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綿密な計画が必ずしも良いとは限らない!

「P]「D」「C]「A」のどれが重要?

ビジネスにおいて、「綿密な計画」は肯定的に捉えられることが少ないかもしれません。しかし、私はあえてこの言葉を否定的な言葉として考えたいと思っています。急速に進展するデジタルマーケティングの環境において、「小さな失敗を、早く、意図を持って行う」というアプローチが重要であることは前回説明しました。綿密な計画というのは、実はこの失敗の奨励の対立概念となる可能性があるのです。

議論の中心は、PDCAサイクルのうちどの部分を重視してプロセスを進めるかにあります。私は現代のマーケティング環境で成功するためには、PDCAサイクルを迅速に回すことが極めて重要だと信じています。そして、この高速回転を実現するためには、PDCAの各段階を迅速に進めることが不可欠です。私の経験から、このうち特に時間をかけがちなのが「P」(計画)の段階だと考えています。

マーケティングにおいて、PDCAサイクルでの「P」(計画)段階が時間をかけがちな理由は、デジタルマーケティング以前の伝統的マーケティングのメソッドに起因していると考えています。

例えば、消費財メーカーのブランドマネージャーは、商品や競合分析、差別化戦略の立案、商品改善、広告クリエイティブの制作、広告投資の計画などマーケティング施策実施前の一連のプロセスに大きな時間と予算を使います。それは、実施段階の投資規模が大きく、失敗しにくいためです。一方で、施策がたとえ大規模なテレビ広告の場合であっても、その効果を正確に追跡することは難しく、事後的な検証といえば認知度や購買行動の調査を通じて仮説の検証を行う程度しかできません。

この例から分かるように、ブランドマネージャーがPDCAサイクルで最も時間を費やしているのは「P」(計画)段階であると感じています。この見方は、従来のマーケティング教科書において、計画の精度向上に多くの議論が割かれてきたことと一致します。しかし、デジタルビジネスの現場では、実際には「DCA」の各段階に多くの時間が割かれています。新規事業の立ち上げのような特殊な状況を除けば、「P」に過剰な時間を費やすことは、PDCAサイクルのスピードを妨げる要因であると捉えています。

デジタル化が進む現代のマーケティング環境では、迅速なPDCAサイクルの実行が成功の鍵であり、特に計画段階での効率化が重要であると考えています。

計画よりもまずは試してみる

なぜデジタル化された環境では、PよりもDCAのプロセスが重視されるようになったのでしょうか?その答えは明確です。デジタル化前よりも、DCAのプロセスをはるかに高い精度で計測し、トラッキングできるようになったからです。さらに重要なことは、オフライン環境と比べて、マーケティングのテストをするコストが圧倒的に低くなっている点です。つまり、小さな失敗から学ぶ環境が劇的に整備されているのです。

デジタル広告と伝統的な広告手法を比較する具体例として、訴求点の選定プロセスを考えてみましょう。伝統的な広告手法では、例えばTVCMの制作には数千万円から数億円という高額の費用がかかります。そのため、多くの場合、訴求ポイントを多数試すというリスクのあるアプローチは採用されません。事前のリサーチや分析を徹底し、正確な訴求点を絞り込む計画が重要視されます。

一方で、デジタル広告では訴求点のテストが格段にコスト効率良く行えます。例えば、10種類のバナー広告を制作し、それぞれの効果を評価することが可能です。バナー一つあたりの制作費が低く、配信費用も比較的手頃なため、数十万円で実際のユーザー反応をテストすることができます。このプロセスでは、単なるリサーチ結果だけでなく、実際のデータに基づくユーザーの反応を即座に得ることができます。

デジタル広告の利点は、低コストで多様なアプローチを試せることにあります。このような環境下では、より効果的な訴求点を見つけ出すためのデータドリブンのアプローチが強く推奨されるのです。

デジタルの環境において、私が綿密な計画(P)を否定的に捉える理由は、「まずは試してみる」ことが重要であり、それを実現する環境が整っているからです。

私にとって計画というプロセスは、「不正確で部分的な情報をもとに未来を予測する行為」と捉えています。多くのマーケティングフレームワークや統計分析手法は、このような不正確な情報をもとに、最適解に近い結果を導き出すことに焦点を置いてきました。

しかし、デジタル化が進展する中で、環境は変化しました。私はマーケティング活動において極力リサーチ手法を用いない方針を取っています。日々のマーケティング活動のPDCAプロセスを綿密に見続け、チームが実施したアクションに対する顧客リアクションを注視することで、顧客の理解や状況把握をより精度高く行うことができると考えています。

時には、このアプローチに対し、「ユーザーの理解が足りない」「顧客を理解しようとする姿勢が不足している」といった指摘を受けることもあります。私はリサーチにも一定の価値があり、答え合わせ的に状況を理解するメリットも理解しています。それでも、意図を持って行動し、PDCAサイクルを徹底的に行うことで得られるデータと洞察が、実務的で即時性のある価値を提供すると信じています。

もちろん、試してみる姿勢はいいかげんさを許容するものではありません。前回述べた「意図を持って」の基準をクリアすることが前提です。逆に言えば、Pのプロセスは、この基準をクリアするレベルの時間とリソースを投入することで十分なのです。つまり、過剰な時間をかけて試してみることで予測精度を上げようとする姿勢は、PDCAの回転スピードを妨げる恐れがあるため、マネジメントとしては必ずしも評価すべき点ではない可能性を理解しなければいけないのです。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】



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