「火炎と醜悪」

 自室の近くで凄まじい爆発音が聞こえた。あまりの音の大きさに思わず、目が硬直する。しばらくして、爆発音の呪縛が解けると僕は窓を開けて、ベランダに出た。辺りを見渡していると少し離れたマンションの一室でアパートが燃えていた。おそらくあれが爆発の元だ。

 周囲の家からは僕同様に玄関から多くの人が顔を覗かせていた。その中には呑気にスマホを取り出して、火中の家を撮影しているものまでいた。そんな醜い人間達に嫌気を感じていると消防車が現れて、消火活動が始まった。燃え盛る建物を相手に消防隊員が決死の木作業を行なっている。数十分後、火が消えた。

 しかし、僕は自分の醜さに気づいた。僕は助けなかったのだ。消防隊員が誰かが助けるであろうと過信していたのだ。僕に撮影していた人間を悪く言う筋合いはない。

 数日後、あの火事で死傷者がいないことを知った。しかし、その間も僕の心の傷は言えなかった。

 

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