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エウレカ 私は見つけた 第15話

15  前とは違う日常

 2週間ほど経ち、ロドリゴの体力は仕事ができるまでに回復した。気持ちを新たに、ロバタクシーを再開する前日、彼はランドルのところに行った。
 
 前からランドルには話しかけていたが、『彼が唯一無二の相棒である』という意識はロドリゴには、全くなかった。でも彼はヘラジカとの出会いによって、動物にも自分の気持ちが伝わると強く感じたのだ。

 ロドリゴは、ランドルの背中を優しくなぜながら、こう言った。
「なあ、ランドル。これまでありがとう。仕事ができたのも、全てお前のおかげだ。重い荷物やお客さんを乗せて、よく頑張ってくれたね。それなのに感謝の言葉を伝えずに、ごめん。あと少しこの仕事をしたいから、もうちょっと力を貸して」と。
 
 すると、ランドルの瞳孔がぐっーと開き、目に力がこもった。
『やっぱり俺の気持ちが伝わったんだ』とそのときロドリゴは、確信した。

 翌日から再開したロバタクシーの仕事では、相手にわからなくても、ギリシャ語で「ゆっくりで良いですよ」と声をかけるようにした。またジェスチャーで、「ロバの動きに任せてください。突っ張るとロバも緊張します」と伝えることにした。するとお客さんも打ち解け、安心してロバの背にまたがるようになった。そして降りぎわには、ギリシャ語で「ありがとう。どうぞ良い旅を」と伝えた。

 今は機械の翻訳機が便利だと、アントニスが教えてくれたが、ロバタクシーの仕事に込み入った話は必要ない。そのためロドリゴはその必要性をあまり感じなかった。その代わりに彼はちゃんとお客さんの顔を見て、対応していくことに決めた。
 すると、以前笑おうとしても筋肉がつっぱり、不自然な笑顔しかできなかったのに、今では客さんの笑顔におもわずつられて、心から笑うようになった。
 たったそれだけのことなのに、ロドリゴは仕事自体が楽しくなったのだ。

 そして、考えたことはもう一つ。
 ミケーネがお金の心配をしないでいいだけの収入を得ることだ。それはなにも贅沢な暮らしをすることではない。夫婦二人が、安心して暮らしているだけ稼ぐことだ。少しずつ今のようにお客さんが増えていけば、それは案外早く実現するかもしれない。

 ロドリゴは自分が対応を変えれば、お客さんの満足度が上がることになると気づいた。そして彼は、さらなるアイディアを思いついた。
 
   ーそれは最後にお客さんにお礼のカードを渡すことー

 カードに「よい旅を続けてください」と自筆で書いて、ランドルの姿を掘ったジャガイモの版を押した。

 ある夜、明日は何人のお客さんと出会うかとワクワクしながら、ちょっと多いが7枚カードを準備したら、ちょうど7人利用者がいた。いつもは4〜5人だから、彼はとてもびっくりした。それから何日か、用意したお礼カードの数だけ利用してもらえる日が続いた。しかし自分ととランドルの体力を考えたら、おのずと上限がある。それでもいろいろと工夫をしたら仕事の結果が変わってくるので、楽しくなった。だからお客さんを待っている時も、若手の仕事ぶりも眺めて
「何か参考になる事はないか」と考えるようになった。

 仕事を楽しくするのも、つまらなくするのも全て自分次第。ロドリゴが仕事に復帰して3ヶ月が経った頃、徐々にではあるが生活に張りが出てきて、家の中でもミケーネと笑い合うようになった。
 
 以前感じていた「やりきれなさ」が嘘のようだ。


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