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御相伴衆~Escorts 第一章 第六十二話隣国の王子編 次世代会議②

 アーギュ王子が、来室すると、それぞれが、簡略ではあるが、敬意を示す、その国特有の挨拶をした。

 民族が違う為、身長差が、明らかに見て取れる程であった。
 2メートル近い、その大柄な王子を、それぞれが見上げた。
 先程は、歓迎会で、少し離れた所で見ていた者もおり、改めて、その存在感を感じている。

桐藤キリト殿、随分、ご無沙汰しております。この度は、このような席を設けて頂いて、大変、嬉しく思います」
「やはり、以前から、思っておりましたが、随分、綺麗なスメラギ語を話されますね。ネイティブのようです」
「少し、哀愁を感じる発音がありますね。スメラギ語というのは。歌のようで、オリエンタルでロマンティックな響きのある言語だと思いますよ。好きな言語です」

 桐藤は、王子のこの言葉に、珍しいほどの笑みを浮かべた。
 まるで、自分自身が褒められたように。

「そのように、お感じなって頂き、大変、光栄に存じます。ありがとうございます」

 一同が、また、簡略に、挨拶し、感謝を示した。
 その後、その穏やかな感じに、更に、重ねるように、柚葉が、王子に声をかけた。

「どうぞ、お掛けになってください。アーギュ王子」
「ありがとう。えーと、柚葉、だったね。ああ、彼とは、何度か、社交界で、ご一緒したことがありますから。その時のように、ざっくばらんと話したいと思うのですが、皆様、いかがでございますか?」
「桐藤、良いご提案かと思いますが・・・」

 柚葉は、桐藤に伺うように話した。

「そう言って頂けると助かります。幸い、大人たちを含め、人払いをさせております。ここは、気を楽にされてください。大変、嬉しい、ご提案に思います」
「ここは、私どもが、お給仕をさせて頂きますわ」

 一の姫が、タイミングとばかりに立ち上がった。

「姫のお手ずからとは、勿体ないことですが。・・・しかしながら、これは良いことです。近代の王女の皆様は、一般の女性のように、様々なことが、御出来になられるのが、スタンダードになってきました。家臣に傅かれてばかりではなく、一人の女性として、家事や育児に勤しんでおられる方々は、多いのですよ」
「そのお言葉で、動きやすくなりましたわ。王子、ありがとうございます。数馬、慈朗シロウ、少し、お手伝い頂けますか?」
「はい」
「あ、はい」

 数馬と、慈朗は立ち上がり、グラスのあるテーブルに向かった。
 それを見て、三の姫も慌てて、立ち上がろうとした。
 すると、それを、姉姫は制した。

「あの、私は・・・」
「貴女の今日のお席は、ここです。いいですか。アーギュ王子のお隣でお話を伺っていてくださいね。とても、今日は、可愛らしいから、堂々としてらして、大丈夫よ」

 一の姫の、三の姫への耳打ちを、数馬と慈朗は、聞き逃さなかった。
 慈朗は、そっと、数馬の顔を見る。
 いつも通りに、平静に、数馬は、言われたことを進めていた。

 席は緩やかなコの字型に、一人がけのソファが、並び、設えられている。
 真ん中にアーギュ王子が座り、向かって右隣りに、桐藤と一の姫が座し、末席に数馬が座る。反対に、王子の左隣から、三の姫、柚葉、慈朗が、それぞれの同格の椅子に座る形となった。
 通訳のジェイスは、王子と桐藤の間の後ろに座している。

 アーギュ王子は、ジェイスに合図をして、立ち上がる。

「それぞれで、気に入りのお飲み物をご自由にとられたら、いかがですか?私も、手ずからさせて頂きましょう。ご説明だけ頂けますか?」

 柚葉が、すかさず、声をかけた。

「数馬、頼む」
「はい」

 この言葉に、それぞれが立ち上がり、グラスの準備に向かった。
 一の姫は、三の姫の耳元に囁く。皆の後について、ゆっくり動くようにと。
 
「はい、こちらが、スメラギのバーボン『シュメル』となっております」

 少し、屈むような形で、アーギュ王子は、数馬の顔を覗き込んだ。

「君は、ひょっとして、東国の方ですか?」
「・・・はい、そうです」
「そうですか。スメラギ語がお上手ですね。僕と同じだ。これはプチ国際会議のようですね。柚葉といい、君といい・・・」

 大らかに笑い声を立てた、アーギュ王子に、数馬は、好感を持った。

 鷹揚な方だ。さすが、次期ランサム国王の器ということだろうか?柚葉とは、昔からの知り合いなのか。今の話振りからだと、柚葉が、素国の王家の筋だということを知っている、ということだから・・・

「そんな、勿体ないお言葉をありがとうございます。・・・えーと、続いて、こちらは、・・・」

 三の姫は、言われた通りに、少しの間、ソファに座っていた。
 皆が一度に動き出したので、戸惑いながら、一の姫に促されて、席を立った。少し、早歩きで、数馬の所へ行く。
 数馬は、アーギュ王子に、バーボンのグラスを渡している所だった。

「おや、これは可愛らしい、スメラギの小薔薇(sweet rose)ですね」

 数馬は、自分の背後に、三の姫が来ていることに、王子の言葉で気づいた。背中に小さな動きで、手を触れているのを感じた。

「あ、あの、先程は、歓迎会でも、お話させて頂きました。ありがとうございました」
「楽しかったでしょうか?女美架様は、絵画に造詣が深くてらっしゃるのですね」
「絵は大好きなんです。礼拝堂だけでなく、沢山の美術館があるという、主都のランサムシティに行ってみたくて・・・あ、数馬・・・」

 二人の間に入っていた数馬は、会話が始まると、すかさず、その場を離れた。

 意図的だった。

 今の自分の立場は、あくまでも、この席のサポートであり、三の姫とのことなど、露も王子に知られてはならない。つまりは、公の立場ではない。

 慈朗は、その様子を見逃さなかった。
 公式の立場、もしくは、それに近い、この二人以外の者たちは、わざと、遠巻きにそれを見ていた。
 これが、今日の、もう一つの目的だったからだ。

 そもそも、この会を開くことにつき、第二皇妃からの許可が下りたのは、アーギュ王子と三の姫の面識を作り、今後の事を進めやすくする為の席でもある、という目的が配されていたからだった。

 これは、意図的に、桐藤が進んで、提案をしている。
 第二皇妃は、改めて、それを、桐藤と柚葉に命じた。

 ・・・皇妃は、数馬には、別の形で言い聞かせていた。

 若い者たちの気楽なパーティの中で、典型的な王子のアーギュは、自分たちと比べ、年上であり、その美しさだけでなく、品格と器を備えている。

 桐藤は、そんな王子と三の姫の、二人を見つめる。

(こんな言い方をしてはなんだか、ステレオタイプの王子の彼に、三の姫が心酔すれば・・・)

 全てはスメラギの為と見守る。
 一の姫も、妹姫の恋心の行方を知る分、多少の心の痛みを感じながらも、同様に思っていた。

 それぞれが、杯を手に、簡単な乾杯が交わされた。
 立場は非公式とはいえ、姫たちの側近という立場で、桐藤、柚葉に続き、数馬と慈朗も、同列の席にはついている。

 数馬の席からは、丁度、王子と三の姫が、目の当たりになる形となった。
 そのことに気づいた、一の姫が気遣って、時折、数馬の気を引いた。

 数馬には、それが有り難かったが、それに甘んずることなく、ここでの役割に専念した。
 渇いた杯を下げ、新しい飲み物を勧める。誰に言われたわけでもないが、如才なく動いた。

 柚葉と慈朗は、それを、何気に見ていた。

「いいよ、やらせといてあげて。ああしてるのが、楽だろうから」
「でも・・・」

 数馬を思いやる慈朗だったが、それを払拭するように、柚葉は、アーギュ王子に、話題を振った。

「アーギュ王子、そちらの王立のフォトミュージアムは、まだ、昔の作品は飾られておりますか?」
「はい、創立以来、優秀な作品については、殿堂入りということで、そのまま、展示されておりますが。珍しいですね。柚葉。君が、写真の話ですか?」
「こちらの、隠 慈朗ナバリシロウの祖父の写真が、飾られている筈なのですが・・・」

 初耳だったのか、これには、最初に、桐藤が反応した。

「そうなのか?何と言うお名前の方だろうか?」

 慈朗の絵を気に入っている姫たちが、すかさず、話に加わった。

「私も、驚きましたのよ、柚葉から、小耳に挟んでおりましたの」
「すごい、慈朗のお爺様が・・・」
「そうですか。つまりは、ナヴァリというお名前ですから、聞いたことが・・・ああ、スゥォード・ナヴァリですか?素晴らしい風景写真家ですよね?」

 三の姫が、大きく頷いて見せる。

「そうなんです。慈朗は、絵が上手くて、きっと、お爺様に似てらっしゃるのだわ」
「女美架姫様、だとしたら、それは、まさに、仰る通りだと思いますよ。慈朗殿、良かったら、絵を見せて頂けますか?場合によっては、我が王立の美術科で、学んでもいいのではと思いますよ」

 一同が湧いた。
 慈朗は、自分の話になるとは思いも寄らず、真っ赤になった。
 柚葉が、殊の外、喜んで言った。

「すごいじゃないか、いいお話だ。慈朗」
「あ・・・ああ、そんな、なんか、僕の話題など、そんな、勿体ない。もっと、大事なお話が・・・」
「大事なお話ですよ。才能のある若い方を発掘し、更に、その力を引き出そうというのが、我が国の1つのプロジェクトになっているので」

 アーギュ王子は、にこやかにそう言った。
 なるほど、という感じで頷いた、桐藤が、慈朗に目配せをした。

「良かったら、何か、お見せしたらどうだ?慈朗」
「そうですよ、慈朗」

 三の姫も、はしゃぐように勧めた。

「あ、じゃあ、・・・数馬、一緒に来てもらっていい?」

 慈朗は、数馬を見た。
 自分の話題になっていることは烏滸おこがましいという表情をしていた。
 数馬は、それをすぐ読み取った。

「ああ、わかった。少し、席を外しますが、よろしいでしょうか」
「わかった」

 桐藤が頷いた。
 すると、柚葉が、ここで立ち上がって、ドアの手前で、囁いた。

「悪いが、帰りに、つまみになるものとか、酒の少なくなっているものの補充を、そこのあかつきたちに頼みたい。あと、少し、風に当たっておいで。二人で。15分ぐらいだな」
「解った、柚葉、ありがと」

 柚葉は、数馬に、小さく笑いかけ、背を押した。慈朗には、それが、数馬への思いやりだと解っていた。
 三の姫が、背を伸ばして、二人が出ていく様子を見ている。一の姫が、それに、目配せをした。
 その時、その様子を、アーギュ王子は見て取っていた。

「王子、女美架様とは、絵画の話をされたのですか?」
「そうですね。女美架様」
「はい・・・」
「最近では、美術館巡りがしたいと申しておりまして、でも、スメラギの美術館は、全て回ってしまいましたものね」

 一の姫の言葉に、三の姫は頷く。
 にこやかに、その様子を見ている、アーギュ王子を、桐藤は見つめる。
 
 ・・・できれば、この話が、上手く進めばいいのだが・・・。

🏹🎨

「暁たちには、今、頼んできたから、帰りに、入り口で引き取ればいいね」

 数馬と慈朗は、私室に戻って、王子に見せる為の、慈朗の絵を選んでいる。

「どうしよう。急に、絵を見せてって言われてもな。何で、柚葉、僕のこととか、話すんだろう。やになったよ。恥ずかしくて」
「この席に相応しい、という印象を付けて、柚葉は、お前の立場を良くしようとしてるんだ。ランサム王立の美術学科に進めたら、好きなだけ、絵の勉強ができる。ましてや、王子の庇護の元だ。ここより、良い待遇の可能性もあるよ」
「やだ。数馬や柚葉とかと離れて、ランサムとか、言葉、わかんないとこなんて、行きたくないよ・・・それに、第二皇妃様が、お許しになるかどうか・・・」
「・・・、慈朗が、ランサムに居てくれれば、もしも、三の姫が、あの方の所に行っても、何かあった時の、相談役、みたいなのに、なれたり、しないかな・・・とか思ったりね、したんだけどさ・・・」

 数馬は、少し苦い笑顔で、冗談めかして言った。

「数馬・・・」
「ほら、絵、選んで。それこそ、三の姫のデッサンあったじゃん。俺さ、あれがいいと思うけど」
「三の姫にあげちゃったよ、それ」
「ああ、なら、水彩あるじゃん」
「まだ、仕上がってないよ」
「製作途中っていうのも、そそるもんだぜ」

 慈朗は、数馬が、わざと明るく振舞っていることに気づいていた。

「数馬・・・、なんか、ごめん」
「まぁた、謝る。・・・お前が何とかできる話なんて、あの場で一つもないんだぜ。俺も同じだし、それは、明らかな事実だけど、どうでもいい事だ。でも、お前は、あの方の一声で、人生変えて貰える。あの方は、それだけの力をお持ちだ」
「うん、それで、その論法で、数馬は言うんだ。その方の所へ行くのが、三の姫にとっても幸せだって」
「・・・流石、俺の親友だな、お前。わかってるなら、その水彩、俺も好きだ。いいと思う。三の姫らしさが出てるから」

 すると、慈朗は、その絵を、数馬から取り上げて、自分の背中に隠すようにした。

「これは、数馬にあげようと思って、書いてたんだよ」
「・・・へえ、そうなのか・・・でも、こんなん、お前だったら、いくらでも描けるだろ」
「違うんだ。この絵は、特別なやつなの。あの次の朝、とっても幸せそうにしてる姫の絵だよ、まだ、こっち空いてるでしょ。ここに数馬を並べて描こうと思ってたから、これはダメだ。数馬の為の絵だからね」

「慈朗・・・」
「最近、数馬が、前みたいな愉しそうな顔、なかなかしてくれなくて。そういう時に、下書きから描こうとしてたから。わかってるよ、数馬は、三の姫とのこと、お役目に徹していかなければならないから。それが始まってからは、あんまり、笑ってないんだ。いつも、考え事してて、悩んでる感じだったから。それが気になるから、描けなくて」
「・・・そんななのか?・・・絵を描くって」
「僕の場合は、そうかな・・・でも、写真も同じなんだって。同じ風景に対して、シャッターを押したとしても、その人その人で違う。同じ人でも、心持が自然に出てしまうんだって。お爺ちゃんが言ってた」
「色々、ありがとうな。慈朗。俺は大丈夫だ。三の姫にとって、一番良い選択、幸せになることが、一番だから。あの方なら、大丈夫だ。三の姫を大事にしてくれると思うから。もう、言うなよ。・・・えーと、じゃあ・・・」「・・うん、じゃあ、絵は僕が選ぶから、数馬は先に、暁の所に寄って、部屋に戻って」
「解った」

                       ~次世代会議③に続く~


みとぎやのメンバーシップ特典 第六十二話 
       「次世代会議②」~隣国の王子編 御相伴衆~Escorts 第一章

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 
ずっと、これまでの「数馬と三の姫編」で、二人の姿として、扉イラストにしていたのが、慈朗の大切な絵でした。慈朗はもっと、絵が上手いので、リアリティに欠けてしまって、申し訳ないのですが・・・💦


 今回の中で、慈朗のお爺ちゃんの話が出てきましたが、その話は、こちらです。振り返りで読んで頂けるとお話が深まると思います。

 これは、今更ながらなのですが・・・。

 色々とお話や、イラストを発表していますが、いずれにしても、完成度が低いのですよ。お話もその実、時系列で頭から描いていないものが多くて・・・まあ、ずっと、悩んでいるのですが。ずっと、加筆加工中かなと思いながら、進んで行っています。

 それでも良い、と来て頂いている、メンバーになってくださった皆様には、心から、感謝しています。多少なりとも、成長していけるように、今後、ずっと先かもしれませんが、そのと気が来たら、やっていけたらと思っています。

 次回、この続きをお楽しみになさってください。

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