「恐怖の爪痕」
風呂場の中、僕は怯えていた。シャワーを浴びながら、定期的に辺りを見渡す。
ホラー映画を観た。それもとびきり怖い奴だ。
そのホラー映画でも風呂場のシーンがあったのだ。今日は風呂に入らないつもりだったがあまりの恐怖で汗を大量にかいてしまった。だから今は仕方なしに浴びている。
普段、過ごしている家がホラー映画を見ただけでお化け屋敷に変わってしまった。天井に誰か張り付いているかもしれない。湯煙の向こうに誰かいるかもしれない。排水溝の中から何かが出てくるかもしれない。そんな想像が頭をこれでもかという勢いで巡っているのだ。
シャンプーも体も秒速で済ましていく。早く済ましたからといって風呂場の外が安心なんて確証はどこにもないのにね。まあ、基本お化けなんていないんだけどね。
すると足元に違和感を感じた。何かいる。恐る恐る目を向けた。
黒光りのやつがいた。