「暴力の誘惑」
大勢の人が歩く街の中、男と肩がぶつかった。僕は非を浴びて、頭を下げたが男は執拗に絡んできた。どうするんだ。どう落とし前を取るのか。そんなことばかり聞いてくる。身長と体格もほぼ同じくらいだ。
周りの人間は見え見ぬふりだ。悪いわけではない。僕もそうする。取り替えず目の前のやつがムカつく。ぶん殴りたい。しばき回してやりたい。今こいつを殴れば、気分は爽快だ。ただ、後々面倒が待っている。それこそこれからの人生に支障をきたすほどのことが待っているかも知れない。
「おい。なにビビってんだよ?」
「ビビってはいない。呆れているんだ。肩がぶつかった程度で喚き散らかす器の小ささに」
「ああ!? うるっせえ!」
男が拳を振いあげて、殴りかかってきた。良かった。バカで良かった。僕は何度も交していく。しばらくするとパトカーがこちらにきた。その時、僕はあえて殴られた。
痛い。口内が切れる感覚が伝わった。そして、男は駆けつけた警察官に取り押さえられた。
その後、僕は慰謝料をそれなりに頂いた。暴力の誘惑に耐えて良かった。