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それぞれの ①            ~守護の熱 第十六話

 季節は、五月も末となり、発表会までは、ひと月を切った。

「雅弥、ちょっといい?」

 神妙な感じで、呼び止めてきたのは、梶間だった。
 あれ?・・・今日は、小津たちと、一緒じゃないのか。

「悪い、今日、ちょっと、時間あるか?」

 水曜日だった。アルバイトは休みの日だ。なんとなく、そうしている、俺も確信犯なんだけど・・・それでも、この文化事業発表会の間は、坂の方には行かないようにしている。地域絡みの行事を進めている以上、面倒は引き起こしたくないから・・・。

「ああ、あれ、発表会の件か?」
「ん、まあ、そう、なんだけど・・・」

 やっぱり、梶間は、何か、感じが違っていた。いつもなら、周りを笑かしたり、賑やかしに徹してるんだが。

「いいけど。少しなら」
「ちょっと、相談」
「え?」
「出来れば、お前んとこ、行ってもいい?」
「・・・いいけど、珍しいな」

 梶間・・・淳は、最近は、八倉や小津と一緒にいる口だが、小学校の頃は、家に、よく遊びに来ていた。比較的、人を選ばず、皆と遊べる奴で、確か、車をへこました時も、メンバーの一人だった気がする。

 梶間は、一度家に帰ってから、俺の家へ来ることになった。最近は、同時に学校を出て、つるまないで、さっさと帰ろうとする感じが見受けられた。そのお蔭で、俺も楽に帰ることができたが。

「じゃ、後で行くから、少し、差し入れもってく」
「そんなのいいよ、なんかあると思うから」

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 梶間が来ると、明海さんが出迎えてくれて、部屋に行くように言ってくれたようだ。明海さんは、小学生の時の淳を憶えているらしかった。見た目チャラいが、明るくて、愛想がよく、礼儀正しい奴だ。

「後で、御菓子とお茶、持ってきますね」
「ああ、お構いなく」
「ごゆっくり」

 廊下をやってくるやり取りが聞こえた後、部屋の引き戸が開く。

「おぅ、お邪魔します。小学校以来だけど、この部屋、変わってねえ、懐かしい・・・」
「古い家が、もっと古くなったろう?」
「よく遊んだなあ。俺んちも、古くなったよ」
「ああ、あそこの団地だったよな」
「ボロい県営住宅だよ・・・薹部が立て替えるだの、なんか、条件つけて、自治会に言いに来てるらしい」
「ああ、この辺りの集合住宅の古いのは、軒並み、言われてるらしいな。親父が溢していた。やるなら、地元の業者に、正当な形の入札で決めて、やらせたいって」
「なんか、そういう話ばっかで、気が重いよな・・・早く、大学決めて、東都とかに住みたいよ」
「決まったら、引っ越すのか?」
「お前と同じ、一人暮らし。でも、第一希望が、水沢大だから、少し、東都寄りに行くぐらいかな」
「そうか、・・・あと、それ、一人暮らしとか、一言も言ってないんだけど、誰が、俺の未来、決めてんだか」
「あはは、雅弥はさ、典型的な地主の、真面目な息子だから、地元の希望の星なんだよ。まさに、星好きのお前らしいじゃん、あはは」
「知らないよ、そんなこと」
「はいよ、これー、懐かしの駄菓子」

 淳は、ミニテーブルの上に、持ってきた袋から、小袋の菓子を、ばら撒いた。

「あ、まだあるんだ、こんなの」
「ああ、よく食べたなあ」

「失礼しまーす」

 明海さんが、麦茶と、あんころ餅を持ってきてくれた。

「坂城のだ」
「いねえのに、存在感満載の奴~」

 二人で、声を立てて、笑った。明海さんが、優しい眼差しで、引き戸を閉めていってくれた。

「で、あれ、行事の件、上手く行ってるって、聞いてたけど、何か、あったのか?」
「・・・んー、それはいいんだけどさぁ・・・」

 珍しく、賑やかしの淳らしくなく、口籠っている。

「雅弥、お前にぐらいしか、聞けなそうだな、って」
「何を?」

 俺が見てる範囲では、今、一番、仲がいいのは、小津じゃなかったっけ?八倉にも、おべっか使ってるのも、なんとなく、雰囲気、合わせてるのは、解ってたが・・・。

「んー、こないだ感じたんだけどさ」
「歯切れ悪いな」
「言ってもいい?」
「・・・何?」
「マジ、お前、実紅ちゃんに冷たいの、なんで?」
「・・・普通にしてるだけだけど」
「あれじゃあ、可哀想じゃね?」
「なんで?」
「付き合ってるのに」
「だから、違うって、校門のとこで見てたろう?あのまんまだから」

 そんなこと言いに、わざわざ、来たのか?違うだろう?

「本当、みたい、だな」
「だから、ずっと、言ってるだろ、なんか知らないけど、周りでまた、そういう風に、勝手に、俺のことを決めつけてる。東都で一人暮らしもそうだし・・・」
「なのかあ、・・・そうかあ・・・じゃあ、・・・うーん」
「何?」
「なんとなくさあ、お前、あれ以来、感じ、ちょっと、変わったじゃん?」
「え?」
「上手く言えねえけど、変わったから、実は、実紅ちゃんとのこと、わざとああいう風にして、隠してんのかなって?」
「何を?」
「だから、お前、15日、あれだったし・・・」

 ・・・15日って、誕生日?・・・だからって、なんなんだ、また。まさか・・・。

「察しろよ」
「え?」

 ああ、なんか、探りに来た、っていうわけでもないらしい。こっちのこと、知ってるわけでもなさそうだし・・・つまりは・・・

「何か、あったか?淳?」
「あああ・・・」

 淳は、大きなため息をついた。

「・・・はあ、待ってたのか、聞いてもらうのを」
「さすが、昔からだから、俺のこと、解ってんなあ、雅弥は」

 真っ赤になってる。そういうことか。それは、小津や八倉には、難しい感じだろうなあ。揶揄からかわれて、冷やかされるのがオチだからな。

 そう言えば、皆、最近、バラバラに帰ってたな。それぞれが、準備で約束してるとかで、坂城なんかは、クッキーの試作とかで、家に来るだの、家に行くだの、言ってたけど、また、ど天然だから、自慢でもなく、真面目な感じで。あれも走って、最近は帰る。俺より、動きが速かったりするんで、ちょっと、笑った。きっと、一生懸命なんだろうな、とは、思っていたが・・・。店を使って、中村さんとクッキー作り、頑張ってるんだな。

 淳は、観念したように、話を始めた。やっぱり、担当の子との話だった。

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「こないだ、お前の帰った後、皆で、食事になったんだ。あのレストランで。一緒にグラタン食べて、ずっと、二人で話をしてた。そうそう、あの後、女子の提案で、席替えしたんだ。思うに、お前が帰って、荒木田実紅が、一人にならないように配慮したんだと思う。解り易いように、紙に書くから、なんか、書くもん、ある?」
「ああ、これ」

 裏の白いチラシと、シャープペンを渡すと、淳は、あの時の座席を書きだした。見ると、自然に、担当ペア同士で、席が取られていた。書くまでもないとも思ったが、淳の説明用らしい。

「八倉、小津、露原さん、常盤さんは一緒、その隣に、実紅ちゃんが来て、中村さんの隣の空いた元実紅ちゃんとこに、坂城が行って並んで、その坂城のとこに俺が詰めて、安季美ちゃんが、元のお前の席に来て」
「アキミちゃんって、誰?」
「あ、松山さん」
「ああ、・・・ああ、そうなんだ」

 ここまで、書いて、淳は、俺の顔をチラッと見て、黙った。察しろよ、ということ、らしい。つまりは、そういう感じなんだな。

「・・・うーん、俺が聞くんで、いいのか?その手の話」
「お前しか、言えないし、聞けない。口堅いし」
「それは、何か、聞いても、人に喋る気はないけど・・・付き合ってるのか?」
「・・・ああ、えっとお・・・」

 少しは、俺の気持ちも解っただろうが。まあ、これはデマではないからな。淳の感じが、ただならぬ感じなので、そうなんだろう。

「うん、まあ、多分、そうなる」
「いいじゃんか、頑張れ」
「突き放したような言い方だよなあ、雅弥」
「何が?応援してるから、ってことだよ」
「それがさ、びっくりしたんだ。女の子って、そういうの、どうなのかと思って」
「そういうの、って?」

 こないだの打ち合わせの翌日、会場設営用の材料の下見に行き、彼女の家で、試作品の分を買って、作ったらしい。

「ああ、見せてくれたやつだよな。よくできてた。あれを、皆でやれば、前日でも、すぐできそうだってことになったよな」
「まあ、それはいいんだけどさ」
「何か、あったんだ」
「ん、まあ」

 頭を掻いている。何等かの報告を聞いてほしい感じではないから、何か、滞ってるのか、推測はしたが。

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「ねえ、淳君は、彼女いるの?」
「え、いない、いない、そんなの、モテないから」
「えー、嘘ぉ」
「マジ、いないから」
「ふーん・・・」
「松山さんは・・・?」
「いるよ」

 淳は、やっぱりと、肩を落としかける。

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「と、いうか、いた、っていうか・・・それがさ、あっけらかんに話すんだ。元彼との話・・・大学生らしくて」

 まあ、大学生っていうと、大人っぽく聞こえるけど、俺たちも順当に行けば、来年そうだから、少し年上の先輩ってことだろうから、普通だろうし。

「聞かされたのか?相談とか」
「結果的には、別れる方向に決めたらしいんだけど」
「そうか、お前が好きなら、それで良かったんじゃないか」
「ん、まあ、別れた原因がね・・・」

こないだ、彼に呼ばれて、部屋に行ったの。そしたら、女が来て・・・

「なんか、言い方がなあ。その時、ひょっとして、松山さんって、ヤンキーかなって、思った。綺麗な顔して、サラリというんだなあって」
「つまりは、それが原因で、別れたってこと?」
「うん、まあ」
「良かったんじゃないの?で、付き合うんだ?」
「ん、まあ、そうなりそうだけど」
「何が、ひっかかってんの?」
「聞いてもいないのにさ、喋るんだ。色々と、その・・・」

 困ってるな。

「その、元彼とのこと?」
「そう」
「でも、もう過去だから、いいんじゃないの?単純に、愚痴みたいにして、聞いてほしかったんじゃないのかな?」
「よく、解んねえ。ああいうの、あんま、喋んない方がいいと思うけど」
「まあ、聴きたくないよな」
「そうだよな・・・」
「なんか、微妙に、不完全燃焼っぽいなあ、何?」
「うーん、言いづらい、でも、今後のこともあるし・・・」

 なんか、多分、似たような所にいるのかもしれない、と、思った。少なくとも、相手がいるってことは、そうなんだろうからな。なんだろうな、こちらとしても、痛くもない腹(でもないけど)探られたくはないが・・・。

「雅弥は、実紅ちゃんだと思ってたから、俺は肩透かしでさ、もう、かな、と思ってたから」
「もう、って?・・・ああ、だから、違う」

 相手がね。でも、これは言えない。
 変な感じに勘がいい所もあるからな、淳は。

「同じ質問をしてやる方がいい?」
「え、えー、だから、・・・その前段階」
「ああ、だから、なんとなく、色々と、前の奴とのこととか、気にしてるんだ?」

 前の奴か。俺の場合、あのヤクザって、ことだよな。気になるとか、ならないとか、考えてみたこともなかったし・・・淳の立場だったら、多分、気にするかもしれない。何が違うのか、よく解らないが。

「もしもさ、知ってたら、誰かに教えてほしくて、気を付けることとか」「だったら、やっぱり、聞くの、俺じゃなかったんじゃないの?」
「俺、長男だし、兄貴とかもいないし、お前、兄貴がいるから」

 えーと、なんだっけか、こないだ、兄貴と風呂の時、話したこと。

「前に聞いたのが、ゆっくり、大切に進め、って言われた」
「え?」
「ああ、付き合い方っていうか、好きなら、そうしろって」
「ああ、それって、心構えみたいなこと?」
「そう」
「・・・まあ、それは確かに」
「俺じゃあ、役不足だろ、こんなの」

 我ながら、上手いと思っているのだが・・・あ、あれは、どうかな?

「なんか、知り合いに聞いたんだけど、早めに、ベルトは外しておいた方がいいって」
「おっ、急に具体的、・・・どういうこと?」
「ああ、だから、・・・そんな感じになって、急に行くと、身体に当たって・・・」
「・・・リアルだな」

 ああ、なんか、まずかったか。バレる言い方したか・・・?

「痛がられたって、その人、言ってた」
「なるほど・・・まあ、がっつくから、そうなるんだ」
「・・・」

 まあ、そういうわけでもなかったが・・・。

 その後、どちらから、ともなく、笑った。

「出たとこ勝負じゃないの、そんなの」
「そうだよな、多分、夢中で憶えてねえかも・・・まあ」

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 その後、要は、淳の相手の子が、積極的だということを話してくれた。前の彼が年上だということで、ある程度のことは周知の経験済みだったらしく、淳は、はっきりした感じで、その相手の子から、誘われたのだという。付き合うとかの問題より、状況が突然、降って湧いたような感じで、かなり戸惑っていた。

「最後までは、まだ」

 ベルトの話は、不必要だったらしい。

「好きだ、って気持ちは後でついてきた感じ。今、結構、そっちが大変で。次、会った時、どうすればいいか、そればっか、考えてる」

 ・・・忘れてたが、そうなるのかもな。俺も、清乃のとこに行ったら、同じことを考えるし、自然とそうなるんだろうとは思うが。淳には、こっちのことは言えないが、淳のことは解ってやれる状況で良かった、と思った。

「俺としては、発表会の後にと思う。正式に申し込んで」
「それがいい。筋が通ってる」
「雅弥なら、そういうと思った。よし、腹が決まった」
「なら、良かったな」
「お前は、実紅ちゃんじゃなかったんだ。じゃ、誰?」
「え?」
「いるんじゃないのか?・・・なんか、そんな気がするんだけど・・・」「だから、いないって、そんなの、今はいいや。忙しいし・・・」

 嘘が上手くなる。
 そう、清乃の言う通り、必要悪なんだ、大事なことを護る為の・・・。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「それぞれの①」 守護の熱 第十六話

お読み頂き、ありがとうございます。
学園もので、誰が誰と付き合って、とか、そんなくだりになってきましたね。
実は、10人の子の家庭環境、家族構成等の設定をやっています。
こういう作業が面白いんですよね。ちなみに、前回の会議の記録メモも作ってみたり。そんなこともしています。
前回、グラタンで意気投合していた、淳君と松山さんの二人ですが、どうやら、女の子の方が積極的で。
淳君は、三人兄弟の長男で、弟と妹がいます。県営住宅に住んでいて、レストランでアルバイト、運動神経が良いです。基本的に、明るく、誰とでも仲良くできるタイプ。
松山さんは、しっかりもので、性格は、白黒ハッキリするタイプ。実は母子家庭で、特待生として、奨学金で、学校に行っています。お母さんは看護士で、彼女も、将来は看護士を目指しています。

そんな感じで、次回も「それぞれの②」になります。
この話の連載も長くなってきました。前段は、こちらのマガジンから、ご覧になれます。宜しかったら、お立ち寄りください。お勧めです。




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