御相伴衆~Escorts 第一章 第七十四話暗澹たる日々④「被るその甘さ」
「どうかしら?今日のご機嫌は、いかがですか?」
維羅が、回診に回ってきた。
本当に、暇でしょうがない。
「動きたい。じっとしてるのは、嫌だ」
「そうよねえ。食事も、きちんととってるし。不足は?」
「だから、動きたい、走ったりしたい」
「間もなくよ。大丈夫。車椅子使って、庭に出てみますか?」
「どうせなら、松葉杖がいい、っつうか、あんまり、人に会いたくないけど・・・」
「じゃあ、診せてね。うん、腫れが引いてきた。ねえ、今日は、身体拭かない?」
「え?」
「そろそろ、臭ってきてるよ」
「お風呂は?」
「もう少しだけ、我慢かな。この支えが、取れてからがいい。数馬の場合、スポーツ選手みたいに、身体を使うわけだから、癖にしちゃ、ダメなのよ。最初が肝心。今、我慢して、完治を目指すのよ。はい、脱いで。洗面器にお湯、持ってきてあるから」
「え、いいよ、自分で、できるから」
「解ったわ。でも、背中とか、動かしにくい所はしてあげるからね」
「頭、洗いたいなあ・・・」
「解った。この奥にね、頭、洗えるとこはあるから、それは、洗ってあげるね。まずは、身体拭く」
「解ったよ。・・・あのさあ・・・」
「何?背中拭くから」
「そしたら、悪いけど、出て貰っても、いいかな?」
「恥ずかしい?私は、もう、おばさんだよ」
「え、・・・そういうんじゃなくて、年齢、関係ないから。維羅は女性だから」
「まあ、嬉しい」
「だって、お妃様より、若いんでしょ?」
「へえ、当たり。誰に聞いたの?」
「誰にも聞けないよ、維羅しか、ここに来てないから、最初の日は、皆、来てくれたけどさ。・・・なんで、出てって。終わったら、呼ぶから、そしたら、背中と、頭、お願いします」
「はいはい」
数馬が怪我をしてから、三日目となった。その実、回復が速い方だと、維羅は思っていた。
「終わったよ、お願いします」
「はいはい」
「維羅は、何歳なの?本当は」
「29歳」
「本当に?」
「なあに?おかしい?」
「もっと、若いのかと思った」
「ギリギリ、30手前なのよ」
「お医者さんになって、5年ぐらいってこと?」
「まあ、そんなもんね。はい、背中・・・」
タオルで、数馬の背中を拭く。少し、強めに拭いて、また、洗って、もう一度、拭いた。
「どうしようかな?下も拭いたの?」
「うん、だから、着替えた。下着とか、出してくれてありがとう」
「じゃあ、上は、濡れるから、このままね、この車椅子、乗れる?そこの洗髪台まで、行くから」
「・・・うーん、頭、自分で洗うよ」
「申し訳ないけど、多分、そうしたら、ここ、水浸しになるから、これは、言うこと聞いてね。世話をする人の身にもなって頂戴」
数馬は、拗ねた顔をする。しかし、素直に従った。
「わかった。なんか、恥ずかしいんだけど」
「床屋で、シャンプーして貰った事ないの?」
「ないよ。親爺が、散髪してくれたから」
「そうなんだ。はい、車椅子拡げたから、乗る」
「解ったよ・・・あっ」
「ほらあ、未だ、無理なんだよ」
ベッドから転げ落ちそうな数馬を、維羅は支えた。
「ごめん、維羅」
🏹✿
「はい、大丈夫。大人しくしとこうね。どうせ、治ったら、動けるんだから、はい、行くよ。じゃ、ここに移って、仰向けね」
「これ、始めてだ」
あ、維羅が、上から見てる。これ、見られるやつだ。
「顔に、タオルかけとく?床屋とかは、そうするけど」
「どっちでもいい」
「じゃあ、一先ず、そのままで、いいかな。お湯、出すからね」
「うん・・・あ、気持ちいんだ」
「ほらね、やって貰うと、気持ち好いものよ」
「・・・なんか、・・・」
「何?」
「なんでもない・・・」
頭、洗ってもらうなんて、本当にないな。芝居の時のセットだって、メイクだって、全部、自分でやるんだからね。
「髪の毛、多いね。うーん、汚れてるね。お湯だけで、煤けた感じのが、流れてるよ」
「落ちた時、地面に頭ついたし、そのままだったからかも・・・」
「枕カバーも換えるね」
「すみません・・・」
「ごめんね、ちょっと、そっちのシャンプー、取るから」
え・・・。うわ、今、・・・エプロンしてたのか。あのワンピースだから、よく、解んなかったんだけど・・・目の前に、維羅の・・・
「何か、言いたそうにしてるね?何?」
「あ・・・いや・・・なんでもない」
こんな風にしてもらってると、身体、すごい、近いんだな。
「はい、流すよ」
「うん、洗ってもらうの、すごい、気持ちいいんだな」
「指の力、結構、強いのよ。頭のマッサージしたから、スッキリでしょ」
「解る。ありがとう、維羅」
「コンディショナー、つけようか。本当に、綺麗な濡烏ね。パーマとか、しない方がいいわよ」
「パーマ?俺が・・・似合わねえ」
「うん、私もそう思うよ、・・・ごめん、そっちのボトルも取らせてね」
「・・・」
確実に、顔に当たった。うーん・・・
「洗い甲斐があるわね。少し、置いとこうか、パックみたいに、きっと、艶々になるよ。後で、ドライヤーもして、少し、椿油つけてあげるね。数馬は、男前だから、本当に、見甲斐があるね」
「・・・なんだよ、それ」
「モテるでしょ?」
え?・・・今、その質問?・・・うーん💦
「ん、まあ、今は、フラれたばかりだけど。昔は、ちょっと、あったかな」「そうなんだ?はい、流すよ・・・そう、恋人がいたんだ・・・」
「そう思ってたけど、皆、1回限りで」
「ん?・・・あああ、そういう基準ね」
「あ、違うの?」
「セックスした相手とのことね」
数馬は、慌てて、少し、頭を上げかけた。
「・・・わ、はっきり、言う」
維羅は、ゆっくり、数馬の肩を押して、姿勢を戻させた。
「違わないでしょう。お付き合いして、どっか行ったのが楽しかったな、とかいうかと思ってたら、回数言うんだから、それでしょ」
「変かな?」
「うんまあ、御相伴衆の子なら、変じゃない」
「え?」
「まあ、それが、君のお仕事だものね」
「・・・そんな言い方しないでよ」
「そうねえ。・・・昔、ここに来た子がね、全くの初めてというか、自分にそういう能力があるのも知らなくてね。今みたいに、数馬のこと、洗ってるみたいに、身体を洗ってやったの。髪も絡まって固まって、煤けてて、お風呂に入ることもできないぐらい、貧乏だったのね」
なんか、それって、多分、・・・
「髪を洗ったら、綺麗なアッシュブロンドで、前髪を切って、顔が出たら、びっくりする程、可愛くて、女の子みたいだった。瞳も同じ色でね。肌も、全部、石鹸つけて、流したら、ピカピカの天使が現れたのよ。本当に、天使でね、一応、栄養状態も悪いのは解ったんで、それは、ここに来たら、食事で普通に、解消されるだろうと見たのね。悪い病気になってないか、診察しながら、身体診てね・・・」
慈朗だ。多分、慈朗が、ここに来た時の話じゃないのかな・・・
「全く純粋で、何も知らなかったその子がね、今や、お妃様が離さない。君の親友のことね」
「慈朗のことだよね・・・」
「そう。・・・はい、次、ドライヤーかけるから、車椅子に移って、そう、こっち向けると、鏡見えるでしょ。・・・って、数馬が、つまんなそうにしてるから、少し、刺激のある話題もいいかな、と思ってね。早いわね。もう4年前の話ね」
「慈朗って、16だから、12歳の時からいるんだ」
「何を今更、君ももう、2年でしょ。18歳?」
「まあ、そうだけど」
「当初の事は、きっともう、ご本人、覚えてないぐらいなんじゃないかな?」
「・・・聞かなかったことにするよ」
「ちょっと、椿油、つけるね。はい、少し、擦り込むからね」
「そう言えば、シャンプー、ちゃんと、俺のだね」
「ああ、イランイランね。人を選ぶかもしれないけど、私もこれ、大好き。いい香りは、気分が上がるわね。洗ってて、気持ち良かったわ。私も」
「ふーん、」
「女はね、五感が、男より敏感なの。目で見える色の違い、細かいとこまでわかるのも、女の方なのよ。香りや、触れられた感じとか、すごい記憶する。あと、好きな人の声とかね」
「・・・」
「どうしたの?また、思い出しちゃった?」
維羅、よく喋るなあ。会話のペースが速い。
暁や月もそうだけど、それとはまた、違う感じ・・・。
「さっき、回数云々って、言ってたけど、じゃなくて、ちゃんと好きになって、思いが継続したのを、付き合ってるとか、言うの?」
「まあ、普通はね。でも、御相伴衆の君たちは、特殊過ぎるからね。その慈朗もそうだし、桐藤も、柚葉もね」
「え?」
「何?」
「維羅って、ひょっとして、皆と関わってるの?」
「そうよ。御殿医だから、身体のこと、大体、解ってる」
「えー、」
「君が最期の砦でしたね、ふふふ」
「慈朗には、教えたんだ」
「そうね。先生ね、きっと・・・うふふ・・・聞きたいんでしょ?桐藤とか、柚葉の話」
「・・・いいよ、慈朗のことも知りたくなかった」
「どう、関わってるかは、その子に拠って、違うからね」
「・・・な、なんか、維羅って」
「何?がっかりした?怖い存在?」
「ちょっと、イメージ、変わったな」
会話をしながら、数馬は車いすに戻り、ベッドまで運ばれた。
「え?どう思ってたのが、どう、変わったの?・・・はい、お帰りなさい。枕カバー換えるから、待っててね。えっと、これね。ほら、こんなに汚れてたね。これで綺麗かな。シーツは、ごめん、今、ここにないから、明日以降でいい?」
「いいけど、・・・」
「あ、そう、・・・で?どう思ってたのが、どう変わったの?」
「・・・うーん、案外、発展的だって」
「え、・・・わあ、言葉、知ってるね。学校行って、良かったんじゃない?選んだねえ。語彙力、すごくない?あ、そうか、役者さんだもんね。数馬は。はい、いいよ、捕まって、ベッドに上がって、よいしょ」
「ありがと。スッキリした、髪が気持ちいい。頭も」
「うん、男前、上がったね。そうね、言えることは、御相伴衆の中では、私は、一番、数馬がタイプだな」
「え、何、それ?」
「言った通りよ」
「あ、褒めてくれてんだ、ありがと・・・」
維羅は、くすりと鼻で笑って、数馬に微笑みながら、言った。
「・・・頭のいい桐藤より、スタイリッシュな柚葉より、可愛い慈朗より、真っ直ぐな性格で、元気がいい、数馬が好きだわ」
え・・・?
数馬は、真に受けそうになりながら、乗ってはいけないと自制する。
「・・・いいよ、そんなに、言わないでよ。俺、フラれてたんだった。だから、維羅は、慰めてくれてんだね。そんな、俺のこと・・・でも、そんなに、言わないでいいから」
「・・・そうなの?」
「無理しないで、いいよ」
「無理で言うかな?・・・そんなこと、言わないわ。言えない」
「・・・」
なんかなぁ・・・、
「ふふふ。まあねえ。伊達に、ここで、御殿医、やってないからね。色々、あるわよー、まだまだ。皆の秘密、知ってるんだから、慈朗のことはごめん。慈朗にも、心の中で謝ります。守秘義務ってやつは、一応、守ってるよ。そんな、酷い女じゃないから。じゃなかったら、とっくに、辞めさせられてるよ」
「・・・そうだな、何か、納得したけど」
「優しいんだねえ。数馬は。いい男だね」
「解った、維羅は、俺を揶揄ってる。子どもだと思って」
「・・・うーん、それね、ちょっと、あるかな・・・?」
「なんだよ、やっぱ、そうじゃん・・・」
ピピピピ・・・
維羅の携帯が鳴った。
「はい?ああ、そう、火傷ね、急いで、連れてきて。すぐ、下りますから、水道水で、冷やしてあげてくれる?じゃ、行きますから」
「どうしたの?」
「ああ、厨房で火傷したみたい、ちょっと、行ってくるね」
維羅って、何か、良い先生みたいだけど、変わってるような、でも、優しくて・・・
まずいんだけど、やけに感触、記憶してる。
結構、あったな、顔に当たってたとこ・・・
なんか、久方に、色々、新情報聞いて、学校の時みたいで。
それより、まあね、内容は、ディープなんだけどな。
・・・火傷の人、大丈夫かな?
維羅が治療したら、痛みとか楽になって、すぐ治りそうな気がするなあ。
そうかあ、ある意味、慈朗の初めてが、維羅だったのか・・・。
俺は、どうだったかな?・・・ん?どの人だっけか?もう覚えてないな・・・。初恋のあの人は、綺麗だった。何故か、桐藤見て、思い出す時がある。・・・全然、違うのにな、髪の色とか・・・、なんとなくだけど、似てる気がする。
眠くなってきた。維羅が戻ってくる頃には、俺、多分、寝てるな。
そうなんだな。
維羅は、俺が子どもだと思って、揶揄ってるんだ。
シャンプー、気持ち良かったな、・・・維羅、柔らかかったかも・・・
~暗澹たる日々⑤に続く~
みとぎやのメンバーシップ特典 第七十三話 暗澹たる日々④
「被るその甘さ」 御相伴衆~Escorts 第一章
美容院で、髪を洗ってもらうのって、至福の時だと思うんですよね。
数馬は、やっぱり、これまでしてもらったことないのだろうなぁと思いながら、この件を書きました。
維羅はまあ、なんでもやりますね。人を構うことも、嫌ではないようですね。
想像するに、数馬は人たらしな所があると思うんですね。
役者だから、人に見られて、好かれてなんぼの仕事ですから、その愛想の好さ、あと、天性の可愛げがあるのだと思います。
正義感で、人の為に動く。人情に脆く、相互扶助の精神で、袖摺り合うも他生の縁みたいな感じで、旅芸人として渡りの仕事をしてきていますから。人懐っこく、可愛くて、お姉さんたちにモテていたのも明らかです。
名実共に男前の陽遊馬。数馬が、大道芸人時代に、色々と芸を教わり、面倒見てくれていた人でした。この兄からも、女性との関わりについて、多少の施しがあったかもしれませんね。
時々、数馬は、動けない数日間、そんな仲間のことを思い出していたかもしれません。
みとぎやも、この所、床に臥せっておりました。
動きたい数馬が、動けずにいる。動けたら、辛いことも忘れられるのに・・・と、同情していました。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
次回はまた、三の姫と本殿での話になります。
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