天国のおばあちゃんへ
あるところに、自他ともに認める、と〜ってもコミュ力の高い、宝くじ販売員がいました。
名前は、タマミーヌ。いつもニコニコしている販売員。だが、彼女の本性は、、、
食い意地の張った女。食べてばかりいる女。
「スイーツ大好きなんですぅ」とか「食べることが大好きですぅ♡」とか、そんな可愛らしい
ものではなく、色気より食い気が優先な女でした。(色気が欲しい!)
夢売りBOXで働くタマミーヌは、一部のおじいちゃん、おばあちゃんのアイドルです。
アイドルタマミーヌは、老眼も始まり、最近では、平らな道でつまずくことも増えたけど、おじい•おばあちゃんからすれば娘のような年齢。一部のお客さんにはとても気に入られているので、よく差し入れをいただくのでした。
マスクが絶対だった頃。
タマミーヌにとって、仕事中のマスクは、嫌なお客さんに対して吐いてしまう毒を隠してくれるアイテムであり、こっそり食べているときのモグモグを隠してくれる便利アイテムでした。
1人で働いているのをいいことに、仕事中のタマミーヌはマスクの下で、モグモグ。モグモグ。
カバンの中には、アメや、ちょっとしたお菓子がいつも入っています。
食い意地の張っているタマミーヌは、おばあちゃん子でした。
ことあるごとに、天国のおばあちゃんに話しかけるクセがありました。
嬉しいときや困ったとき、悲しいとき、天国のおばあちゃんに話しかけることで、気持ちを落ち着かせることができるからです。
仕事中のモグモグで、何度も失敗や粗相をしているタマミーヌ。
(おばあちゃん聞いて〜、私ったらね、こっそり食べてたお菓子が、へんなとこに入っちゃったみたいでさ、急にむせちゃって、喋れなくなっちゃったのよ〜
涙が出るくらい、むせちゃって、焦ったわ〜
おばあちゃん、あのね、熱い紅茶を鼻で吸い込んじゃったの!悶絶寸前だったんだよ〜
あまりのことに、椅子からずり落ちちゃったの!
聞いてよ!おばあちゃん!おにぎりを口に入れた瞬間にお客さんが来てね、いらっしゃいませ。が言えなくなっちゃった〜!お客さんに、お食事中ですか?って、冷たく言われちゃったんだよ!
聞いて、おばあちゃん。コーヒーにミルクを入れようとして、ぶちまけちゃったの!宝くじが無事でよかったよ〜
そのかわり、白のパンツはコーヒー色に染まっちゃったけどね!帰りが恥ずかしくてさぁ おばあちゃん、私って、ドジだよね〜)
(あ〜ぁ、上手に食べながら仕事ができる方法はないかしら…)タマミーヌは考えました。
食べ物はできるだけ小さくしてから口に入れる。
お客さんが急に来たときは、とりあえず左右どちらかの頬の内側に移動させる。(これにかぎるわ!)
不自然に膨らんだほっぺ。口にものが入っているせいで滑舌が悪くなる。
この人、なんか食べてるな!と、思われているにちがいありません。
でもそこは、〝なんでも笑顔で誤魔化す!〟を信条としているタマミーヌです。平気な顔で、しれっとしているのでした。
こんなこともありました。
タマミーヌは、お客さんの応対中にちょっと咳こんでしまったのです。
瞬間、食べていたものが、口から飛び出しました!いけない!!
窓口近くまですっ飛び、べたっと落ちたのはキャラメル。
それも、モグモグして歪な形となった茶色のキャラメル。
「ヒャッ!」急に飛んできた茶色の固形物を見て、お客さんは身を退け反らせました。
「あっ!!すみませんっ!!申し訳ございません!!」
急いで手で拾ってゴミ箱に。咄嗟に、キャラメルが落ちたところを素手で拭いて、その手をエプロンで拭いながら謝りました。お客さんは眉をひそめています。タマミーヌは恥ずかしくなって、お客さんのお顔を見ることができませんでした。
(おい!おい!私!なにやってんのよ!それにしても……なんで私、急に咳こんだのかしら?器官が弱くなってきちゃったのかも。だったら、老い!老い!よねぇ、アハハッ。
おばあちゃーん!今のは不可抗力だよね〜!
仕事中に食べるのはもうやめます!な〜んてね!私、もっと気をつけて食べるからね〜!)
『この孫娘は、、ほんっとに、なんてバカな子なんだろうか…情けない…まったく…食べてばかりで、痩せるわけないでしょ〜』
天国のおばあちゃんが、下を見て、呟きました。
〝痩せたい〟〝痩せなきゃ〟と言いながら、食い意地の張ったタマミーヌ。最近はこっそりすることもなく、モグモグしているのでした。
(呆)