御相伴衆~Escorts 第二章 第124話 皇后の過ち3~「それぞれの決意と別れ2」
しばらく経つと、病室のドアが開いた。
「耀皇子様、お待たせしました。お母様は、落ち着かれましたよ」
雫井が、顔を出し、微笑んだ。月城が察して、数馬を呼び寄せる。耀は、少し、不思議そうにしながら、雫井の手招きで、一人、病室に入っていった。
「・・・昨日、慈朗とも、話してたんですけど、雫井先生って・・・」
そう言う数馬に、小さく、月城は、頷いた。
「だが、口にはするな。ここはどこか、解るな。雫井は治療後、即刻、国外に出なければならない」
数馬は、ハッとする。皇国から見たら、雫井は、皇后を奪った異国の者として処罰を受けることになる。恐らく、それは極刑となるだろう。そして、皇后と皇子の立場も・・・。
「解りました。それは、慈朗も解ってることだと思うので・・・」
「お母様、顔色が、すごく、良くなられて、先程、目覚めた時と別人のようです」
「先生のお蔭で、良くなったのですよ、耀」
「先生、ありがとうございます。こんな母の姿は、久しぶりに見ます」
「良かったですね。お母様の生きようとする力を、この薬は援けたんです」
耀は、雫井に手を伸べる。
二人は、握手を交わした。
素白は、その様子を、目を細めて、見つめた。
そっくりの仕草で、握手をする二人、これで、親子三人の邂逅が実現したのだ。
「ありがとうこざいます。先生」
「耀、先生は、貴方の、本当のお父様です」
素白は、耀に微笑みかけた。
「え・・・?」
「貴方の、その左の黒い瞳は、お父様から頂いたものです」
耀は、雫井を見つめ直す。雫井は、頷いて見せた。
「本当に?」
雫井は、思わず、耀を抱きしめる。それは、耀にとって、初めて知った、本当の父親の温もりだった。そして、耀を見つめて、雫井は、その後悔を、口にする。
「今日、君に会うまで、このことを知らずに・・・ただ、いつか、君のお母様の完治の為、私は、東国でこの病気の治療の研究を続けてきました。今回は、そこまではできませんが、新しい薬をお持ちして、施すことができました。私の今の立場では、今は未だ、これしかできません。・・・君とお母様には、想像できない程の辛い思いを、ここまでさせたのではないかと、知らなかったとはいえ、この不甲斐ない父親を、許してほしい・・・」
「・・・」
余りの事に、耀は驚いて、雫井と母の素白の顔を見比べる。
「先生が、お父様?」
「医学的な証を立てましょうか?東国で、極秘に調べることもできますが・・・嫌、これは、無粋なことです。申し訳ない。・・・君と僕は、似すぎている」
「そう、なんですね、・・・でも、貴方が、お母様を救ってくださったんだから、・・・もう、謝らないでください。これで、いいんです。きっと・・・でも、もう・・・」
「そうです。耀。先生には、即刻、出国して頂かなければ」
「・・・?」
素白と耀は、同時に、雫井を見つめた。
「そういう国なんです。ここは」
「お会いできて、良かったです。でも、もう二度と、こちらには、来られないでください」
「・・・」
耀は、雫井から視線を外した。
これが、束の間の再会、本当の父との・・・
雫井は、ゆっくり頷いた。
「わかりました。成程、そういうことですね。それと、・・・これを・・・」
雫井は、耀に、懐から出した、一枚の名刺を渡す。
「困ったことがあったら、東国を頼りなさい。外務省に知り合いがいる」
この時、耀に渡されたのは、外交官の名刺だった。
「東国外務省 儀典官室 スメラギ皇国外交担当 卯月日女美」
他ならぬ、東国のスメラギへの窓口になる部署の者であった。
ノックの音がした。
廊下で、頃合いを見ていた、月城と数馬が入室してきた。
「病院のヘリポートに東国政府専用のヘリが来ている。そろそろ、いいか?事情は帰ってから、俺となら、ゆっくり、話せるだろうから、また、その時な」
「どうか、お気を付けて」
数馬が、丁寧に頭を下げた。
耀は、父に、決意を持って告げる。
「・・・お元気で、必ず、・・・将来、東国に行きます」
雫井は、耀の肩に手を添えて、頷く。
「いらしてください、貴方」
最後に、雫井は素白を抱き締めた。
シギノ派と、素国にこのことが露見したら、大変なことになる。
そのことを、全員が把握していた。
できるだけ早く、ここを立ち去ることが、雫井にとって、素白と、息子である、耀の為にできる、最大のことだった。
雫井はこの後、すぐ、スメラギを離れ、東国へ帰国した。
このことにより、その後、雫井はより一層、月鬼症候群の治療の為の研究に力を入れることとなる。
そして、耀皇子は、この時、いつか、自らの手で、国を変革し、東国との行き来ができるようにと、国交の正常化を目指すことを心に決めた。
二人の東国人の滞在中、その月城と雫井の話から、素白は、月城が数馬を劇団に引き抜きたい意志のあることを、陰で聞いて知っていた。
数馬は、その翌日、病床の素白に呼び出される。
「どうか、自分の道を、進んでください。月城先生について、劇団に入って、お芝居の道を究めなさい。スメラギの事は、スメラギの子の仕事です。貴方には、貴方でなくてはできないことがある筈です」
数馬は、自らが、耀皇子に言ったことと同じことを、皇后から、告げられたのだ。
月城は、二回目の舞台の演出の中に、オマージュとして、素白と雫井の二人にしか解らないエピソードを入れた。
舞台を見た素白は、それに気づいた。
数馬のフライングでの出演も成功した。
公演後、母に、耀が声をかけたその時、素白は目を伏せて、泣いているように見えた。涙でその頬が濡れていたのだ。
「お母様、素敵な舞台でしたね・・・お母様?!」
芝居が終わると同時に、素白は亡くなっていたのだ。
愛する雫井と、その子の耀との邂逅を果たした。もう思い残すことはなかったのだろう。
その晩に出国予定だった、月城歌劇団も、追悼の意も込め、滞在を伸ばす事にした。
せめて、国葬が終わるまで・・・と、数馬が懇願したからだった。
三日後、素白の国葬が執り行われた。
数馬は、この時初めて、慈朗と耀皇子に、言い出すことができなかった、月城歌劇団への引き抜きの話をする。
耀は母から、その話を既に聞いていた。
数馬が、その意志を示したら、引き止めないでやってほしいと。
耀は、数馬がスメラギから、いなくなることは、当然、寂しいことだと思ったが、母の遺言として、そうするよう、心に決めていた。
「数馬が、僕に教えてくれた通りだ。自分のできる事を、好きな事を極めてほしい」
慈朗も、解っていた。
耀から、話を聞いた時には、かなり、ショックだった。
しかし、慈朗は、思い直した。
数馬は、本当に、ここには、拉致されてきたも、同然だった。
仲間を殺され、異国の地に、たった一人、取り残された、その数馬に、僕は、随分、助けられた。
もう、いい加減に、数馬だって、自分のしたいことをすべきだ。
ここでのことは、辛いことが多過ぎたと思う。
柚葉も国へ戻った。数馬も、国に戻るのは、当然の事だ。
・・・そう、スメラギの事を為すのは、スメラギで生まれた皇子と、僕の仕事なんだ。
「今は、こんな形でしか、協力ができません。これは、ただの金じゃありません。数馬の命を譲り受ける対価ですから。皇子と慈朗君に預けます。是非、何かに役立てて、使って頂きたい」
数馬を買い上げた、とされる代金は、志芸乃に引き渡されたが、更に同額、月城から、耀と慈朗の手に渡された。
「慈朗・・・ごめん、こんな大変な時に・・・」
「大丈夫。数馬、僕と耀皇子で頑張るから、だから、数馬もお芝居、頑張ってね」
皇后素白の国葬の後、数馬は、泪ながらに、月城たちと共に、スメラギを後にした。数馬が、初めて、ここに来た日から、四年近い歳月が流れていた。
「僕は悪魔に魂を売った」につづく
御相伴衆~Escorts 第二章 第124話
皇后の過ち3~「それぞれの決意と別れ2」
ついに、数馬が、スメラギを離れる日が来ました。
確かにそうなのかもしれませんね。
「スメラギのことは、スメラギの子が為す」
牢獄のような皇宮から、月城のお蔭で、数馬は抜け出すことができました。
・・・となると・・・この続きは・・・?
希望の持てるタイトルではないようですが・・・ご期待ください。
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