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御相伴衆~Escorts 桐藤追悼特別編  黒茨の苑へ①~貴女の為に (第141話)

 

 その政情も、末期とされていた、スメラギ皇国において、動乱の中、彼は、若干19歳で、皇帝暗殺の汚名を着せられ、第二皇妃と共に、死刑に処せられた。

 実の両親の名も知らされず、皇帝候補として、翻弄されたまま、その努力も虚しく、若き命を散らした。

 かつての素国の石油価格交渉の席である「高官接待」にて、同胞から、それまでの柚葉への虐めに対する制裁を受けた。その時に、かつて受けたことのない屈辱を受ける。

 彼が大きく変わり始めたのは、その一件以降だったのかもしれない。




「これは、私の為に?」
「・・・ええ、そうです」

 はにかみながら、厨房から、手ずから、ワゴンを押してらっしゃる。部屋まで運ばれるというので、付き添わせて頂いた。

「良い匂いがしますね」
桐藤キリトは、雑穀スープが、お好きでしょう?」
「そうですね。忙しい時には、すぐ頂けますし、身体を温め、消化も良いです。栄養のバランスもよいですからね」
「・・・」
「姫?」

 一の姫様は、少し、寂しそうなお顔をなされた。

「お食事は、理屈では、ありませんよね?」
「ああ、姫、そうです。私は、この香辛料の香りが、好きなんですよ。少し味が引き締まるというか、胡椒や山椒、あと、香草が入ると、味のニュアンスが変わりますからね」

 すると、たちまち、嬉しそうな表情に変わられた。

「良かったです。美味しいと思って、召し上がって頂きたいから・・・」

 解りますよ。一の姫様。貴女のお考えは、意図する所、お心の動きは、手に取るように、俺には、解ります。ついぞ、機械的になりがちな俺の感覚と、生活のパターンに、貴女がお気づきになられて、ご心配されてらっしゃることも・・・。

 それにしても、こんなこと・・・貴女の手作りの料理を、食べることができる日が来るなんて、とても、嬉しいことなのですから。

「気に入って、頂けると嬉しいのだけれど」
「良い香りですね、いただきます」

 ああ、そんなに、じっと、見られると・・・そうなんですよ。
 貴女が食欲をなくされて、召し上がれない時に、俺も、そんな風に、貴女を見ていたのかもしれませんね。
 ちょっと、お返しをされてる感じも・・・。

「美味しいです。丁度良い、野菜の分量も、米のほぐれ具合も、好きな感じです」
「・・・はあ、良かった」

 そうそう、何でも、こういう時は、具体的に褒めないといけない・・・柚葉の得意技を、少し、真似てみる。

「ひょっとして、随分と、頑張られたのでは、ないですか?」
「実は・・・アカツキに、色々と教えて貰ったのです」
「成程・・・」

「暁は、流石だと思います。一つのお料理でも、皆様の嗜好に合わせて、作り分けることができるんですよ。数馬には、魚のお出汁にしてあげたりして、故郷のお味にしてあげるのだそうです。柚葉には、素国の野菜をたっぷり。ヘルシーなのだそうです。慈朗シロウは、どのお味も好きで、いずれも、沢山、召し上がるのだけど、卵がお好きなので、仕上げに卵でとじることもあるそうです。これは、女美架メミカも、好きなお味です。お母様と美加璃ミカリには、チーズを入れて、リゾットに近づけます。そして、桐藤キリト、貴方には、香辛料を工夫します・・・あ・・・ごめんなさい」

 ああ、いいのですよ。そうですね。最近では、随分、お話が多く、お喋りしてくださるようになって。

「こんなに、話し続けたら、お食事のお邪魔ですね。ごめんなさい」
「いいのですよ。姫が、愉しそうに、このようなことに、ご興味を持たれて、勤しまれてらっしゃること、俺も、とても、嬉しく思いますよ」

 真っ赤になられた。そんな、嬉しそうなお顔を・・・。
 スープも、本当に、美味いのですが、貴女が、目の前にいらして、手作りを頂けている。恐らく、市井の家庭なら、普通のことでも、此処、皇宮では、特別なことなのでしょうからね。

「とても、美味しかったですよ、姫。ご馳走様でした。ありがとうございます」
「今度は、お肉とか、お魚のお料理に挑戦しようと思います」
「愉しみにしていますよ」
「あ・・・」

 立ち上がろうとすると、あからさまに、残念そうな、お顔をされる。
 本当に、申し訳ございません。

「すみません。午後から、また、軍部にて、教練と、会議を兼ねた、講学の予定が・・・また、帰りましたら・・・」
「あ、あの、桐藤」
「・・・はい」
「今日は、体調が良いの・・・です」
「・・・わかりました。いいですよ。よく、わかりましたから」
「はい・・・お待ちしておりますから」
「では、行ってまいります」
「お気を付けて、ご無理なさいませんように」
「わかりました」

 ドアを閉め、向かいの私室に戻る。
 黒いマントを羽織り、貴賓館の小さな会議室に向かう。
 来客滞在用の部屋がついている特別室だ。
 俺は、今日から、語学研修を兼ねたレクチャーを受けることにした。

 もう、あんな思いは、二度としたくない。
 下らない。
 言葉が解らないだけで、馬鹿にされたようなものだからな。

 俺はそう、何があっても、貴女の下には、普通に、帰る心算つもりです。
 どうか、ご心配なさらないでください。


黒茨こくしの苑へ②へつづく



 御相伴衆~Escorts 桐藤追悼特別編  
                黒茨の苑へ①~貴女の為に (第141話)


 今回は、桐藤自身の話、本編中に出てくる「桐藤のノート」の話です。
 本編では、本人不在の中、ノートが、厨房の職員から、揮埜中佐に渡り、今は、次期皇帝であるはずの耀皇子の手に渡っている所です。

 そのノートが作成された頃のお話となっています。
 一の姫が、体調が良くなり、家の事などを女官の暁に教わっている頃です。他の御相伴衆のメンバーも知らない、桐藤のエピソードです。

 ここまで、お読み頂いた皆様に、深く感謝いたします。
 連載投稿、2月の頭ぐらいまで、となりますが、気になった方は、ラストまで、お付き合い頂けましたら、嬉しいです。

 
 

 

 

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