「猿飲み」

 店員が慌ただしく走り回る店内。僕はカウンターで一人、酒を飲んでいた。毎週金曜日はこうして、カウンターでしっぽりと飲むのが日課だ。

 近くの席が一際騒がしい声が聞こえた。大学生であろう若いグループが酒を飲んで、はしゃいでいるのだ。酒の味を覚えたてのケツの青いガキだ。顔が若干顔抜けていない。おそらく大学一年生といったところだろう。醜い。なんとも醜いものだ。 猿そのものだ。誰だ。動物園から猿を逃したやつ。いや、違うか山から降りてきたのか。

 他の客や店員達も大学生達を見て、顔を顰めていた。

「おい!」
 賑やかだった居酒屋が一人の怒号のような声で一気に静まり返った。声の下方に目を向けると大柄な男がいた。シャツから見える刺青とサングラスと強靭な筋肉。明らかに反社だ。

「やかましいねん!ボケ! 閉めたろか!」
 反社が騒いでいた大学生達に絡んでいる。誰一人として声を上げていない。皆、恐怖で何も話せないのだ。

「帰れ! ガキども!」
 反社がさらに怒号を上げると大学生達が我先にと逃げ始めた。大学生達が消えると反社が僕や他の人に目を向けた。

「皆さん。若いやつ注意したとはいえ、声をあげてしまいほんまにすみませんでした!」
 男性が頭を下げた瞬間、周囲から拍手が湧き上がった。無論、僕も拍手をした人間の一人だ。この後、僕は男性にビールを奢った。

いいなと思ったら応援しよう!