migos flow
少し前の話だけどMigosに似てるなぁてセリフをよく聞いた。「~の代名詞」みたいなレベルになるとその代名詞を独占できないのかと考えたことのある人もいると思う。
こんな感じで音符を1泊を3分割することを三連符と呼び、このリズムでのラップはMigos flowと呼ばれるほど彼らの代名詞となった。
以下の話はいわゆる「表現」と「アイデア」の話であっていろんな文献があるが、音楽の面からの入り口はなかなか見つからなかったので書いてみる。
まず音楽は曲の単位では著作権上の保護を受ける。正確には楽譜に化体したものや演奏された音楽それ自体がその保護の対象である。
ではもっと幅を持たせていわゆるジャンルとしては著作権の保護を受けないのだろうか。ロック、ジャズ等を作ったと言われる人々は(仮にこれらの人が明確に分かるとして。全然わかんねえけど。)そのジャンル(特徴を客観に分類した単位)においては確かに創作性が認められるには十分なものを生み出したと言える。先駆者としてのインセンティブを与える事がその後の創作意欲の維持との関係で文化の発展に資すると言えるなら著作権上の保護を与えてもいいと言える。
しかし、あくまで文化の発展を目的とするならこんなに幅のある表現を独占させることは文化の発展の障害になるともいえる。確かにこんな大枠について自分の権利を主張することは妥当でない気はする。
ではもう少し細分化して例えば具体的演奏方法や歌唱方法(上記のMigosのような)を思いついた者はどうだろうか(Migosflowの元祖はおそらくMigosではないだろうけど。実際に誰が始めたかは別に調べてほしい。waka flocka?)。自分が最初に始めたと言いたくなるようなレベルの話になり得ると思える。しかし、実際にそんな問題が話題になっているような話は少なくとも自分は聞いたことが無い。
「曲」以下の単位になって初めてパクる、パクらないの問題が発生してくる。何がこれらを分類しているのか。「曲」以上の概念には権利を主張しない暗黙のルールがあるなんてことはない。
「概念」つまり思想や、アイデア。著作権法はあくまで「表現」を保護するのであって表現をしようとする者の「アイデア」は保護しない(著作権法2条1項1号には表現が著作物であると規定されている)。これは特許権に代表されるその権利を申請し厳しい審査を経た結果、特許庁の設定の登録を受けて初めて独占権が与えられる制度設計(方式主義)と比較して著作権は創作と同時にその権利が発生することから(無方式主義)、自分はこんな事を考えていたという次元については保護が及ばないことから導かれる。及ぶとすると特許権のような厳しい審査を経ているわけでもないアイデアに対していちいち許可を取る必要が生じ(許可がされないことも含めて)、創作活動が妨げられるからである。
そう考えると「曲」はその再現方法が一通りしかない表現であるのに対して、ジャンルや演奏方法等はこれを用いた曲を表現するために存在する、曲の背景にあるアイデアであると考えられる。(曲という著作物を離れたアイデアにあたる)
ではどこまでが表現どこからがアイデアかはあまりはっきりしない。というのも、こういう風に演奏するという楽譜の存在は表現のような気もして来る(少なくとも自分は戸惑った)
演奏方法を例にしてみる。曲に似ているという点では翻案権の侵害の問題だが、演奏方法が保護されればこれが同じ(フレーズごとまるまる同じという意味ではない)である事は著作物の複製と言うことになるし、その保護範囲はとんでもなく広い。(カッティングやアルペジオを用いた曲なら全部複製みたいな)
ここでカッティングの例をとると方法を示したものがあったとしてもそれ自体は演奏方法の説明に過ぎず、これを用いた具体的なフレーズにこそ創作性が認められうる。(演奏方法というアイデアを書き下した物に創作性が理論上認められない訳ではないだろうが、まぁあり得なさそう)幾ら演奏方法を思いつこうが、表現として表に出るのはこれをもちいた「曲」(ないし曲になりうるメロディ)である。とすればアイデアに創作性が認められているように思うものもそれはそのアイデアを用いた一つの表現ということになる。
すなわち用いている演奏方法が同じでもそれは演奏方法の複製ではなく、これを用いた「曲」に似ているか否かという翻案権の侵害の成立要素の1つとして考慮されるに過ぎないと言える。
言い換えればMigosがMigos flowを独占するにはいろんなMigos flowを用いた曲をたくさん作って誰かがそれっぽいフロウをした時にMigosのいずれかの曲を「直接感得」するよね(翻案権侵害の要件)という手段のみで実現出来る(あくまで日本の著作権法)。KOHHのフロウがMigosっぽいことは法律上Migos flowの複製ではなくて、Migosの曲に似ているかどうか(翻案にあたるか)の問題として処理される。翻案の問題ならばばそれはMigos flowを用いている以外の類似性を肯定する事情が様々あって初めて著作権上の違法となる。そこに反しない限りMigosっぽいフロウでNujabesっぽいビートの上でILL-BOSSTINOっぽく語り掛けて構わないということになる。()
形式的にジャンルや演奏方法は「アイデア」であると整理したが、最初に述べた文化の発展とインセンティブの調和という実質的な面からもジャンルや演奏方法等に結論として独占力を与えないのはおかしくは無い気がする。Offsetもクリエイターの自覚はあるけれど、独占しようとはしてなさそう。
いわゆる「影響を受けた」とはこういったアイデアを真似ているにすぎないため著作権法上の違法とはならないし、だからこそ文化が発展してきたことは間違いない。ただ、著作物として保護されてしまう「曲」の単位において真似する事で新しい表現を行うことが今の音楽の主流なことは著作権上違法に傾きやすい。サンプリングと盗作の軋轢はここに生じる。サンプリングを重要な構成要素として位置づけるヒップホップが大衆音楽のど真ん中で市民権を得てきた今何をどの程度保護すべきか。その線引きが持つ意義は大きいと思う。
サムネhttps://nme-jp.com/news/50092/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?