「非現実という現実」

小鳥の囀りで目が覚めた。実に気持ちの良い朝だ。洗面台で顔を洗って、その近くの風呂場を確認する。浴槽には妻の死体が湯船に浮いている。

 ため息が漏れる。死体の処理がめんどくさいからだ。刻んで血抜きしてから黒いゴミ袋に入れて捨てるか。車にどこかへ運んで捨てるか。色々考えてた。少なくとも葬式をする気はない。

 大体、揉めて殺した相手をどうして弔わなければいけないのか。理解不能だ。妻も妻だ。仕事仲間の女性と連絡しただけで浮気と言いがかりをつけられるこっちの身にもなって欲しいものだ。ここのところ、地震も多いしなんとも物騒な世の中だ。

 しばらくすると出勤の時間だったのでそのまま、会社に向かった。

 家に戻ると少し時間が経っているせいか死体の匂いがした。これ以上はご近所に悟られる可能性がある。僕は解体を決意した。手足をばらして、黒いゴミ袋に詰めていく。
 
 なぜ、仕事を終えた後にもう一仕事しなければいけないのか。周囲を警戒しながら車に妻の遺体を詰めて、発進させた。しばらく走って、街を離れて山の近くまできた。ここまでくれば誰にも見つからないだろう。

 僕が安堵したその時、凄まじい揺れが車内を襲った。地震だ。突然の出来事で動揺していると横から何かが崩れる音がした。横を見ると僕を飲み込もうとばかりに土砂が押し寄せていた。

 抵抗する間もなく押し流されて、僕は車ごと土砂に飲み込まれた。車のガラスが割れて、土砂が入り込んできた。土が体に付着する不快感と土砂が流れ込んでくる絶望感に胸が締め付けられる。どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか。自分の不幸を呪いながら、地に返すというばかりに押し寄せてくる土砂に飲み込まれた。


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