「愚者」
「ふう。終わった」
数時間睨み合っていたパソコンから目を離した。眼球を労るように目薬を使った。
「疲れた」
喉の奥からため息混じりの言葉が出てきた。
社会人になってからどれだけのため息を吐いてきた事だろうか。大人になれば否応にも考えなければならない。
思考の頻度があまりに多すぎる。慣れはしたものの今の会社に入りたての頃は社会とは何たるかを何も学ばなかった。
何も気づかなかった。愚か者だったのだ。もっと早く気付いていれば,また別の場所にいたんじゃないかと思う。
でもこうも思う。愚かな時の方が笑えていたんじゃないかって。
そう思いながら,タイムカードを切って,会社を出た。