ひなちゃん(仮名)のお誕生日
『こんにちは、ひなちゃんです!』
甲高い声。いわゆるアニメ声。
(あ〜、変な人、来ちゃったかな…?)
『こんにちは、いらっしゃいませ』
ひなちゃんはピンクの日傘をさしてやって来た。
黒のフリフリワンピースに黒いアームカバー、黒のサンバイザー、黒いマスクで顔は見えない。
完璧なUVケア。
唯一見えるのは、指先と、紫色に染めた髪の毛先だけ。
『ひなちゃん、今日お誕生日ですの!』
(え、えっ?なんて?ちゃんと聞こえなかったのと、ですの?ですのとは?)
『はい???』
『ひなちゃん、今日お誕生日ですの!』
『ああっ、そうなんですね、おめでとうございます』
『お誕生日に、宝くじ買うといいよ!って言われたんだけどぉ、ひなちゃん宝くじ買ったことないからぁ、教えて欲しいんですの!』
ガイドブックを見せながら説明を始めた。
説明途中に、他のお客さんも来る。
ひなちゃんをチラ見している人もいた。
『うん!うん!』と聞いてくれてはいるが、濃い黒のサンバイザーでひなちゃんの顔が見えない私はアイコンタクトが取れない。
(どこを見て喋ればいいのやら…困ったなぁ…)
目線を合わせられない不都合さに戸惑ってしまう。
『うーんと、うーんと、どうしよっかなぁ』
ひなちゃんの黒いサンバイザーには、営業スマイルになりきれていない、引きつったような半笑いの、なんとも情けない自分の顔が映っている。
『じゃーあ、このカードのマークシートの数字を塗りつぶせばいいってことですの?
口数と継続ってゆーのはなんですの?』
(私、どこを見て話せばいいの???)
サンバイザーに映る自分の顔に、急激に耐えられなくなってきた。
『すみません、なんか、お顔が見えないから、どこを見て話せばいいのか… なんかすみません、あはははっ』
『あーっ、ごめんなさいですの〜、ひなちゃん絶対絶対日焼けしたくないんですの〜』
『ですよね!でもちょっと、お話ししづらくて、すみません、あはははっ』
ひなちゃんがサンバイザーを持ち上げて、顔を出してくれた。
年齢当てが苦手な私の推定だと、ひなちゃんは松坂世代くらいとお見受けする。
ひなちゃんは最後までサンバイザーを上げたままでいてくれて、帰り際に、ピンク髪の可愛い魔女が描いてあるシールを私にくれた。
『お誕生日なのに、こちらが頂いてしまってすみません』
『いいんですの!バイバーイ』ひなちゃんが手を振ってくれたので、私も手を振った。
ひなちゃん、お誕生日おめでとう!
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