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MCID is Blackbox。計算方法の違いで7.6倍の変動

📖 文献情報 と 抄録和訳

臨床的に重要な最小限の差は、計算方法の違いによって大きく変わる

📕Franceschini, Marco, et al. "The Minimal Clinically Important Difference Changes Greatly Based on the Different Calculation Methods." The American Journal of Sports Medicine (2023): 03635465231152484. https://doi.org/10.1177/03635465231152484
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✅ 前提知識:MCID(The Minimal Clinically Important Difference Changes)の算出方法の2種類
●アンカーベース(Anchor-based methods):MCIDを算出したい指標と臨床的変化を示す別の指標(アンカー, Anchor)との関係を検討する。アンカーは、臨床結果(検査値、心理学的測定値、臨床評価パフォーマンス測定値)や患者報告アウトカム(PRO)などから得ることができる。
●分布ベース(Distribution-based methods):結果スコアの分布(Distribution)の統計的特性、特にスコアが患者間でどのように異なるかを利用する。標準誤差(SEM)/ 標準偏差(SD)/ 効果量(ES)/ 標準化反応平均(SRM)/ 最小検出可能変化(MDC)/ 信頼できる変化指数(RCI)に基づく方法などがある。

📕Mouelhi, Yosra, et al. Health and quality of life outcomes 18 (2020): 1-17. >>> doi.

[背景・目的] 患者報告式アウトカム指標(PROMs)の臨床的に重要な最小限の差(MCID)は、改善の程度と患者がそれに置く価値の両方を表現する。MCIDの使用は、ある治療法の臨床効果を理解し、臨床実践のためのガイドラインを定義し、試験結果を適切に解釈するために、ますます広まってきている。しかし、異なる計算方法にはまだ大きな異質性がある。
●目的:PROMのMCID閾値を様々な方法を適用して算出・比較し、試験結果の解釈への影響を分析する。

[方法] 研究デザイン:コホート研究(診断);エビデンスレベル、3。異なるMCID算出アプローチを調査するために使用したデータセットは、変形性膝関節症に罹患し、関節内血小板リッチプラズマによる治療を受けた患者312人のデータベースに基づくものであった。MCID値は、2つのアプローチを用いて、6ヶ月後の国際膝関節文書化委員会(IKDC)の主観スコアで計算された: 9つの方法はアンカーベースのアプローチで、8つの方法は分布ベースのアプローチである。得られた閾値を同じシリーズの患者に適用し、治療に対する患者の反応を評価する際に異なるMCID方法を使用した場合の影響を理解した。

✅ アンカーに使用した質問と回答の選択肢
"注射治療前と比較して、今の膝をどう評価しますか?"
・1=全回復、2=かなり良い、3=少し良い、4 = 変化なし、5=少し悪い、6 = かなり悪化した

✅ IKDC Subjective Scoreとは?
・IKDC質問票は、患者さんの主観的な尺度であり、総合的な機能スコアを提供するもの。質問票では、症状、スポーツ活動、膝の機能の3つのカテゴリーについて調べる。症状項目は、膝の痛み、こわばり、腫れ、ゆがみなどを評価するのに役立つ。
・IKDC Scoreは87点が満点で、得点が高いほど高レベルの機能、低レベルの症状を示す。

[結果] 採用した異なる手法により、MCID値は1.8ポイントから25.9ポイントの範囲となった。アンカー法では6.3~25.9ポイント、分布法では1.8~13.8ポイントとなり、アンカー法では4.1倍、分布法では7.6倍のMCID値の変動が見られた。IKDC主観スコアのMCIDに達した患者の割合は、使用した特異な計算方法によって変化した。アンカーベースでは24.0%から66.0%の範囲であり、分布ベースでは44.6%から75.9%の範囲であった。

[結論] 本研究では、MCIDの算出方法が異なると、その値は非常に不均一になり、ある集団においてMCIDを達成する患者の割合に大きな影響を与えることが証明された。異なる方法論で得られた幅広い閾値は、与えられた治療の真の有効性を評価することを困難にし、現在利用可能なMCIDの臨床研究における有用性を疑問視するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「なにを、見ているの?」
「なにを、しているの?」

こんな当たり前のことだけれど、ほとんどの人が本当のところを分かっていない。
そして、本当のところを分かっていないことに、気づいていない。
その必要性がないから。

例えば、“テレビ”や“YouTube”。
見ているけれど、それって、何なんですか?
なぜ、目の前に映像が流れているのですか?
その映像は、どうやってつくられているのですか?
その映像の選択肢は、どうやって決まっているのですか?

例えば、“歩く”ということ。
歩いているけれど、それって、どういう仕組みでですか?
どの関節がどうやって動いて、どう力が入っているのですか?
重力に打ちかって前に進む仕組みは、何ですか?
うまく歩くポイントは、何ですか?

ね。
ほとんどの人が、本当のところを分かっていない。
利得のある結果だけを享受し、その仕組みは、Blackbox。
ボタンだけを知っていて、そのカラクリは、覆い隠されている。
多くの場合には、それでいいのだ。
洗濯機を回すたびに、その仕組みに思いを馳せなければならない世界なんて、面倒臭すぎる。
少数の天才が仕組みをつくり、結果というボタンを世の中に提供し、世の中はボタンだけを手に生きていく。
それが、文明であり、巨人の肩に乗る、ということだろうと思う。

今回抄読した研究では、最近、飛ぶ鳥を落とす勢いの『MCID』について、重大な課題を明らかにした。

「MCIDという1つの名前の数値、実は1つじゃないですよね?Blackbox化してません?」

これ、MCIDをつくっている、少数の人間にとっては『アタリマエ』のことなんだろうと思う。
だけど、上で述べてきたように、ほとんど人間は、ただ、その結果を享受して生きている。
多くのリハビリテーション従事者だって、そうだ。
簡単にMCIDの意味や、解釈や、臨床上の使い方だけを知って、実際の患者や研究結果に応用している。
でも、今回の研究によれば、MCIDという数値は、ただのジャンルであって、特定の商品名ではない。
チョコレートというジャンルを示していて、それが明治チョコレートなのか、ブラックサンダーなのか、はたまたチロルチョコなのかは示していない。
同じ生データ(カカオ)を使っていても、色んなMCID(チョコレート商品)が出来上がる可能性があるのだ。
じゃあ、それぞれのMCIDの算出方法について熟知し、目の前のMCIDが何なのかを、逐一精査していけ、という結論だろうか。
正直、それは大変厳しい要求であると感じる。
今はただ、MCIDにもいろんな算出可能性があるから、目の前の1つのMCIDを信奉し過ぎなくてもいいかもしれない、と思うに止める。
あとは、少数の天才に任せよう…。

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