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手術(TKA)の2/3が、12週間の筋トレで延期された

📖 文献情報 と 抄録和訳

膝関節伸展筋力、症状、および手術の必要性:在宅1エクササイズプログラムによる2、4、6回/週の運動後:膝関節置換術の対象となる患者における膝関節伸展筋抵抗運動に関する無作為化用量反応試験(QUADX-1試験)

📕Husted, Rasmus Skov, et al. "Knee-extensor strength, symptoms, and need for surgery after two, four, or six exercise sessions/week using a home-based one-exercise program: a randomized dose–response trial of knee-extensor resistance exercise in patients eligible for knee replacement (the QUADX-1 trial)." Osteoarthritis and Cartilage (2022). https://doi.org/10.1016/j.joca.2022.04.001
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[背景・目的] 人工膝関節置換術 (Total Knee Arthroplasty, TKA)の適応となる患者を対象に、家庭でできる膝伸筋抵抗運動の3種類の運動量について、膝伸筋力に対する効果を検討し、さらに、運動が症状、身体機能、手術適応の判断に及ぼす影響について検討する。

[方法] TKA適応となる140名の患者を3群に無作為に分け、週2回、4回、6回の在宅膝伸筋抵抗運動セッション(それぞれ2、4、6群)を12週間にわたって実施した。主要アウトカム:等尺性膝伸筋力。副次的アウトカム オックスフォード膝スコア、膝損傷および変形性関節症アウトカムスコア、先週までの平均膝痛(0~10の数値評価尺度)、6分間歩行試験、階段昇降試験、運動継続性、および「手術の必要性」。

[結果] 一次解析。140名の患者を対象としたIntention-to-treat解析では、ベースラインから12週間の運動後まで、等尺性膝伸筋力に群間統計的な有意差を認めなかった。2群 vs 4群 (0.003 Nm/kg (0.2%) [95% CI -0.15 to 0.15], P = 0.965) と4群 vs 6群 (-0.04 Nm/kg (-2.7%) [95% CI -0.15 to 0.12], P = 0.628). 二次解析。Intention-to-treat解析では、2セッション/週と6セッション/週の間で、オックスフォード膝スコア:4.8 OKSポイント(15.2%) [1.3 to 8.3], P = 0.008) と平均先週の膝痛(NRS 0-10)において、2セッション/週群を支持する統計的有意差となることが示された(-1.3 NRSポイント(-19.5%)[-2.3から-0.2]、P = 0.018)。12週間の運動介入後、117名の患者のデータが得られた(N = 39/グループ)。38名(32.5%)の患者が手術を希望し、79名(67.5%)が手術を延期した。これは、運動量とは無関係であった。

[結論] TKA適応となる患者において、膝伸展筋のレジスタンス運動を週2回、4回、6回行った結果、等尺性膝伸展筋力にグループ間の差は認められなかった。また、等尺性膝伸展筋力の運動量反応関係も見られず、臨床的には無関係な群内変化のみであった。いくつかの副次的な結果(例えば、KOOSサブスケール)については、臨床的に関連したグループ内の変化が見られたが、これは、簡単な家庭での運動介入後に手術を受けることを決めた患者が3人に1人しかいなかったことの説明に役立つと思われる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

TKA適応のある変形性膝関節症患者の2/3は、12週間の筋力トレーニングによって延期された。とてもインパクトの大きい結果である。
そして、その延期は結果から解釈すると「疼痛軽減」によってもたらされた可能性が高い。
では、筋力トレーニングにより、なぜ疼痛が軽減するのだろう。
機序をこれまでの抄読を引用しつつ、考えてみる。

機序①:運動誘発性痛覚低下

■ 運動誘発性痛覚低下の仕組み
・神経メカニズム①ゲートコントロール理論:運動がボトムアップ型のゲートコントロール機構を解した侵害需要伝達の調整に関連することが先行文献により報告されているから、それを支持する結果と解釈。
・神経メカニズム②下降性疼痛抑制系:疼痛抑制が当該箇所より遠位に及んだことは、ゲートコントロール機構からは説明できず、トップダウン型の下降性疼痛抑制系も関与している可能性を示唆している。
■ 運動介入は薬と比較して膝OA者の疼痛軽減に効果が大きい
・直接比較した13試験(1398例)を対象とし、追加で101試験のデータを補足
・変形性膝関節症の痛みに対するNSAIDsの治療効果は、オピオイドと同程度であった
・運動療法はNSAIDsよりも大きな効果を示した
・ネットワークメタ解析では、運動療法が「最良」の介入となり、NSAIDs、オピオイド、プラセボ/対照介入がそれに続いた

機序②:筋トレによって膝関節周囲の異化傾向が減弱

■ 筋トレによって膝OAの進行を防ぐ酵素MMP-2を不活性化する
・MMP-2(matrix metalloproteinase-2)とは?:これまでの研究で、MMP-2(ゼラチナーゼA)がOAの発生と進行に関与する主要な酵素の一つであることが明らかになっている。
・MMP-2活性は変形性関節症の軟骨および関節周囲組織で亢進しており、このタイプのMMPがOA病因に関連した生物学的標的であることが示唆されている。
・MMP活性化 → 異化傾向、MMP不活性化 → 異化が抑制(同化)傾向と考えてよいだろう
・大腿四頭筋腱では、レジスタンストレーニングによりMMP-2が低下した

疾患問わず、入院している高齢者は膝OAを合併している場合がある。
そのような高齢者について、退院支援として漏れなく筋トレを処方しておくことは、TKA予防の縁の下の力持ち的な存在になっている可能性がある。
僕たちの行動に、また1つの意義を見出すことができた。

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