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御相伴衆~Escorts 第一章 第七回 慈朗編③ 天国と地獄②~高官接待

「絵は、習ったの?」
「・・はい、お爺ちゃんから、ちょっとだけ」
「そうなんだ」
「もう、死んじゃったんだけど・・・」
「そうかあ、じゃ、会えないね。・・・っていうか、ここにいたら、家族にも会えないんだよね。お前たちの身分だとね」
「そうなんですか?」
「うん、柚葉ですら、多分、直接の両親には、会えないんだよね。遠縁とは言え、あの素国の王族の一人なのにね。そう、もし、柚葉が、素国の王位継承者だったら、私、ひょっとしたら、王妃になれるかも・・・」
「え・・・?じゃあ、貴女は」
「うん、まあね、でも、ここに来たこと、内緒にしてね。じゃ、お絵かき頑張ってね」
「あ・・・はい・・・」

 その方は、すごい勢いで、走って、皇宮の奥に戻っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あれから、僕が、ここに来てから、一年経った頃、数馬という、東国の芸人をしていた人が入ってきた。数馬は、僕より三歳上で、桐藤や、柚葉と同じ年で、色々な所を旅してきて、世の中を見聞してきたらしくて、何というか、人とのやり取りが上手い。そして、正しくて、弱い者を護る、強い男だ。羨ましい。何度か、僕も庇ってもらったことがある。

 僕は、相変わらず、そういうことが苦手だ。でも、時々、るなが優しく、声をかけてくれたり、御菓子をこっそり、部屋に持ってきてくれたりしてくれる。一度、聞いてみたいのだが、維羅いらはどうしたのか。元気なのかなと。なんとなく、それって、できないんだけど・・・。

 最近では、他の女官も、声を掛けてくれたり、褒めてくれる。たまに、変な感じになって、その時は内緒で、ちょっとだけ、キスするぐらいの『お仕事』をする。彼女たちだって、お妃様に知れたら、罰を受けること、解ってるから、絶対に秘密だ。でも、僕にも良い、悪いの、区別がついてきたから、逃げることもある。少し、乗り切れるようになってきた。ここまで来るのには、本当に、大変だった。特に、嫌なのは、桐藤キリトと柚葉だった。意地悪をされる。それと、ある時まで、お妃様は、僕を呼ぶと、いいことしかしなかった。でも、慣れてきて、熟せるようになると、今度は、少し、痛いことをする。必ず、咬み痕が付くようなことをする。

「悪いことをしたら、許さないからね。それを防ぐ印だからね」

 ひょっとしたら、お妃様、なにか、ご存知なのかな?当然、聞いたら、大変なことになるから、僕は、そのまま、その仕打ちに耐えている。泣くと、悦ぶからね、お妃様が。それでいいことにしている。

 先日、素国の高官たちが、視察とかいうことで、スメラギの石油コンビナートとかを見に来た。|柚葉が呼ばれた。それはわかる。柚葉は素国の出身だから。それと一緒に、何故か、僕も呼ばれた。スーツというものを、初めて着せられた。柚葉はカッコいい。お洒落で、そんな服がよく似合う。僕の服もいつの間にか、誂えられていて、柚葉がネクタイの締め方を教えてくれた。柚葉は、僕と二人きりの時は、親切で、優しく、何でも、教えてくれる。いい人だなと思っていたが、|桐藤が来ると、桐藤の言いなりになって、僕を虐めてくる。こういうのを、「手のひらを返す」というそうだ。こないだ、この話をしたら、数馬が、そう教えてくれた。その、狡いのだけが、嫌なんだ。

 スメラギの石油コンビナートという、特別な所も、初めて見た。誰でも入れる場所じゃないそうだ。その壮大さに、カメラで写真を撮りたい、と初めて思った。ここでの仕事をする人たちは、階層は、貴族の人達のすぐ下だそうだ。素国から来た偉い人達は、柚葉に対応するように、僕にも、優しく、接してくれた。柚葉に安心した旨を伝えると、静かに、微笑んでくれた。

「でもね、・・・まあ、いい、後で判ることだから」

 あ、こういう感じは、後で、とんでもない目に遭う、っていうお知らせみたいなもんで、何回か、こういうのがあって、その時、本当に、とんでもなかったから、・・・今回も、きっと、そうなんだ。

「前はね、僕と桐藤がね、この接待の担当だったんだけどね。事情があって、桐藤は、二度と、この仕事はしないんだ。僕はね、身内だからね。仕方ないんだけど」

 寂しそうな微笑み。・・・皆、僕が、泣いたり、怖がったりするのが好きだけど、クールな柚葉が、そんな感じになったら、周りの大人は、もっと嬉しいのかな?・・・なんか、悔しい気持ちになった。きっと、そうなんだ。

 柚葉の言葉から、色々と考えていたら、やはり、そうだった。

 酒席が設けられて、スメラギの政府の人達が引き、帰った後、僕と柚葉は残された。酌婦の女の人が、何人かいたが、高官たちと、少しずつ、連れ立って、部屋から出ていく。残ったのは、高官の中の一番偉い人で、柚葉と昔からの知り合いだ、と言っている人と、もう少し若い人で、軍人だという人だった。

 そうなんだ・・・、このぐらいになると、僕だって、感じが解るようになってきていた。知り合いって、きっと・・・。時々、柚葉の顔を見る。普段と変わらない顔つきで、優しい笑顔で、その年嵩の男たちの話を聞いている。頭がいいから、時々、難しい話にも、受け答えする。僕は、全く、わかんないけど、一緒に、ニコニコして、スメラギのお酒で、水割りを作っている。

「君は、学校に、行ってるのですか?第二皇妃様に、お話し致しましょうか?教育は、必要だと思いますが・・・」
「あ、いえ、この者は、皇宮で教育しているので・・・お心遣いありがとうございます」
「ありがとうございます」

 柚葉は、僕に、直接の返事をさせなかった。「他の国から、金を貰う程、僕たちは、入れ上げられてはいけない」んだそうだ。こうやって、難しい質問や、慎重に応えなければならないことは、全部、柚葉がカバーしてくれた。

 出てくる時に、お妃様が、辛そうなお顔で「今回は、女の政府関係者がいないから、まだ、いいんだけど」と僕を抱き締めた。

 あああ、まあ、もう、なんとなく、解っていたんだけどさ。まさかね。今回は、皇帝陛下が、お妃様を抑えたのだそうだ。政府の力が強く働いたんだな、と、桐藤が、しみじみした顔で、見送ってくれたんだけど・・・

 その年嵩の方の人が、トイレに立った。

「失礼します。ちょっと、慈朗、こっちに」

 軍人の一人を残し、宴会の部屋を出て、柚葉は、僕に耳打ちをする。

「どうなるか、解らないけど、もしも、今、外の方が、俺を連れ出したら、後は、自分の判断で、あの中の人に対応して、できるよね?」
「え?・・・ああ、男の人の・・・」
「ちょっと、辛いかもしれないね。俺か、桐藤と、試しとけばよかったかな・・・」
「でも、柚葉だって、」
「ああ、俺は慣れてるから、ここに来る前は、あの人の・・・だったから」
「・・・そうなの?・・・それって・・・?」
「うん、だから、俺は、あの人を知ってるし・・・。お前だって、わかるだろう?押したり、引いたりして、甘えれば、いいこともある。ごめん、俺は、政府から言われている交渉の続きを、スメラギに有利にする為のことを進める。・・・後、一押しなんだ。だから、それをしなければならない。だから、お前のカバーは、ここまでだ」
「わかったよ、・・・でも、柚葉が、そんな、大変なことを」
「それも『御相伴衆エスコーツ(Escorts)』の仕事なんだ。命懸けだよ。だから、皇宮は、この仕事から、俺を外せない。桐藤は、もう、次期皇帝候補だから、この手の仕事で、偉い人に会うことができない。顔が割れたら、今後、一大事だからね。一の姫の血筋で、皇統を繋いでいくことになりそうだから・・・ああ、余計なこと言ったね。これは数馬にも、秘密にしてね。この件は、また、教えるから、部屋に戻ろう」

「柚葉・・・」
「はい」

 戻る途中で、例の柚葉の知り合いの高官が戻ってきた。柚葉は、声の方に振り向いた。

「じゃあな、頑張れ。お前なら、できるから」

 柚葉は、そう言うと、その高官の所に、駆け寄っていった。

「あ、女の子みたいだ・・・あの柚葉が・・・」

 自分を見るような、そんな気がした。こんなの、・・・柚葉でこんなんだから・・・、あの誇り高い桐藤までもが、きっと、今まで、スメラギの為に、こんなことまで、多分、してきたんだろうな・・・。さっき、なんか、桐藤が皇帝とか・・・、

「わかったよ、柚葉、僕も『御相伴衆(Escorts)』なんだよね」

 部屋に戻らなきゃ。

                        ~柚葉編①につづく~


みとぎやの小説・メンバーシップ特典 慈朗編③ 天国と地獄②~高官接待
御相伴衆エスコーツEscorts 第一章 第七話

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 御相伴衆の役目は、皇宮内の皇族の女性のお相手以外にも、素国の石油の価格交渉時の夜の接待がありました。関係者の中のトップからのリクエストだったからです。高官接待については、皇素外交の悪習として、密かにとり行われていたものでした。
 さて、この続きは、次回から、柚葉視点に切り替わっていきます。
 お楽しみになさってください。

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