御相伴衆~Escorts 第一章 第六十四話隣国の王子編 バルコニーでの約束①
桐藤は、席に戻り、その芸能の話に区切りがついた所で、柚葉に合図をした。
「お話が、一区切りついた所で、少し、今後の両国の話をしたいと思うのですが、いかがでしょうか?アーギュ王子」
「・・・そうでしたね。まあ、互いの国の、現在の政務官たちは、それぞれのレベルで話をしている所ですから、私達は、未来のお話ということになりましょうか?桐藤殿」
王子の上手いパスを、引き出してくれたと、桐藤は、柚葉に感謝した。
「その通りです。アーギュ王子は、次代、国王となられる、王太子であられますが故、是非、色々とお話をさせて頂きたいと思っていた所でございます」
「スメラギ皇帝一族には、今、皇太子がおられないということですね。伺っております。公式には、未だ、聞き及びませんが、一の姫様の皇統を引き継ぎ、ご婚姻による継承権が設けられるという準備がされているとお見受け致します。桐藤殿、まだ、お立場の名称でお呼びできませんが、その暁には、馳せ参じたいと存じます故、本日のような、招待状を頂けたらと思います」
「とても、ありがたく、嬉しいことに存じます。その時は、是非、ご招待致しますので、よろしくお願い致します」
「恐らく、同時期ぐらいに、お互いの国において、世代交代が発生するかもしれませんね。素国王室は、いかがな状態か、お耳に入っておられますか?柚葉」
「・・・」
アーギュ王子が、急に、柚葉に話を振ったことに、桐藤は、あまり良い顔をしなかった。
「いえ、私は、こちら、皇宮のお仲間として、ここで務めております。その為、国から離れておりますので、詳しいことは解りかねますが・・・」
「・・・そうですか」
続けて、王子は、数馬の方を見た。
「ああ、貴方は、数馬殿でしたか、確か」
「あ、はい」
こんな、国同士の未来の外交という大きな話に、なんで、俺が意見を言えるだろうか?何を聞かれるのか、数馬は不安になった。
「いえ、こちら、スメラギ皇国も含む、素国、東国、そして、我が国、ランサム王国は、世界の四大国家として、お互いに協調しあって、統べてきました。過去には、大きな戦争があり、敵対していたこともありますが、今は、そのようなこともなく、均衡を保っていると思われます。ここに、もし、東国皇室の皇太子がおられたら、と思って、ついつい、東国出身の君と目が合ってしまいました。びっくりさせましたね。申し訳ありません」
「いえ、そんな、勿体ないことです・・・」
数馬は、しっかりと、頭を下げた。
桐藤の表情が、少し固くなりつつあった。
今の進め方で行くと、主催国側のスメラギである自分ではなく、ランサムのアーギュ王子が、全てのリードを取っていることになる。御相伴衆の者には、各国の血が流れているのは、確かなのだが・・・。
「時に、アーギュ王子、この度の、皇帝陛下から、申し入れました件、どのように、お考えでしょうか?」
柚葉と、一の姫の表情が変わった。
これは、三の姫との縁談の話を、ここでダイレクトな話にするのかと。
打ち合わせとは違うようだが・・・。
「ああ、その件ですか。実は、同じような話が、各国から来ております。まだ、時期早尚かとも存じます。私自身、まだ、そのようなことは早いと考えておりますからね」
「あの、他の国からも、同様なお話が、といいますと」
一の姫が、慌てた様子で、アーギュ王子に質問をした。
「それは、申し上げられません。プライベートもさながら、国家の情報に関わりますので」
三の姫が、頭を捻って、王子の顔を見た。意味の解らない話が多くて、所在のない様子だ。
「どうか、しましたか?」
王子は、そんな三の姫に、優しく声をかけた。
「ああ、そうですわ。女美架、バルコニーに、王子と出られて、お話をされたら、どうかしら?」
これもまた、珍しい事だった。
公の場で、慌てたように発言する姉姫の姿は、御相伴衆の四人を驚かせた。
「いいですよ。お姉様は、妹様思いなのでしょうか?失礼ながら、私のような者に、期待されてらっしゃるのでしょうか・・・でも、貴女がお嫌じゃければ、その可愛らしい、イチゴのプレート、シェアしませんか?」
三の姫は、突然の、王子からの声掛けに、どう答えていいか、解らない様子だ。
桐藤は、ふと我に返り、慌てたように、周囲に指示を出した。
「慈朗、・・・あ、数馬、バルコニーに設えをして、ああ、ドアの外の暁にも手伝ってもらってくれ。柚葉、指示を頼む」
「はい」
「はい」
総員の慌てた様子に、三の姫は、まだ、理解できないようだが・・・。
アーギュ王子は、成程、と言った顔で、その様子を見ている。
暁と月が、任せてほしい、とばかりに、可愛いテーブルクロスや、バラの花瓶などを持ち込み始めた。二人は、これを見越して、ドア前で待機していたのだ。
これは、第二皇妃の仕掛けたもので、後に、一の姫もその設えに参加していたものらしいことが解った。皇宮の女性たちの、三の姫に対する、心尽くしだったのかもしれない。
「・・・早いですね。素晴らしいスタッフだ。女官のお二人を、褒めて差し上げてください。見事な動きをされますね。うちには、こんな働きのできる者はおりませんから・・・えーと、状況をご理解されてないのが、当のご本人のようですが・・・」
「あ、あの、それは、・・・申し訳ございません」
一の姫が、深々と頭を下げた。
「いいのです。ここは、僕に任せて頂ければ、事の顛末から、お話し致しますから」
「・・・忝く思います」
桐藤も、一の姫同様に、王子に頭を下げた。
「なんとなく、解ります。彼女はまだ、幼いですからね」
呆気にとられている、隣の三の姫に、王子は微笑かけた。
「では、参りましょうか?女美架様」
王子が手を差し伸べた。西の国の所作で、恭しく、また、三の姫の前に跪きながら。三の姫は、戸惑いながら、一の姫の目を見る。それに頷く、姉姫の仕草で、三の姫は、頭を下げ、アーギュ王子の手をとった。
通訳のジェイスが、王子を一度、引き止めた。一度たりとも、二度もバルコニーに出るのは、公人として、危険が伴うことを承知していたからだ。
「スメラギのセキュリティシステムを信頼している。姫がお出になられるバルコニーに、何の心配があろうことか?」
慌てて、バルコニーの側にいた慈朗が、ドアを開けた。二人は、バルコニーに出た。優雅な誘いは、柚葉のそれを超えている。ゆっくり、ドアを閉める慈朗。一瞬、全員が、ホッと安堵の目配せをする。
通訳のジェイスは、元の席に戻った。一同は、彼が全体の様子を見ていた為、それ以上、身内での話はできないことが解っている。ジェイスの役割は、ここでのことをしっかりと把握し、記憶することだった。そのことを桐藤、柚葉は理解しており、数馬も、それは感じていた。実は、沈黙して見ている従者こそが、冷静に事実を憶えているものである。
そのように、緊張感を崩さないでいるジェイスに対して、桐藤は声をかけた。
「あの、よろしかったら、少し、何か、召し上がりませんか?」
「いえ、私は、結構です。本来ならば、王子の側を離れないでいるのが、私の務めでありますが、今は、特別なお時間となりましたので、こちらで待機させて頂きます。私に構わずに、皆様は、お寛ぎ下さいませ」
そう言って、ジェイスは、バルコニーの外の王子と、三の姫の様子に目を遣った。そして、そのまま、桐藤に尋ねた。
「確認しますが。警備は、どうなって、おられますか?」
「ご心配なく。この庭にも、最新のセキュリティシステムが張られています。あと、常に軍部の見張りと巡回も怠りません。今宵は、警備を増強しておりますが故」
「解りました。万が一ですが、外部からの狙撃、発砲がありましても、恐らく、王子が、お姫様をお守り致します。王子は身体訓練もされ、防弾チョッキを着用しておりますので」
一の姫が不安な表情をした。桐藤が、大丈夫だと、それを宥めた。
「失礼ながら、こちらにお務め致しましてから、そのようなことは、一度も起きたことがございません。第三皇女様が、あのままのお姿で、バルコニーにお立ち頂いても大丈夫なのは、警備システムの実績に、信頼を置いているからです」
数馬が、すかさず、発言した。
「それは、お身内ですから、当然のことまでです」
「あのう、先程の話なんですけど・・・」
スメラギ側の全員が驚いた。
緊迫したジェイスの発言は、当然だったが、硬いままの場で、二人を待つのは、よろしくないと、誰もが考えていた。
しかしながら、ここで、慈朗が発言するとは、思っても見なかったのである。
「ジェイス様でしたよね。お話が盛り上がっていて、僕の絵をお見せするチャンスがなくて、良かったら、ご覧頂けますか?・・・僕、実は、そんなに、皆が言う程、絵が上手くないんですよ。最近は、こんなのを書いたんですけど・・・」
「いえ、私は、そちらの方は、全く無知で、拝見させて頂きましても・・・」
「だから、いいんですよ。そんな方にでも、お解りになる程度のものですから」
慈朗が、一芝居打っているのが、数馬には、読み取れた。桐藤だけは、笑いを堪えている。つまりは、桐藤は絵の内容を知っているから・・・と数馬は思った。
ふーん。そういうことか。慈朗はランサムに行きたくない。桐藤は、それを受け入れている、ということだな・・・。
「はい、これです」
慈朗は、遊びに書いた、イチゴとバナナの絵を見せた。ジェイスは、頭をひねりながら、それを見ている。柚葉と一の姫も、慈朗の意図が飲み込めたので、黙って、静観している。
「あ、これは、イチゴとバナナ、ですね。拝見しましたが、私でも解るものでございます。・・・まあ、美味しそうではありますが・・・」
凡庸な題材に、中途半端な構図、創作者の意志、意図の感じられない、学生の美術の授業の題材だ。・・・これは恐らく、お庭遊びの時の、トライフルの材料だと、柚葉は推測した。
「私は好きですよ。こういう、日常のものを何気なく描く、慈朗のスケッチが」
一の姫が言い添えた。
でも、本当は、もっと上手なのよ、と心の中で、呟いた。
~バルコニーでの約束②につづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第六十四話 「バルコニーでの約束①」
~隣国の王子編 御相伴衆~Escorts 第一章
お読み頂きまして、ありがとうございます。
沢山のキャラクターが、一つの部屋の中を動き回ります。
みとぎやの頭の中では、ドラマか、アニメさながらに、彼らが動き回り、どんな表情をし、何を考え、言葉を発しているかが明確なのですが、それを伝えるように描くのは、とても難しいなと思います。
実は、お話なので、最初は自分が満足するように、全て、台詞仕立ての話が保存されている状態です。それを推敲して、なんとか、皆さんに読んでいただけるようにしているので、一編ずつに、推敲を重ねていっています。
やはり、お話の域を超えない、小説とは烏滸がましいものだと、最近、本当に思います。なんでも良いから、自分の楽しいと思える表現として、病が少し楽になったころ、若い時にしていた創作に戻ってきた、それを更に整理して、ご紹介している感じです。
漫画も描きたいですね。イラストも描きたいのですが、本当に気分が乗らないとできないのです。切り替えが上手くできないと、多分、色々とは手を付けられないかもしれないですね。
生きている時間と、健康な身体が続くならば、時間をかけて、全ての作品のブラッシュアップをしたいと、ここで、そんな話をしています。また、それは、違う場でお話していくのかなと思います。
💖✨🍀✨💖
御相伴衆のキャラクターは、御相伴衆4人と、アーギュ王子で、若いメンバーが並び揃います。実は、みとぎやのお付き合いが長いのが、アーギュ王子なのです。彼は5代目のアーギュ・ランサムという位置づけですが、みとぎやの伽世界には、色々なアーギュ王子が存在しています。
一番の新時代のアーギュ王子、テーマソングもありますが、ご紹介に至っていません。
どうやら、女性関係にはお忙しい王子らしいですが。
次回は、若い女美架姫と、どのようなお話になるのか、お楽しみにしてください。
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