「無駄毛」

「あっ」
職場のトイレで僕はある事に気がついた。僕の顎下。今朝剃ったはずの髭が一本剃り残しがあったのだ。

 爪を立てて抜こうにも小さすぎるせいか、抜けない。ハサミで試そうと思ったが失敗すれば苦労して内定を勝ち取った犯罪現場のような状態になってしまうかもしれない。

 胸にモヤを抱えたまま、オフィスに戻った。

 しかし、どうしても気になる。パソコンの液晶に時折、見える自分の顔と剃り残し。

 日頃から眉などの手入れをしているだろう女性社員にピンセットを持っているか聞こうとしたがあまり喋った事もないし、そもそも異性に貸したい人はあまりいないだろう。

「あの」
 すると女性社員が話しかけてきた。髭のことか。髭だ。そうに決まってる。髭の剃り忘れを指摘しにきた。終わった。いや、そんな事はない。仕事の結果で見返す。仕事の結果でだ。その為ならこの瞬間だけは嗤われてやる。いいぜ。かかってこい。
「何かな?」

「鼻毛出てるよ」
 己の視野の狭さを呪った。

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