皮質脊髄路病変負荷(Lesion load of the corticospinal tract: CST-LL)。損傷部位と皮質脊髄路の重複度
📖 文献情報 と 抄録和訳
脳卒中後の運動重症度と腹側運動前野と一次運動野の皮質脊髄路病変負荷の関連性
Ito, Kaori L., et al. "Corticospinal Tract Lesion Load Originating From Both Ventral Premotor and Primary Motor Cortices Are Associated With Post-stroke Motor Severity." Neurorehabilitation and Neural Repair (2021): 15459683211068441.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, PCM (full text+)
[背景・目的] 脳卒中病変と皮質脊髄路の重なりの指標である皮質脊髄路病変負荷(Lesion load of the corticospinal tract: CST-LL)は,脳卒中後の運動予後の最も強い予測因子の一つである.CST-LLは,一般に一次運動野(M1)を起点とするCSTの確率的マップを用いて算出される.しかし,高次の運動野もCSTと運動制御に寄与する投射を有している.
[方法] このレトロスペクティブな研究では、M1のみを起源とするCST-LLを用いるよりも、さらなる運動起源からのCST-LLの評価が脳卒中後の運動の重症度とより強く関連するかどうかを検討した。
✅ 皮質脊髄路病変負荷(CST-LL)の算出方法
(1). MRI上の皮質脊髄路のマッピング:脳卒中患者のT1強調解剖学的MRI138枚とそれに対応する病変マスクをオープンソースのATLASデータベースから算出した(📕Archer, 2018 >>> doi.)
(2). MRI上の病変部位のマッピング:ANT(🌍参考サイト >>> site.)を用いてMNI152空間に登録された。
(3). 2つのマッピングの重なり度を算出:病変負荷はPALSツールボックス(📕Ito, 2018 >>> doi.)を用いて,各登録病変マスクと各関心領域(ROI)の重なりの割合として算出した
[結果・結論] 腹側運動前野(PMv)およびM1の病変負荷は,M1のみのCST-LLよりも,Fugl-Meyer評価カットオフスコアで指標化した脳卒中運動重症度と強く関連しており,高次運動領域が運動障害に臨床的関連性を付加していることが示唆された.
✅ (A) SMATTテンプレートから6つのCSTテンプレートを用いて病変負荷を算出した。(B)各組のROIとFugl-Meyerスコア(FMA_UE)の相関のコレログラム。青は負の相関、赤は正の相関を示し、小さい円は相関が小さいことを示す。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
敵を知り、己をしれば百戦危うあらず
言わずと知れた孫氏の言葉、脳画像においてもこの金言に則った戦略が構築されつつある。
これまで、自分の知識の範囲内において脳画像評価は、どこかぼんやりとした主観的なものだった。
「内包後脚に少しかかっていて、出血量が大きい。じゃあ運動麻痺は重度かな」というような感じで。
その原因は、敵と己のうち、片方しか明らかになっていなかったからだと思った。
すなわち、病変部位は定量化可能だが、当該脳部位(たとえば皮質脊髄路の画像上のマッピング)は定量化できていなかった。これまでの脳画像診断で重視されてきた(明確化が可能だった)のが「病変部位の視覚的な位置」「出血量(梗塞範囲)」といった情報に限られていたから。
これでは、どこまでいっても当該脳部位と病変部位との関わりは「Yes or No」の二択にしかならない。
そこに一石を投じたのが、皮質脊髄路病変負荷(CST-LL)だ。
これまでの解剖研究によって明らかになっているデータを用いて脳部位を定量化・マッピングして、病変部位との重なりを調べる、という敵も知り、己も知った上での戦略。
これにより、今回の研究のようにFugl-Meyerスコアなどのアウトカムとの分析可能性が飛躍的に高まる。
この方法がさらに簡易的になっていけば、脳画像分析の自動化も見えてくることだろう。
これまでの、「ぼんやりとプラス」や「ぼんやりとマイナス」といったアウトカムに対しての脳画像解析の影響力が、一気に増すかもしれない。
注視しておき、必要なインフラが整い次第、実用に移してみたい。
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